56.隠されると探したくなるの

 エルヴィンや双子が合流して、午後は走り回って遊んだ。転んでもケガをしないよう、絨毯の部屋を使う。私とお父様が手分けして、あちらこちらに卵を隠した。


 落として割れると掃除が大変なので、ゆで卵にしてもらう。もちろん、夕食に活用してもらうつもりだ。料理長は快く卵を用意してくれた。以前の伯爵家では高級品の卵も、公爵家では毎日食べても構わない食材だ。


 潰れても安心なよう、固茹でに仕上げた卵を全部で七つ用意した。ルールは簡単、見つけたら私のところへ運んでくる。順番を競う必要はなくて、部屋の中で楽しめる遊びとして提案した。


 執事や侍女がこっそり卵を隠す。私も含めて、廊下で待った。お父様も隠す側に回る。レオンが届く高さまで、が制限よ。


「準備できました」


 ベルントに呼ばれ、私達は部屋に入る。壁際に用意されたクッションに寄りかかって座り、私は卵の受け取り係となった。


「レオンも頑張りましょうね」


「うん」


 元気に手を挙げるレオンは、すでにきょろきょろと見回している。白い卵なので、発見しやすいと思うの。最初はイースターの卵みたいに絵を描こうと思ったけれど、中身が入っているので諦めた。クレヨンやペンキで色塗りするなら、殻だけじゃないと……ちょっとね。


「始めましょう」


 私の合図で、ぱっと四人が散る。エルヴィンは年下に花を持たせる気で、見つけた卵に触れなかった。少しだけ発見しやすいよう、手を加えている。


「えるぅ、たがも!」


「よく見つけましたね、レオン様。凄いですよ」


 褒められて、レオンは満面の笑みだ。私へ向かって走り出し、いきなり転んだ。慌てるリリーをマーサが止めている。私が動くまで、転んでも手を出さないよう伝えていた。


「ふぇっ」


 しゃくりあげるように鼻を啜り、私を見つめる。右手の卵は離していなかった。でもヒビが入ってそうね。強く握った卵を見て、私を見て、大きく息を吸い込む。後ろでおたおたするエルヴィンも、手を出さずに見守っていた。


「っ、えい!」


 その掛け声はお父様の真似ね。覚えてしまったみたい。立ち上がったレオンは、くすくす笑う私を目指して走った。ユリアンとユリアーナは、棚の手前で拳を握る。頑張れと応援されながら、とてとてと音を立てて到着した。


「あい! たがも」


「ありがとう。レオンが最初ね」


 たまご……たがも? 言葉の順番が入れ替わった上で、発音できていない。不思議だけど可愛いと思ってしまう。本当に親バカよね、私。


 笑顔で受け取った卵を、用意した籠に入れた。中は布敷きだが、中身はまだ一つ目。覗き込んだレオンは、きゃーと歓声を上げながら走った。興奮状態で近くのクッションを捲り、隣の箱の中に首を突っ込んでいる。


 頭を入れすぎて、腰まですっぽり。尻餅をついて座り、棚に手を入れた。本の上にある隙間から卵を掴む。


「あった!」


 興奮するレオンが卵を持ち上げ、手が滑って頭の上に落ちる。泣くかしら? 皆が駆け寄ろうと前のめりになったけれど、レオンはきょとんとしていた。落ちた卵を拾い、得意げに運んでくる。大丈夫そうね。


 卵探しは、レオンが三つ、双子が一つずつ、エルヴィンが二つで無難に決着した。もちろん、卵はベルント経由で料理長の手に戻る。今夜食べると伝えたら、皆が大喜びだったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る