第8話 愛してる

「ピッピッピッ」

機械音が響いている。目を覚ますと見慣れない天井が目の前に広がる。

「先生。水原さんが目を覚ましました。」

慌てた様子の声が聞こえる。

「水原さん。ここは病院です。ご自分の身に何があったか覚えていますか?」

(たしか苑立を庇ってトラックに轢かれたんだった)

頭を動かさず周りを見ても苑立の姿が見当たらない。

「今、ご家族の皆さんに連絡しますね。

もう少ししたら先生が来て詳しいことを話してくれると思います。」

そう言って看護師は病室をあとにした。

数分後先生と言われる医者が病室に入ってきた。

「水原さん。貴方はトラックに跳ねられ意識不明で運ばれてきました。1週間意識が戻りませんでした。あと少し遅ければ命はなかったでしょう。」

「あの、苑立、一緒にいた彼は今どこに居ますか?」

自分のことよりも苑立のことが気になってしょうがない。医者が曇った顔を見せた。

「彼は、、、貴方の中にいます。貴方が運ばれてきた時、彼も心臓病の発作が出ていて危険な状態でした。彼は一番に貴方のことを聞いてきました。貴方の内臓が傷付き、ドナーを探しているところだと説明すると『俺の命はあと持って1ヶ月とない。俺が先輩のドナーになりたい』そう言ってきました。考える間もなく即答で。調べてみると彼は1ヶ月前にドナー登録していました。我々は断る理由がなく彼の意思を尊重しました。」

目の前が滲む。心に冷たい何かが広がって穴が空いた気がした。(なんで、なんで、まだ気持ちを伝えてない。さよならも言えてない。どうして。ドナーなんて、、、)

一人にして欲しい気持ちを察したのか先生が病室を後にしていく。横の机に置いてあるスマホの画面が光った。

《from苑立》の文字が見えた。震える手でスマホを開く。ビデオ動画がLINEに届いていた。1週間前の日付、場所は病院だった。深呼吸をして再生ボタンを押す。

[先輩。動画を見てるってことは目が覚めたんですね。よかった。目が覚めた時、先輩の側にいなくてすいません。俺先輩に嘘ついてた。あと4.5ヶ月って言うのは延命治療をした時に生きれる時間で、俺入院するのが嫌で断ったんだ。でもそのせいで発作が起きて先輩を命の危険にさらした。こんな俺が言う資格ないけど俺、ほんとに先輩が好きです。あの時屋上で自殺が悪いことだと思わないって言ってくれて嬉しかったんだ。先輩にそう言われてそのあと親戚と一緒に病院に行ってドナー登録をしたんだ。誰かの為に生きてみたくなったんだ。でも本当の事を言うともっと先輩と生きたかった。卒業して、働いて、お酒飲めるようになったら一緒に乾杯して、顔がシワだらけになっても隣で笑っていたかった。先輩のお陰で俺、生きたいって思えることが出来た。それに先輩の中で生きていける。だから、俺をいろんなところに連れて行って、いろんな景色を見せて、いろんな先輩の姿を見せて。まぁ、一番は屋上の景色だけど。約束。愛してるよ先輩。]

席を立つ苑立。気を失っている私のそばにきて自分のはめていた指輪を私の左手の薬指にはめる。

そこで動画は終わっていた。

「蒼、」

自分のものかわからないほどかすれた声だ。

「愛してる、あいしてるよ。」

その文字を蒼とのトークルームに打ち込んだ。既読がつくわけもない。そんなこと分かってる。それでも伝えずには居られなかった。






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