夏休みに入って二日目。夏休みに入ったにも関わらず現在朝の7時。何故こんなに早起きしているかって？今日は苑立と会う約束をしているからだ。10時に最寄りの駅で待ち合わせ、あと3時間もある。なんて思ったらいけない。服悩むわ、髪型悩むわ、メイク手間取るわで時間なんてあっという間に過ぎていく。準備が終わったのは家を出る5分前9時45分だった。家を出る前、鏡で全身くまなくチェックする。スカイブルーのオフショルに黒のロングスカート、髪の毛はアップにしてメイクはナチュラルな感じ。(なかなか良いんじゃない？)なんて思いつつ駅への道のりを歩く。3分前には着いたつもりだっだが先を越されていた。どこにいるのか探さなくても分かった。スラリと高い身長の整った顔、苑立の周りだけアニメの中みたいだ。近寄り堅い気持ちを察してくれたのか、私が突っ立っているだけだから来てくれたのか、おそらく後者だろうがあちらから来てくれた。

「先輩！デートプラン決めて来ました。今日は楽しみましょうね」

そう言って自然に私の手を引いて駅のホームに向かった。流石夏休みだ。いつもは空いている駅のホームでさえ人で溢れている。人に揉まれながらも目的の電車に乗ることは出来たが、案の定電車の中は満員で蒸し暑い。人混みというのに慣れていなくて少し息苦しく感じてしまう。苑立は身長高いから新鮮な空気吸ってそうなんて思いながら見つめていると、

「満員電車慣れてない？大丈夫？何かあったら言ってね」

(気にかけてくれているようだ)そう思うと少し緊張してしまった。相手は苑立なのに。

目的の駅で電車から降りるとさりげなく手を差し伸べて来て

「駅出るまでだけど逸れないように手繋ご？」

強引ではないところを見るに私の意思を尊重してくれているのが伝わってきて柄にもなくときめいてしまった。

「ありがとう」

そう言って手を差し出すと子犬のような笑顔を私にだけ見せてくれた。

歩く事数分

「先輩着いたよ！」

そう言って指を指している方を見ると

「プラネタリウム、？」

「ほら早く行こっ！」

駅から繋いだままの手を引いて苑立は中に入って行く。よほど楽しみなのかチケットを買う列に並んでいる最中ずっとそわそわしている。

「予約した苑立です」

そう一言告げてチケットを受け取った。

「えっ、予約してくれていたの？いくらだった？」

(わざわざ予約したくれていたなんて。)

「いいの、良いの。俺が払うから！今日はデート出来るだけで幸せなの。」

会場に入るとひんやりとした空気が漂っていて懐かしく感じた。(小学生以来だな、プラネタリウムなんて)苑立に着いて行くと

「ここだよ。俺たちの席」

「あの、目の前にあるのカップルシートなんだけど？」

「そうだよ。俺たち付き合ってるでしょ。何もおかしくなんかないよ。」

確かにそうなんだけど、私に何も言わずに予約したのはそういう企みがあっての事だと気づいた。寝っ転がって見るタイプのプラネタリウムで苑立と並んで横になると変に意識してしまう。照明の明かりが消え、上映が始まった。星に詳しくないので説明が流れていても私には良く分からい。分かることはただただ星が美しく輝いていること位だ。ふと苑立の方を見ると真剣な眼差しで映し出される星を見つめていた。(そんな顔も出来るんだ。)新たな一面を知ってドキっとしてしまった。上映は滞りなく進み、あっという間に終わっていた。苑立の方を見た後の内容をイマイチ覚えていない。

「先輩この後どうしますか？俺この辺のうまいレストラン沢山知ってるんで。何系食べたいですか？」

そう言いながら私の方を見る苑立は今ついたばかりの照明よりも眩しく感じてしまう。

「苑立が食べたいものにしよ。」

「じゃぁオムライスで！」

プラネタリウムを後にして数分で目的のレストランに着いた。可愛らしいレンガの建物でいかにも王道なランチスポットという感じだ。レストランに入る際、さりげなく先に扉に手を掛け開けてくれる。店内に入ってからもソファ側の席を譲ってくれて、メニューもこちらに見やすいように置いてくれる。(こういう事に慣れてるのかな、)そう思うと少しモヤっとした気持ちになった。

「注文決まった？？俺は、このハンバーグなってるオムライスにする！」

「私はホワイトソースのにしようかな。」

「オッケー。」

慣れた手つきでお店の人を呼んで私の分まで注文してくれた。(至れり尽くせりすぎて申し訳ない位だ。)運ばれてきたオムライスからは湯気が立ち上り食欲をそそる匂いがしている。待っている間に毎週デートをするなら連絡を取り合う方がいいということで連絡先を交換した。異性と連絡先を交換したのは初めてだったのでむず痒かった。今日は昼食をとって駅で解散ということになった。午後4時をすぎると電車が混むらしい。朝のことを覚えていてくれたのだろうか。帰りの駅のホームでも手を繋いでくれていた。

「家まで送るよ。先輩ともっと一緒にいたいから！」

そう言ってくれたがこれ以上一緒にいたら私が変わってしまう気がして

「大丈夫。ありがと」

それだけ言ってそそくさと帰ってしまった。

その後も毎週苑立とデートを繰り返した。

2回目は水族館、3回目はNightzoo、4回目はショッピング。どこも家からそこまで遠くなく涼しい場所や時間を考えてくれていた。ささやかな思いやりが私の心を動かしつつあることに、この頃は自分でも見てみぬふりを出来なくなっていた。