113.二度あることは三度ある
陛下からの手紙を携えた使者は、半日の間に二往復させられた。気の毒なので、玄関脇の従者用の控え室へ通す。お茶を出すよう指示した。
ヘンリック様の返信は早いが、使者の往復速度を考えても……国王陛下も即答で返しているわね。いっそ二人が直接話したほうが早いのだけれど。使者の方が気の毒だわ。
「いえいえ、逆にこの程度の距離のお遣いなら日帰り距離ですから」
辺境伯家へ行ってこいと命じられるより、ずっと楽です。そんな雑談が飛び出た頃、ヘンリック様が本日三度目の封筒を差し出した。
「ご苦労だった。今日はこれを届けたら、帰宅してよろしい。返事は明日まで受領しないと書いた」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げた使者は、嬉しそうに馬に飛び乗った。王家の旗を掲げているため、ゆっくり歩いていく。レオンが「おうま、たん……てくてく」と表現し、抱きしめてしまったわ。なんて可愛いのかしら。
「王家の旗を掲げた使者は、緊急時以外は馬を走らせない。人目のない山道は別だ」
ヘンリック様がレオンに説明している? 先ほどの言葉から、ゆっくり歩かせる理由を教えているのね。嬉しくなってお礼を告げた。以前放置していたのは、扱い方を知らなかったから。自分がされていないことは、ヘンリック様も知らなかったのね。
そう考えると、以前屋敷に来た先代のヨーナス様の無能っぷりが際立つわ。まだ顔も知らない義母だって、ヘンリック様を抱きしめるくらいできたはずよ。
「うっくり?」
レオンの発した言葉が理解できなかったのか、私に確認の視線を向ける。
「そう、ゆっくりなの」
レオンに相槌を打つ形で知らせた。なるほどと頷くヘンリック様が、レオンの舌っ足らずな言葉を覚える日も近いわね。
「急いで走らせると、不測の事態が起きたと勘違いさせてしまう」
レオンには難しいから、噛み砕いた。皆が何かあったのかと心配しちゃうでしょう? と。ゆっくりは心配させないの。レオンは大きく頷いた。両手を広げて、ぽすっと抱きつく。顔を首筋に押し当て、すりすりと頬を寄せた。
「どうしたの?」
「ぼく、うっくり、する」
僕もゆっくり動いて、皆に心配かけない。幼子の世界は広いが視野は狭く、一つのことに夢中になってしまう。よい方向へ働くこともあれば、こうして勘違いする危険もあった。
「レオンはいっぱい、好きに遊んでいいの。ダメなことはお母様が教えます」
「うん」
降りたいと手で訴えるレオンを下ろせば、今度はヘンリック様の足に抱きついた。
「おとちゃま、すりってして」
抱き上げて頬を寄せて。甘えるように強請る息子を、ぎこちなくヘンリック様が抱えた。首筋に顔を埋めるレオンの黒髪を、恐る恐る手のひらで撫でる。
いけない、目の奥がじんとしちゃったわ。泣いてしまいそう。やや上を向いて瞬きし、涙を誤魔化した。レオンがヘンリック様を恨む未来にならなくてよかったわ。
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