28.私ったらモテるじゃない

 朝食の後、少し休憩を挟む。食べてすぐに動くのは良くない。レオンに変な癖をつけたくないので、食後は休むものと教えるつもりだ。体にも優しくないし、将来的に公爵になる人が休憩時間を取らないのは、部下や周囲に悪影響が大きかった。


 うっすら覚えている前世で、私は多くの子供と関わる仕事をしていた。たぶん、保育士のような感じだろう。曖昧な記憶であまり役に立たないが、子供に関する知識は助かっている。


「おかあさま、あしょぶ!」


 もう遊びたいと主張するレオンのお腹を撫でて、首を傾げた。


「ぽんぽん、もう落ち着いた?」


「うん」


 勢いよく返事をしたレオンの隣で、双子は仲良く並んで座る。エルヴィンも動かないので、まだ早そう。でも遊びたいのよね。


「僕はまだです」


「私ももう少し」


 エルヴィンが遊ばないよと示し、ユリアーナも同調する。困ったような顔で二人を見たレオンは、期待の眼差しをユリアンへ向けた。


「ゆん、も?」


「うーん、今走るとお腹痛くなるよ」


 私の教育が行き届いているため、ユリアンもお茶を飲みながら首を横に振る。拗ねたように尖ったレオンの唇を、指先でそっと押し戻した。可愛い仕草で素直に引っ込めたレオンへ、別の遊びを提案した。


「こういうのはどう? 絨毯のお部屋で、積み木をするの」


 積み木はこの世界にもある。ただ、色が地味ですべて茶色だった。よく言えば木の温もりが感じられる、素朴な玩具だ。ただ前世の知識があるから、色を塗ればいいのに……と手落ちのように感じる。


「ちゅみき」


「ええ、それならお母様も一緒に遊ぶわよ」


 私も交じると言ったら、レオンの表情が明るくなった。食後休みの後は、お勉強だ。レオンには伝えてあるので、それまで遊びたかったのだろう。食堂を出て居間へ入り、靴を脱いで絨毯に座った。


 レオンはごろりと転がって、捕まえようとする私の手から逃げ回る。ころころと右や左へ身を捩り、きゃあきゃあと甲高い声で笑った。とっても楽しそう。一緒に転がったユリアンが交ざり、大人びた態度で無視するユリアーナのリボンを引っ張った。


 ここで反応したユリアーナの負けね。あっという間にエルヴィンも加えて、大騒ぎになった。旦那様もいないし、叱る必要はない。自由にさせて、積み木を用意してもらった。


「ちゅみ、き!!」


 こっちで遊ぶ。レオンが戻ってきて、私の隣にぺたんと張り付いた。正座の両足を左右に開いて、お尻を落とした座り方が可愛い。にこにこしながら、積み木を重ね始めた。三角や四角を組み合わせる積み木は、知育玩具として最適だった。


 できたら色が欲しいわね。ベルントに相談してみましょう。家に塗るペンキを使えばいいわ。


「奥様、若様のお勉強の予定ですが」


「お父様、せめて名前で呼んでくださらない?」


「無理です」


 執事みたいな口調で話しかけられると、ちょっと構えちゃうわ。


「レオンが混乱するので、レオン様以外は認めません。いいですね?」


 レオンへの呼びかけだけでも直さないと。そう思って提案すると、渋々頷いた。


「じぃじ! れおん」


 少しゆっくりな話し方で、父を指差した。その指で今度は自分を示す。にっこり笑うレオンに「よくできました」と褒めて頬にキスをした。強請られて、エルヴィンと双子にもキスをする。ふふっ、私ったらモテるじゃない。

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