あの夏のとんぼ

花花茶茶

あの夏のとんぼ

きょうもいちにちなんもせんとおわるなぁ。 



と、冷房の効いた快適な部屋から窓の向こうに目を向ける。

そこに見たのは、2匹のとんぼ。

近づいたり離れたり。まるでふざけ合っている楽しそうな2匹から目が離せなくなってしまう。

上に下に右に左に、近づいたり離れたりを繰り返す2匹はなんとも愛らしく、わたしはひとりゆっくりと掌に窓の熱さを感じる。

ギンヤンマだとかシオカラトンボだとか、種類はなんだか分からない。その細いような黒ぽい2匹は、今がいちばんとばかりにキラキラと色づいている。


――笑い声が聞こえる。

ころころと笑い合うのは誰々。


掌から伝わる熱が何かを訴える。胸がザワつく。


それでも、とんぼからは目が離せない。

あ、3匹になった。

そして4匹、5匹となって更に笑い合う。


何かに見られているとは気づかずに。


可愛いなぁ。

わたしたちもこんな風に誰かに見られとったんかなぁ。

――あぁ、なるほど。

聞こえるこの笑い声は、あの夏の日々なんや。


途端に胸のザワつきはグンと増し、思わず窓から手を離す。


と瞬く間に、目映いとんぼたちは行ってしまった。


ポツッ、ポツッ、と雨が降り出す。


ほな、わたしは何しよか。

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