14.妻など面倒だ ***SIDE公爵
妻を娶った。困窮する伯爵家の長女アマーリア・フォン・シュミットだ。建国当時まで遡れる古い家系ながら、お人よしが過ぎて金がない。
爵位を売るほど困っているため、本来は後継ぎである嫡子を手放した。いや、手放すように仕向けたのだ。我がケンプフェルト公爵家と家格が釣り合う家柄で、未婚の貴族令嬢はほとんどいない。いや、選ばなければいたか。
俺の容姿、公爵の地位や財産に群がる令嬢は何人もいる。だが俺が求めるのは、干渉しない妻だった。跡取り息子はすでに前妻が産んだため、私生活を煩わすことのない妻が必要だ。己の子を産みたいと迫ることなく、最低限の社交をこなし、それ以外は俺に関与しない。
友人に相談したところ、そんな都合のいい女はいないと笑われた。だが探してみるものだ。見つけたアマーリアは、実家の借金返済を条件に頷いた。きちんと契約書も交わしている。契約を破れば、金を返さねばならない彼女は大人しいだろう。
結婚式で花嫁を置き去りにしたことを、従兄である陛下に咎められた。現時点で妻からの苦情はないので、妻も承知だと伝える。結婚式から一週間は休暇を取るのが一般的だが、大量に積まれた書類を見る限り無理だった。
この国が問題なく回っているのは、外交や内政で俺が柱になって支えているからだ。仕事や成果に自負があるから、休むなど考えたくもなかった。
「ケンプフェルト公爵閣下、お屋敷から手紙が届いております」
王宮内の執務室に届けられた手紙は、飾り気のない封筒に収まっている。封蝋は家令フランクが押したのか。破いて中を開けば、見覚えのない女性の手筆が並んでいた。何か強請る気か? 女性はすぐ宝石だ、ドレスだと無駄なものを欲しがる。
屋敷の運営費とは別に与えた金は、もう使い果たしたとでも……頭の中で文句を並べながら読んだ。その内容は思いがけないものだった。ある意味、予想通りのお強請りだが、一般的な貴族女性の要求からかけ離れている。
「家族を離れに住まわせる許可と、レオンの乳母? あれはもう乳離れした年齢だぞ」
眉を寄せて唸る。家族を離れに住まわせるのは構わない。あの離れは使っていないし、林の中で離れていた。だが、レオンに乳母は不要だ。はっきり年齢を覚えていないが、そろそろ家庭教師をつけて教育する時期だろう。
家族を呼び寄せることへ条件付きの許可と、家庭教師なら構わない旨を手短に記して封をした。返事を待つ侍従に持たせるよう伝える。
瑣末ごとに気を取られてしまった。苛々しながら、新たな法案を読み進める。いくつか法の抜け道を発見し、さらさらと修正を記入した。不備の印を押して、返却用の箱へ投げ込む。
家で妻が何をして過ごそうが構わない。トラブルを起こせば、ベルントかフランクが知らせるはずだ。できるなら、次の社交である新年会まで顔を合わせずに過ごしたかった。だが今はまだ初夏、新年は遠い。
一度は屋敷に戻らなくてはならないか。嫌だと思いながら、次の書類を手元に引き寄せた。
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