186.恥じない行いを ***SIDE王妃
文官達が自ら立案し、執事を含む管理職を巻き込んだ。内容はよく考えられており、上級使用人へ一定の権限を譲渡するものだった。今までも仕事に関する裁量はあったが、用具や資材の運用は文官達の判断に任されている。
ここを改革することは、文官の権限を減らすのと同じだ。同時に、この判断で処理する書類量が激減するはず。与えられた権利を手放し、義務を減らす考えは合理的だった。数字を弾き、さまざまな部署を監督する彼ららしい英断だ。
「許可する」
兄である宰相が淡々と署名し、許可の発言と同時に押印する。これで提案は決定事項となった。王妃でなければ処理できない書類に署名し、いつも通り箱にしまう。顔を上げた先で、文官達の表情は明るかった。疲れが見える彼らは、それでも仕事を放棄していない。
ケンプフェルト公爵、ヘンリック殿も同じだったわね。疲れていても、仕事を投げ出さなかった。彼に似て、よくできた部下だわ。
「ご苦労でした。ケンプフェルト公爵も明後日には休暇が終わり、復職予定です。交代で休暇を取りなさい」
「承知いたしました」
「ありがとうございます」
一礼して下がる文官達の驚いた様子に、首を傾げる。扉が閉まった後、兄は理由を口にした。
「レネが……いや、王妃殿下は執務室で彼らに声を掛けたことがなかったでしょう。だから驚いていたのです」
「レネでいいわ、お兄様。そうだったかしら」
書類に関する確認で話しかけた気はするが、確かに雑談は記憶になかった。ヘンリック殿に何も言えないわね。忙しさと諦めの中で、いつしか感情が薄れていたのなら。ヘンリック殿も私も同じだ。そして、これから息子カールハインツが辿る危険性のある道。
「カールが追い詰められないよう、仕事と権限の分散や移譲を急ぎましょう。手伝ってくださる? お兄様」
「ああ、もちろんだ」
夫である陛下は離宮に隔離した。もう表舞台に立つことはないし、愛人と仲良く過ごせばいい。数年してほとぼりが冷めたら。追い出す予定だった。負の遺産を長く留める利点はない。
ある程度の金銭を与えて、放逐すればいいわ。舞い戻って王位を取り返す物語も知っているけれど、王は誰かが「王である」と認めるから王様なの。皆が違うと拒否したら、王冠を被っていても王ではない。あの人に理解はできないでしょうね。それでいいわ、王の器ではなかったのよ。
あと一週間もすれば、アマーリアも歩く練習を始める。努力家で前向きで、周囲を笑顔にする友人を思い浮かべた。動かなくなった足の痛みを堪えながら、彼女は前に進むことを選ぶ。そんなアマーリアに恥じない友人でいるために、私も踏み出しましょう。
決まったばかりの権限移譲を周知する手配をしながら、他の分野でも同じ方法が使えないか検討した。まだ遊びたい若さで、国王の重責を担う息子の荷物を軽くするために。母として胸を張り「できることはしたわ」と言いたいから。
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