第7話 最後のデート
あと5日で2学期が始まる。今日は苑立との最後のデートの日だ。今は12時を過ぎたところ。今日はお昼をとってからの集合なのでまだ時間がある。昨日の夜優菜から
「明日玲くんとのデートできて行く服の相談にのって欲しい」
と頼まれ夜中の11時近くまでラインでやりとりをしていた。でも不思議と胸が痛くなかった。むしろ今までで一番優菜に向き合ってアドバイスができていた気がする。(それもこれも苑立のおかげかな)なんて事を考えていると家を出る5分前になっていた。最終チェックをして家を出る。初めてのデートをした日よりもほんの気持ち外が涼しくなったように感じる。苑立の寿命が縮まっていることに気付かされた思いだった。
駅に着くと相変わらず苑立の周りには人が集まっている。毎回の光景にもうすっかり見慣れてしまった。
「せーんぱい!」
そう言って笑顔で私のもとに駆けつけてくる苑立。これで最後かと思うと少し寂しく感じでしまう。
「今日は映画観に行く約束でしたよね!もうチケットとってあるので早く行きましょ!」
差し出される大きな手のひらに躊躇いもなく手を重ねる。苑立の指にはめられている指輪にひんやりとした感触を覚える。
「そろそろ俺のこと蒼って呼んでくださいよ〜」
そう言ってくる苑立に対して恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。ここから4駅先の映画館があるショッピングモールに向けて電車に乗る。私を包み込むようにして吊り革につかまっている苑立。窓から差し込む日差しに透けてなびく淡い栗色の髪の毛。見れば魅るほどに引き込まれて行く。ふわっと香る爽やかな匂いはキツくなく程よい爽快感と、男性らしさがある。いつのまにか目的の駅に着いていた。
「先輩降りますよ。」
その一言がなければそのまま乗り過ごしていたかも知れない。それ程までに見惚れてしまっていた。
駅を出て数分、大道路沿いを歩くとショッピングモールに着いた。
「映画楽しみですね!俺ポップコーン何味にしようかな〜」
無邪気な声色で話しかけてくる苑立に心拍数が上がる。
「一緒にシェア出来るように違う味同士にしない?」
きょとんとした顔を向け苑立は
「先輩からそんなこと言ってくれるなんて嬉しいです」
と言って満面の笑みを浮かべた。私はキャラメル味、苑立は塩味を選んだ。チケットに書いてあるスクリーン番号と同じ劇場を探す。劇場内に入ると既に映画の番宣が流れていた。薄暗い劇場で席を見つけて二人並んで座る。
「先輩、キャラメルと塩同時に食べる塩キャラメルになってうまいよ!」
くだらないことを隣で言ってくる苑立を見ていると自然と笑みが溢れてしまう。私達が観にきたのはミステリーサスペンスの映画だ。私が気になっていると話したところ苑立が観に行こうと言ってくれた。映画が始まると思っていたよりもグロテスクな内容が流れてきてビビってしまった。そんな私を気にかけて苑立は手を握ってくれた。映画が終わるまでずっと。握られた手に集中してしまって結局映画の内容があまり入ってこなかった。今日は遅めの集合だったこともあり外に出ると空が赤くなっていた。駅に向かって歩きだす。
「先輩!映画面白かったですね〜。先輩は、ビビってたけど。可愛かったですよ。」
「ビビってないし、、、でもありがと」
可愛げのない返事しか出来ない。横断歩道が赤信号になる。
「先輩、夏休みの間ありがとうございました
そろそろ俺に、惚れました?」
(返事に詰まってしまう、言葉にしたくてもなんと言えば良いか分からない)
「先輩、顔赤いですよ??」
信号が青に変わった
「ほら行くよ」
私はそう告げて一人で歩き出す。横断歩道を渡りきったところで隣にいるはずの苑立の姿がないことに気がつく。後ろを振り向くと横断歩道の真ん中でうずくまっている苑立の姿が目に入る。信号が点滅し出した。トラックが苑立に向かって勢いよく走ってくる。苑立に気付いていないのかスピードを緩めない。気付いたら苑立を突き飛ばしていた。
『ドンッ』
鈍い音と苑立の
「せんぱいッ」
と呼ぶ声を耳に残し、私の意識は遠のいていった。
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