産邦新聞4月28日発刊分掲載コラム

みなさんは「魔の交差点」と呼ばれている交差点があるのをご存じだろうか?地元警察官はもちろん、周辺住民の必死の呼びかけなどもむなしく、毎日のように悲惨な事故が起こる交差点である。○○県○○市北区【※注釈1】にある北大正きたたいしょう交差点【※注釈2】では、一昨日にも横断歩道を横断中であった32歳のサラリーマンが、該当交差点で左折を行った乗用車にはねられ、その後直ちに病院に搬送されたもののまもなく死亡が確認される事故が起きたばかりだ。この交差点は昨月だけで23件の交通事故、11名の死者を出してしまっている、まさに魔の交差点である。いったいこの交差点で何が起こっているのか、今回取材にかかる。

まず、このように事故が多発することから「魔の地帯」などと形容される場所は、日本全国に広く存在している。交差点に限らず、踏切や駅前ロータリー、一部の高速道路、あるいはただのカーブ地帯がそう呼ばれることもある。しかし一般的には、それらの場所には明確に原因と言えるものが存在している。例を挙げれば、向かってくる対向車が死角に入りやすい立地特性を持っている、横断歩道を横断中の歩行者が自動車から見て陰に入って見えにくい位置条件をしている、信号機が運転手から視認しにくい位置にある、カーブの角度が非常に急である、などが有名であろう。

しかしこの北大正交差点は、そのような性質を何一つ有していない。非常に見晴らしのいい交差点であり、信号機も最新型のLED装備に交換されている。横断歩道上で歩行者が陰になるような場所も全くなく、天候の影響を受けるとも考えられない。事故原因の解明を行うべく地元警察官や周辺住民が何度も何度も細かく現場の検証を行っているものの、事故の原因と思われる要素が全く浮かび上がってこないのだ。この交差点に詳しい地元の警察官は、我々の取材に対しこう言葉を語った。「事故を減らしたいのは山々なんですが、原因が分からないから対策のしようもないんですよね。県警内の対策会議でいろいろとアイディアは出し合いますが、結局はみなさんの意識改善につながるよう声掛けを行うとか、ビラ配りを行うとか、それくらいしかできる手だてがない。もちろん、まだ我々には見えていない原因がなにかあるかもしれませんから、これからもあきらめずに現場の分析は続けていきます。しかし、正直難しいと思う」

警察官に限らず、この事故現場に頭を抱えているのは周辺住民も同じ様子だった。交差点の近くに自宅を構え、ドライバーや歩行者に対してボランティアで何度も声掛けを行っている43歳の男性は我々の取材に対してこう言葉を語った。「気を付けてくれ気を付けてくれって何度も何度も声掛けをしているんだが、事故は一向に減らない。ボランティアの仲間たちもおまわりさんも頑張ってくれているんだが、全く効果がないんだ。こういう言い方をするのはよくないかもしれないんだけど、もう無理じゃないのかなって思う時もある。でも、何もしないわけにもいかないでしょう?だからこれからも根気強く声掛けは行っていきますよ」

多くの人々を悲しませ、多くの人々の頭を抱えさせるこの交差点。その事故原因が一日も早く解明され、人々が安心してこの交差点を利用できる日が訪れることを切に願う。



【※注釈1】

当該記事上では伏字なしで記載されていたものの、ここでは編集部の都合により県名を伏字にて表記する。

【※注釈2】

北大正交差点という名は、公的に定められた正確な名前ではない。というのも、当該交差点には正式な名前が存在しないため、一部警察関係者や周辺住民の間でこのように呼ばれるようになったとのことである。この交差点で事故が起き、その事が地元メディアにて報道される場合、この北大正交差点という名で報道されるようだ。

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