166.これは決定事項よ ***SIDE王妃
「マルレーネ、その話は……」
「私は王妃ですよ、フェアリーガー侯爵」
ピシャリと冷たく突き放した。王族が私的に使う応接室ではなく、王妃として使う執務室へ呼び出した。この部屋に侯爵の娘はいない。私は王妃なのだから。革張りの椅子に腰掛け、見下ろすように高慢に返す。
「申し訳ございません、王妃殿下」
宰相を務める兄は無言だった。前回かなりキツく彼に言い渡したもの。彼なりに色々と調べたようね。ケンプフェルト公爵に任せっきりだった内政問題に関しても、反省してもらわないと。
「先代王の側近であったフェアリーガー侯爵は、予想がついたはずよね。陛下があまりに無能で、周囲に迷惑を掛けている状況を……まさか、知らない顔は出来ないでしょう?」
知っていて当然、知らないならお前も無能だ。実父に厳しく問う。先代王の側近だったからこそ、私の人生が犠牲にされた。それだけなら、王妃という地位の代償と諦めも付く。だが、ケンプフェルト公爵は別だった。
何も知らない彼に、洗脳のように忠誠心を植え付ける。ただ王族に従うだけの、都合がいい優秀な労働力として。彼や私が気づかなければ、使い潰そうとした。許せるはずがなかった。ただ一人の無能を王にするために、二人の人生が終わるところだったのよ。
王の側近を務める侯爵家の令嬢に生まれ、政略結婚だと言われれば受けるのが義務よ。そこに異論はないわ。でも王になるなら、陛下にも相応の技量や知識が必要になる。その義務を課さず、権利のみを与えた。結果、阿呆が頂点に立つ。
王女の件がなければ、アマーリアという掛け替えのない友人を得なければ、私は諦めていた。あの男の添え物として、政略結婚の駒で終わる。それを嫌だと思ったの。胸を張って、彼女と対等に話がしたい。誇れる友人でいたかった。
だから、私は反旗を翻すの。
「だが、約束通りお前……いや、あなたは王妃殿下の地位に就いた」
「望んだことなどないわ」
驚いた顔をする父は、私が王妃を望んだと思っていたの?
「無能で、自分勝手で我が侭。一人で何も出来ないくせに、他人にやらせた功績だけを誇る。自分の力と勘違いし、驕るだけの男の妻で恥ずかしいと、そう思った記憶しかないわ」
「まさか……」
王妃は貴族夫人の頂点だ。でも私は別に地位を望まなかった。友人と遊びながら過ごし、身の丈にあった貴族家に嫁ぎ、幸せに暮らしたかったの。その望みを捨てたのは、王太子妃教育が始まったから。未来の王妃に定められた瞬間、私の自由は消滅した。
「私にもう、陛下を支える気はありません。譲位して表舞台から消えていただくつもりよ。邪魔をするなら、フェアリーガー侯爵家ごと潰すわ」
敵対宣言に動揺する父と逆に、兄はきゅっと唇を引き結んだ。無言で頭を下げ、恭順の意を示す。
ふと思い出が過った。王太子妃教育で忙しい私に、遊んでほしいと強請った兄……数回断ったら、悔しそうに涙を堪えて睨んでいたこと。私と同じ、あなたにも我慢をさせたのね。
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