184.大量のお揃い購入

 ヘンリック様の注文した衣装が大量に届き、上級使用人達は大忙しとなった。お茶会用と夜会用を分類して、さらに誰の服か判断して片付ける。ところがお揃い衣装に関しては、一緒に保管した方がいいのでは? と意見が出て混乱した。


 普段使っていない二階の主寝室を、一時的に保管部屋にすることで決着する。お揃いコーデの服は、すべて一緒に運び込まれた。


「たくしゃん!」


 興奮して飛び跳ねるレオンを、エルヴィンに捕まえてもらう。業者の人にぶつかったら、お互いにケガをしてしまうわ。ヘンリック様は嬉しそうだけれど、いったい何着注文したのかしら。途中から数えるのも諦めてしまった。あとでイルゼかフランクに聞いてみましょう。


「あら、忘れていたわ」


 いつもは社交をしないお父様も、即位式の欠席はできない。納品中の店主に、お父様の衣装を追加で発注した。夜会用なのであまり見窄らしい格好もできないわ。あれこれと手配し、一息ついたのはお昼過ぎだった。


「王宮にお伺いするのは、即位して一ヶ月くらい経ってからがいいわね」


「なぜだ?」


「え……っと。あちらも慌ただしいだろうし、落ち着いてからがいいと思ったの」


 心底不思議そうなヘンリック様の問いかけに、私はしどろもどろに理由を伝える。結婚式後や新築のお祝いもそうだけれど、騒ぎが一段落してからの方が助かるはず。マルレーネ様も同じだと考えた。


「式の準備は、文官や儀礼担当の神官が行う。当人達はのんびりしたものだ」


 見てきたように話すヘンリック様は、王族の結婚式にも出ている。自らも準王族として儀式に出ることが多かったので、経験者として話したみたい。儀式は面倒な手順が多いから、専門の知識を持つ神官や文官が必要なのかも。


 一般家庭と比較してはいけなかったのね。


「侍女や侍従も大勢いる。主役である王族が動き回ることはないだろう」


 なるほど、納得した。屋敷の掃除や料理を、それぞれ担当する使用人がこなす。公爵夫人となった私が作業することはない。それと同じね。貧乏伯爵家の時は、自分で全部行ったわ。実は洗濯とか得意なのよ。


「でしたら、少ししたらお伺いを出しましょうか」


 当事者が何も準備をしないなら、多少は時間があると思う。そんな思いで、お伺いを出そうと提案した。忙しければ、今は無理と返事があるはずよ。


「……いや、マルレーネ王妃から手紙が来ているぞ」


 驚いた私に差し出されたのは、確かに王家の封蝋がされた封筒だ。開封された手紙を取り出し、さっと目を通した。遊びにいらっしゃいな、そんな意味合いだった。


「何を着ていこうかしらね」


 購入したばかりで、色も形も不明のドレスを思って天井を眺める。即位式までに、歩く許可が出るといいけれど。ちらりと足を見て、頭の中で予定を確認した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る