第12話 強くないんだよ
「大丈夫?」
目を覚ますと、心実が心配そうに覗き込んでいた。心配しないようにとニッと笑って誤魔化してみたが、誤魔化されることはなく僕の手を握ってきた。
「うなされてたよ。お母さんとかお父さんとか」
「大丈夫。嫌な夢を見てただけ」
昔の夢を見ていただけだ。幸村くんなんて知らないけど、お父さんに電話したことは本当、虚実と真実が入り乱れた夢で、何が本当かわからなくなってしまう。
「お母さんと仲悪いんだっけ」
「……言ったっけ?」
「うん、お客さんとして来てくれ始めた頃に」
そんなことも覚えていてくれたんだ。確かに思い出してみれば、最初の頃はこんな関係になると思っていなかったから、開けっぴろげに話していた気がする。
「仲悪いって言うか、疎遠なんだ」
「高校を卒業してから会ってない」
「……会いたいと思わないの?」
ゆっくりと首を振った。
高校を卒業してからもメールが度々送られてくる。近況報告がほとんどだ。最初の何回かは目を通していたけど、一人暮らしを初めて1ヶ月を過ぎたあたりからは見ていない。
楽しそうに人生を生きている母を見ると自分が惨めになるからだ。
「……会ってみない?」
「嫌だ」
母と会ったら自分は壊れてしまう気がする。母親はトラウマそのものだ。そのトラウマに会いに行けるほど僕の精神は強くない。
「会ってみたら、意外と」
「無理だよ」
僕の性格は僕が一番知っているし、僕の精神も僕のトラウマも僕が一番知っている。安定の仕方は知らなくても、壊し方は熟知している。何度も精神を壊してきたから。
「……私、結婚したいと思ってるよ?」
「僕もそうだよ」
「ご挨拶がね」
心実が言いたいことはわかっている。親への挨拶が必要ではないとは思うが、心実は儀式的にこなしたいと思っているのだろう。
「……考えてみるよ」
心実の気持ちも尊重したい。だが、自分の危険信号を無視することも出来ない。曖昧な言葉を返して、わざと相手の頬を手で包み微笑みかけてみた。
心実は納得していないようだけど、「もう」と言いながら僕の手を握った。
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