112.契約違反ではない、わよね?
午後も勉強するお父様やエルヴィンと別れる。双子は仲良く庭へ飛び出した。雨が降ったら帰ってくるでしょう。特に心配はしない。レオンはすぐに眠くなり、今日は早めにお昼寝の時間にした。
「目を擦ってはダメよ」
眠くなって、手で目元を擦るのは子供がよくやるけれど。気をつけないと傷になったり、汚れが入ったりする。掴んでやめさせ、ハンカチを当てた。欠伸をするレオンの靴を脱がせ、シャツを緩めて横たわらせた。ほぼ毎日なので、慣れている。
いつもなら隣で本を読んだり、屋敷の管理書類を確認したりする時間だ。
「アマーリア」
「はい、ヘンリック様」
「……その……」
何かご相談でもあるのかしら。首を傾げるが、この部屋から出てしまうのは困る。入り口で話すのもおかしいので、部屋の中に招いた。なぜかフランクとベルントが嬉しそう。夫婦なので問題ないと思い、扉も閉めた。室内にいる使用人は侍女マーサだけ。
「疲れて、ないか」
「平気ですわ」
「あ、その……」
ヘンリック様は困ると「あの」や「その」を多用する。レオンが「あのね」や「えっと」を使うのと似ているわ。ふふっと笑って先を促した。どうぞ、いいや、を二回繰り返す。
「昼寝を……しないか」
「……はい、どうぞ?」
なんだ、レオンとお昼寝がしたかったのね。にこにことベッドを勧める。一緒に歩いてきたヘンリック様が「失礼」と一声かけ、私を抱き上げた。驚いて声も出ない間に、ベッドに降ろされる。レオンを挟んだ反対側に回り込み、ヘンリック様がベッドに座った。
え? 三人で横になりたいの? でも母親役として契約結婚したのだから、これもお仕事なのよね。契約違反ではない、はず。だからおかしくないわ。ドキドキする自分に言い聞かせ、目を閉じた。部屋にはマーサもいるし、問題はないはずよ。
ヘンリック様の視線を感じながら、深呼吸して天使を数える。レオンが一人、レオンが二人……やだ、そんなの素敵だわ。考えが逸れたら、いつの間にか眠っていたらしい。
夕方のベッドで、三人が川の字で並んでいる。一番最後に起きてしまい、慌てて飛び起きた。心臓に悪いわ……そう思ったのも二日目まで。三日目には慣れて、四日目に王宮から使者が来た。
国王陛下が正式に謝罪なさる、と。手紙を読んだヘンリック様は、返信を認めた。
呼び出しの日時が早すぎるから、やり直しですって。陛下は一日でも早くヘンリック様に復帰してほしいのね。
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