66.擽り合って笑う

 食べ終えたら、レオンははしゃいで走り回る。絨毯から下りてはダメと教えた。靴下は履いているけれど、靴じゃないと外を走れないのよ。繰り返し伝える。理由を尋ねる幼子に、お洗濯がどれほど大変か伝えた。目を丸くした後、靴下を指先で摘まんで眺める。


「奥様、そういったお話は……」


 控えてください。とリリーが忠告するが、これは大切なことなの。人に何かをしてもらう地位にいる限り、相手の努力を理解しない子は嫌われるわ。当たり前の世の中でも、感謝が邪魔になることはないの。


「いっぱぃ、あぃがと……する」


 いつもより慎重に話すレオンは「する」と発音できていた。たくさん話すこと、話しかけられることが良い方向へ働いている証拠ね。


「だから汚してはダメよ」


 うちの三人は、その辺は理解している。私がずっと洗濯をして干した服を畳んできたから。徐々にほつれたり、糸が切れたりして、補修する姿も見てきた。苦労する姉を間近で知っている三人は、うんうんと頷いていた。真似してレオンも首を縦に振る。


 やっぱり、幼い子には友達や兄弟姉妹が必要なんだわ。私が産む予定はないけれど、代わりにエルヴィンや双子が補ってくれる。レオンにとって最適の環境にしなくては!


「さあ、絨毯から下りないで遊ぶ方法を考えて」


「追いかけっこは狭いですね」


 さっそくエルヴィンが検討し始める。絵を描いたり何かを作ったりは、屋外なので却下された。何をするか迷うエルヴィンの足の裏を、ユリアンが擽った。


「うわっ!」


 驚いたのと擽ったくて足を丸めたエルヴィンが、後ろに転がった。目を輝かせたレオンが真似しようとして失敗する。後ろに寝転がっただけになっちゃったわ。きょとんとして、もう一度試す所作からは失敗した理由を理解していないことが伝わった。


「レオン、こうよ」


 くるっと足を丸めて体育座り、そこから後ろに転がるの。手足を広げたら失敗しちゃうわ。やって見せたら、マーサとリリーが同時に叫んだ。


「奥様! なんてことを」


 え? ダメだった? スカートは捲れないよう、しっかり膝で押さえていたのに。


「公爵夫人としては問題です」


「……問題なのね? 気を付けるわ」


 でんぐり返しは禁止、ちゃんと覚えておこう。もしかしたら、屋外だからダメなのかも。室内なら平気よねと尋ねたら、ダメですと再び叱られてしまった。


「おかしゃま……めっ?」


「ええ、めっ! ですって」


 レオンの言い方が可愛くて、くすくす笑いだしたら周囲にも笑顔が広がった。騎士もこっそり顔を背けているから、笑っちゃったのね。


 レオンは真似して転がり始め、ユリアンが加わり……大人ぶって知らん顔をしたユリアーナが巻き込まれる。ケンカを始めた双子を止めようとエルヴィンが入り、結局全員で擽り合って大笑いした。


「お昼寝するわよ」


 呼びかけてもしばらく来ないくらい、四人で擽り合って遠慮なく遊ぶ。いい傾向だわ。

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