4歳半 朝寝惚け
休みの朝。今日はゆっくりすると決め込んでベッドの上でうとうとしていたら、隣で寝ていた娘がハキハキした声で「おかあさん おきて」と言ってきた。
ちらっと時計を見る。普段ならまだ熟睡している時間。うーん、今朝は元気だなあ。仕方ない、娘が起きるなら母も起きないとね。半身を起こして娘を見る。娘はとても穏やかな寝顔をしていた。スヤスヤと寝息をたてている。
つまり、さっきの声は寝言だった。とてもはっきりとした寝言だった。
んん、よかった。せっかくの休みの朝だもの、もう少しゆっくりしていたい。ごろん、と横になる。
「おかあさん、おきあがって」
いや、娘起きてた。
娘の目が開く。まだ眠そうにとろんとしているけれど、これは起きるつもりの表情だ。毎朝見ているから母には分かる。
起きてもいいけど、本音を言うともう少し寝ててほしい。こういう、眠いのに起きようとしているときは変に話し掛けずに様子を見る。それが一番寝てくれやすい。
娘、眠いなら寝よ?まだ寝てていいんだよ。
黙って見つめ合うこと数秒。娘は瞼の重さに耐えきれなかったように目を閉じて……寝た。
朝のゆっくりタイム延長です!!よし!!
心の中でガッツポーズを決める。
今回の勝利の要因は何でしょう?
やはり相手をよく知っていることですね。相手を知っているからこそ最善の行動を選択できました。
脳内で勝者インタビューに答えながら娘の寝顔を堪能し――
「おかあさん、あさだよ」
直後、娘が目を開け起き上がった。
「おかあさん、わたし、おかかとこんぶのおにぎりたべる」
ピピー!ゆっくりタイム終了です!早い!早かった!
ガッツポーズごと崩れ落ちる。心の中で。
現時点で思い当たる敗因があれば教えてください。
ええ、やはり相手を知ったつもりになって最後に気が抜けたことでしょうか。一筋縄ではいかない相手なのはわかっていたつもりなんですけどね。今後も精進していきます。
――と脳内インタビューを0.5秒ほどで終わらせ起き上がる。
「うん、朝ごはんにしようね」
まだ少しぼーっとしている娘から離れ、キッチンで朝ごはんを作る。でも、朝ごはんの用意ができても、娘は起きてこなかった。
あれ?
どうしたんだろうと寝室を覗くと、娘はベッドの上で寝息をたてて寝ていた。
え?
さっき起きるって顔してたじゃん。そういうときは眠そうでも起きてきてたじゃん。――娘のこと、分かっているようでまだわかってないなあ。
そう思いながら、マイクを向けて来ようとした脳内インタビュアーには丁重にお引き取りいただいた。
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