111.普段通りが難しい

 いつもと同じスケジュールで構わないと言われ、午前中は勉強部屋へ向かう。レオンは皆からもらった返信を綺麗に並べ、何か歌らしきものを口遊んだ。聞いたことがない曲だから、作曲したのかしらね。


 お父様の提案で、一枚ずつ台紙に貼り付ける。私も手伝い、向かいのヘンリック様も手を貸してくれた。手紙を貼り付けた台紙を本のように綴じる。この作業はお父様がささっとこなした。小さい頃の双子がよく本を破いたから、直すのが上手になっちゃったのよね。懐かしさに口元が緩んだ。


 不思議そうなヘンリック様に、実は……と過去の話をする。すでに二階の滞在で事件を起こしているため、ヘンリック様もすんなり納得した。レオンはお父様の手元を、じっと見つめている。


「じぃじ、しゅごいね」


「たくさん修理しましたから」


 ふっと笑うお父様の後ろで、双子は珍しく文字の練習に夢中だ。違うわね、聞こえないフリをしているだけみたい。だって顔は上げないのに、手も動かないんだもの。バツが悪いのでしょう。


 一冊に綴じた手紙は、レオンの宝物として部屋に片付けられた。お手紙を出すと騒ぐので、あれは時々出すのよと教える。毎日きたら、皆も返事に困ってしまうわ。


 レオンと皆で手をよく拭いて、食堂へ移動した。今日は雨が降りそうなので、庭へ出るのは諦める。ここ数日、肌寒いのよ。レオンにしっかり上着を羽織らせて振り返ると、ヘンリック様もフランクから受け取っていた。


 午前中より着込んで、食事が始まる。まだ屋敷全体に暖房を使うのは早い季節だし、上着なら調整しやすいもの。お料理は温かいものを中心にした。前世の記憶のせいで、鍋を思い浮かべたけれど……さすがに無理だったわ。


 ポトフに似た具沢山スープ、焼きたてパンに温野菜のサラダ。貴族であっても、毎日豪勢なわけじゃない。でも粗食に慣れた我が家の四人は、目を輝かせた。公爵家って食材から違うの。時間をかけて一つずつ丁寧に下拵えされるから、私の手料理より美味しいわ。


 レオンがパンを千切りたがるので、半分に割って冷ましてから渡した。小さな手が小さく切ったパンを、一口ずつ頂く。スープの具を割って、スプーンで運んだ。お互いに食べさせ合う途中で、ヘンリック様が参加を表明する。


 温野菜をレオンに差し出したの。代わりにパンをもらっていたわ。潔癖症とまでいかなくても、貴族は他人の手が千切ったパンを口に入れない。毒殺とか別の理由もありそうだけれど、まあ自分の息子だから問題ないのね。


 口を開ける大きなお子様と、小さなお子様へ、交互にスープを食べさせた。三人で食べると忙しいわね。せっせと運び、もらって食べ……ふと気づいたら、実家の家族が凝視していた。


「どう、したの?」


「いや、仲が良くて何よりだ」


 お父様が意味ありげに返し、エルヴィンはほんのり頬を染めて同意する。双子はちらちらとこちらを見ては、目を逸らした。いちゃついていると思われた? 全然、そんなのじゃないのよ。焦って言い訳をしてしまったわ。

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