65.天気がいい日は外へ出るのよ
机の拭き取りは侍従にお願いした。ごめんなさいね、私がしたらいいのだけれど……ベルントに叱られちゃうの。
「汚してしまって……綺麗になるかしら」
お願いしてはいけない、謝ってもダメ。貴族夫人って難しいわね。一般的には「片付けておきなさい」と命じるらしい。確認した侍従が、問題ございませんと請け負ってくれたので安心した。
つい「お願いね」と付け足したくなるわ。レオンを抱き上げ、庭へ出る。ご飯もお昼寝も、庭に準備してもらった。リリーがレオンの靴を持って後ろにつく。お父様達も誘って、芝生がある東側へ向かった。
事前に伝えたので、侍従や騎士が協力してテントを張ってくれた。護衛にも天幕を用意するよう命じたので、彼らも日陰で見守ることができる。この世界ではあまり聞かないが、熱中症や脱水もあると思うの。屋外で鎧なんて着用していたら、絶対に暑いわ。
よいお天気で、空は青く澄んでいる。季節は夏に差し掛かる頃、暑さの増す時期だった。白い天幕の奥に野営用のテントがある。眠る時はテントの中、ご飯は天幕の下で食べる予定だ。地面の上に天幕と同じシートを敷いて、絨毯を重ねてもらった。
降ろしたレオンが早くも走り回り、きゃあ! と興奮した声を上げる。
「うわぁ、ピクニックみたいだね」
エルヴィンが嬉しそうに笑うと、レオンは立ち止まって首を傾けた。黒髪がさらりと揺れて、そのまま横に倒れちゃいそう。
「いくにっく? えるぅ」
それなあに? 繰り返しながら疑問系にして、エルヴィンに駆け寄る。名前をきちんと覚えているのは、頭がいいのかしら。話し方が幼いレオンは、両手を前に出してエルヴィンへ走る。
絨毯は平らに敷かれたとはいえ、芝生の上だ。床と違い、凹みもあるようで……躓いた。周囲が一斉に手を出そうとする中、距離の近いエルヴィンが受け止める。膝をついて座り、その上にレオンが飛び込んだ。
「びっくりした。ケガはありませんか? レオン様」
「あい! あぃがと!」
自発的に礼を口にして、小さな頭が縦に揺れる。ぺこりとお辞儀のように動いた黒髪を、エルヴィンが優しく撫でた。
「よくできました。ご無事でよかったです」
「ありがとう、エルヴィン。助かったわ」
レオンはエルヴィンの膝の上に座り直す。嬉しそうなので、そのままご飯を食べることにした。様子を見ながら離れた場所に座ろうとしたら、レオンが「ここ」と絨毯を指さす。隣がいいのね、笑って移動した。
お父様や双子も揃ったところで、リリーとマーサにも座るよう命じる。ここで伝えてもダメなのよね。私の命令なら、同席はギリギリセーフ。屋外でしかも家族しかいない状況だから、問題ないと判断した。叱られたら、そう返すつもりよ。
用意された食事は、手で掴んで食べられる物ばかり。きちんと手を拭いて、野菜から食べた。スティック状に切られ、小さなピンが刺さっている。中華の花巻に似たパンを開き、間にソースのかかった肉を挟んでもらう。
侍従や侍女が同行するからできる食事ね。リリーが手際よくパンに挟んで用意し、飲み物はマーサの担当らしい。中央に置いたトレイをテーブル代わりに、しっかり頂いた。
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