58.これが団欒か ***SIDE公爵
朝の支度の際、フランクから提案されていた。離れに住まう伯爵家とも交流してはどうか、と。彼は年齢的にも父親と呼べる世代だ。屋敷を留守にしてばかりの両親に代わり、俺を育てた。
こくんと頷き、仕事場である王宮へ向かう。こうして通って気づいたが、屋敷の方が休める。家具やベッドの質ではなく、仕事が追いかけてこない環境だろう。屋敷の様々な家計の取り回しは、大筋を女主人が決めて家令が取り仕切るのが通例だった。
一人一人の使用人を女主人が管理するのは、伯爵家レベルまで。侯爵家以上となれば、領地と王都屋敷合わせて、一つの街が作れるほどの人数になる。それぞれの役職ごとに長を置いて、全体を執事や家令が管理する形が一般的だった。
俺がいなくても屋敷の管理は問題ない。そのため帰る手間を惜しんだが、妻子の様子を見て考えが変わった。何故だか、すごく気になるのだ。息子レオンは幼く、妻アマーリアは我が子のように接している。母と呼んで慕う息子に、なんとも言えない複雑な感情が湧いた。
仕事場の文官達は、ここ最近は効率よく仕事を片付ける。その原動力が、毎日屋敷に帰ることらしい。新たな改革を行なった成果を、とても喜んでいた。彼らが帰りやすいよう、俺も屋敷に帰る回数を増やしたが……。
どうしてもぎこちない。接し方や話しかけるタイミングがわからず、フランクに相談した。その結果が、一家団欒に加わるアドバイスだった。彼が手助けしてくれて助かったな。
楽な服装に着替え、食堂へ向かう。玄関ですれ違った伯爵家はすでに揃っていた。
「待たせた」
「いいえ。お気になさらず」
アマーリアが微笑み、レオンは「ずぅ!」と最後の言葉だけ真似た。頬を寄せて可愛いと喜ぶ妻に、また胸がじわりと温かくなる。この不思議な感覚を相談したら、フランクは嬉しそうだった。突き詰めてもいい感情なのだろう。
並べられた料理は、大皿。俺だけコース料理を出されるかと心配したが、同じ大皿から取り分ける小皿だけ用意された。ほっとする。
「旦那様、ユリアーナやユリアンはまだカトラリーの勉強中ですの。無作法があってもお許しくださいね」
目をぱちくりと瞬き、視線を遠くへ向ける。食堂の長い机は、中央に花瓶が置かれていた。その向こう側に伯爵家の四人が並んでいる。無作法があるから、離れて座ったのか? 疑問が浮かび、それをそのまま妻に尋ねた。
「近くで食べないのは、そのせいか」
「それもありますが、爵位や立場が違いますので」
変な気遣いだ。フランクを手招きし、机の間の花瓶を取り去って距離を縮めるよう申しつけた。笑顔で応じる彼の様子から、俺の対応は正しかったらしい。驚いた顔をするアマーリア達も、促されて移動した。
大皿を中央に置き、出来るだけ固まって食べる。右側に俺とアマーリアとレオン。左側は伯爵と三人の子供達。配置もだが、近い距離に満足した。明日から恒例にしよう。
食堂を担当する侍女達がこまめに動き回り、指さして指示するだけで取り分けられる。最初は遠慮していた子供達も、後半は元気に好きなものを食べていたようだ。不思議といつもより美味しく感じられ、満腹になるまで食べてしまった。
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