165.彼女のおかげだ ***SIDE公爵
王宮から届いた手紙を、妻に見つからないよう処理した。はずが、バレていた。あの手紙は誰からか、と問われる。緊張しながら、王妃殿下だと答えた。
陛下からではないし、君に来た手紙は処理済みと伝える。いまいち納得していないようだが、彼女は引き下がった。ベルントによれば、俺を信用して追及を我慢しているのだろうと。そう言われると、本当のことを言いたくなる。だが、すべてが決まるまで秘密だ。
少なくとも、引き返せない状況になるまで。国王陛下を追い込む。俺は絶対に許さないし、王妃殿下も同じ意見だった。
今回、王妃殿下と話すまで深く考えなかったが、俺は国王陛下のサポート役として育てられたのではないか。その疑惑が消えない。先代王は血を繋ぐことに固執していた。しかし、息子は何もかも足りない陛下一人だけ。
一般的に考えて、王子に素質がなければ別の方法を選ぶ。血を濃く受け継ぐ公爵家から、有能な子を養子に取ればいい。だが血を残したい先代王の意向が強く働き、未来の王妃に外交をすべて託そうと考えた。内向きの采配は、育てた誰かにやらせればいい。その誰かの部分に、公爵家の俺はぴったりだろう。
愚かな父母は俺を放置し、祖父母は早くに亡くなった。残された公爵家の跡取りを、自分達に都合がいいように育てたら? ぞっとした。もしレオンに同じことをされたら、と思うだけで怖気が走る。
俺への教育は水準が高く、範囲も広かった。王族でもないのに、他国の歴史や系譜まで覚える。帝王学を修め、国の経済を動かす仕組みを学んだ。今にして思えば、あれは公爵家ではなく王家の教育だ。王妃殿下も同様に、厳しい教育を受けた。多国言語を習得して、外交手腕を身につける。
すべて、足りない陛下の穴を塞ぐため。彼をサポートして国を存続させるためだ。先代王の目論見通り、今度は優秀な王子がいる。第一王子殿下は学問や剣術に秀で、礼儀作法も立派だった。ならば、もう陛下は不要だ。
足りない部分を支えるのは、今までと同じなのだから。頭を交換するだけの話。この点でも王妃殿下と見解が一致した。騒動の尻拭いはもうごめんだし、友人となったアマーリアに嫌われたくないそうだ。俺だってアマーリアと一緒に過ごす時間を作りたいし、好きになってほしい。
以前は特に何も思わなかった文官や俺の仕事環境も、今になれば異常だったとわかる。一度離れて冷静になったから、判断できた。そのきっかけをくれたのは、アマーリアだ。
レオンも懐いて、今では本当の母子だった。俺も加わって、堂々と家族を名乗りたい。父親として、我が子の幸せを願う気持ちも生まれた。義父上や弟妹もいる。今の幸せを維持するため、俺はあらゆる手を尽くす。先代王が優秀だと認めた能力を遺憾なく発揮してみせよう。
窓の外へ目を向ける。手元の返信は封をして、ベルントに発送を依頼すれば終わりだった。
「アマーリア、レオン」
結婚当初、蔑ろにしてしまった彼女は、俺に歩み寄ってくれた。寂しい思いをしたレオンも、笑顔を向けてくれる。与えられたのだから、維持する努力くらいは俺の担当だな。ベルを鳴らして立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます