57.まさかの両家団欒になった

 勉強してお昼寝、その後は疲れるまで遊ぶ。この繰り返しがレオンの大切なルーティーンなの。お腹が空いたと訴える弟妹と一緒に、お父様も食堂へ向かった。


 昨夜は夜通し調べ物をしていたくらいだもの。旦那様は帰らないと思っていた。通りかかった玄関ホールで、ばったり遭遇するまでは……。


「旦那様、おかえりなさいませ」


 まずはご挨拶、父に促された弟妹も帰宅の挨拶をする。すでに父に言い含められたのか、きちんと公爵様と呼んでいた。


「ちゃい!」


 お腹が空いたのと疲れで、眠くなりかけのレオンはかなり省略ね。それでもぺこりと頭を下げる。顔を上げるなり、大きな欠伸をした。


「ああ、いま帰った」


 皆で夕食は諦めて、分かれる方がいいわよね。出迎えに出た家令フランクに目配せすると、彼は意外な発言をした。


「旦那様、奥様のご家族と団欒なさってはいかがでしょう」


「……任せる」


 え? 驚いている間に旦那様は着替えに向かい、取り残された私達は顔を見合わせた。執事ベルントは旦那様に同行し、侍女長イルゼが食堂へと促す。


「さあ、移動なさってください。奥様、伯爵様」


「待って、イルゼ。さきほどの旦那様の反応がおかしいわ。伯爵家と食事をするなんて、いつもなら断る場面じゃない?」


「奥様、お言葉を返すようでございますが……いつもと表現なさるほど、長くご一緒に過ごされておりません。フランク殿が尋ね、旦那様が同意なさった。この時点で決定事項にございます」


 なるほど。確かにほとんど一緒にいなくて、肩書だけの妻に「いつも」なんて言ってほしくないわよね。知らないんだもの。


「お父様、なんとかなりますかしら」


「なんとかするしか、あるまい」


 エルヴィンも困ったような表情を浮かべた。彼はいいのよ、ちゃんとマナーを学んでいるから。問題は……双子だった。ユリアーナは大人ぶって過ごすから、それなりに誤魔化すかも。ユリアンは無理だわ。


「席順で、ユリアンが目立たないよう座るしかないわ」


「僕の陰で隠します」


 エルヴィンって本当に偉いわ。頼むわねと告げて、私達は食堂へ……向かいかけて足を止めた。


「イルゼ、料理長に伝えて。今日はが同席する、と」


「承知しました」


 伝言を頼んで、ほっと一息ついた。この表現は先日覚えたばかりなの。マナーに未熟な客が来た場合、料理長に伝える方法として使われる。若いの部分が未熟を示し、お客様は外部の人を指す。料理長なら伯爵家の状況を理解しているから、加減してくれるはず。


 白身魚のパイ包みのような、崩れやすい料理は避けてくれるでしょう。丸くて刺しづらいトマトなども半分にカットされる。フランクと簡単なお勉強を済ませておいてよかった。いくつになっても学びは役立つわ。


 食堂内で座る場所を細かく決めた。旦那様の席から確認しづらいお父様の陰に、ユリアンを座らせる。エルヴィンはユリアーナを隠す位置に腰掛けた。


 決戦前夜のような緊張感がある。どきどきしながら旦那様の到着を待った。ちなみに、私はレオンを膝に乗せて、旦那様の斜め前よ。妻の定位置らしいわ。さあ、いつでもいらっしゃい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る