第14話 決着


【日比野比呂 VS コカトリス2羽】


 鳥型の魔物コカトリスは、高くは飛べないらしい。

 が、それでも俺の身長よりは高く舞い上がって、頭上から攻撃してくる。

 時折何かを口から吐いてくるが、たいていの場合は毒か呪いだろう。

 たとえば石化、とか。

 ほんと、ファンタジー好きでよかった。

 チラッと奥の人型の魔物を確認。まだ動いてはいない。

 じゃあ、思う存分、やりますか!


 身体強化魔法を何度か重ね掛けして、ジャンプ。

 あっけなく鳥型魔物の頭上を取り、ガラ空きの背中にドロップキック。

 いつか見た、ピンクちゃんの垂直落下型だ。

 地面にめり込む勢いで突き刺すと、足の下で何か潰れた嫌な感触があった。


 気持ち悪いけど、あと1匹。

 いや、1羽かな。

 と思っていたら斬撃が飛ぶのが見えた。

 キョウ姉ぇ、張り切ってるなぁ。

 さて、ちょっと試してみたいことがあったんだ。


 治癒魔法と同じ要領で、魔力を集める。

 そしてそのイメージを、火に設定。

 予想図は、火炎放射器。


 さて、どうだ!


 手のひらを向けると、高速で火の玉が飛び出した。

 ちゃんと鳥型に当たって落ちたけど、なんか違う。

 まあいいや。

 結果良ければ、だな。

 しかし、当初の想定よりも簡単な戦闘だな。

 もしかしたら最後の人型がめちゃくちゃ強いって事も考えられるけれども。

 どう考えても、八葉会とかいう奴らが逃げるための時間稼ぎ、そのための捨て駒だもんなぁ。


 さて、あとは一体残った人型に──なんで!?


 さっき倒したはずの鳥型魔物が、二匹とも復活してる!

 そればかりか、倒されたのを確認した他の魔物も、元気に復活してる!


 もしかしたら、あの人型、か?

 俺は人型に向かって走りながら火炎を飛ばすが、見えない壁に弾かれた。


「ひいちゃん、敵は魔法障壁を張ってるよ!」

「魔法、障壁?」


 つまり、物理攻撃じゃないとダメージを与えられないのか。

 立ち止まった俺に、人型は火炎を吐いた。

 咄嗟に俺も、見よう見まねの魔法障壁を展開して炎を遮る。

 なるほど、原理が解ればイメージで障壁を張れるんだな。


「ひいちゃんナイス! 天才! 好き!」


 エリーの声が嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。

 と。やばい、こうしている間に鳥型がエリーのほうに──

 引き返そうとする俺に、待ったがかかる。


「戻るな、ひぃちゃん! 人型を倒すんだ!」


 叫んだのは、キョウ姉ぇだ。


「でも、エリーが!」

『……ひぃちゃん』


 魔力回路を通じた、エリーの声が聞こえる。


『ひとつだけ、武器があります』

『そうなのか? はやく貸してくれ!』

『その前に、』

『んだよ、早く!』


『ワタシは、ひぃちゃんが、比呂ヒロくんが、大好きです』


『だから』


『ワタシを』


『嫌わないで』


 エリーの身体が光を放って……下着姿になっていた!?


『え、露出趣味なの?』

『違うって! ワタシの服、変型する武具なのよ』


 エリーが脱いだ服は、長いコートのような形に変わっていた。


『ひぃちゃんが使えば、剣にもなるはずよ』

『なんで!?』

『男の子だから!』


 あかん意味わからん。

 けど、あれこれ考えている時間は無い。

 そうこうしている間にも、二匹の鳥型はエリーに迫っていく。


『んじゃ借りるよ!』

『わかりました……変化の衣よ、王女エルモアール・フォン・アルルフォードの名において命じます。ひぃちゃんの、ワタシの想い人の、思うままに』


 うわ、自分で王女って言うた!?

 想い人!?

 いろいろ情報がてんこ盛りで付いてきたけど、今は棚上げ。

 俺の元へ飛来したその衣を、きつく握って願う。


「どうか、どうかエリーを守るための武器を、俺に」


 再び光が放射され、俺の手には、一振りの長い剣があった。


 その剣を人型に向けて軽く振ってみる。

 軽い。子どもの頃の竹刀と同じ感覚だ。

 さあ、いくぞ──え?

 さっきの、軽い素振りの衝撃が人型の魔物に向かって飛んでいた。

 その衝撃は人型の魔物に当たって、縦に真っ二つに。それと同時に、復活した他の魔物も消滅した。


「ええええええええ!?」


 うそ、倒しちゃっ……た?


「ひぃちゃん!」


 戸惑う俺に、エリーが抱きついてきた。

 って、下着姿なの忘れてる!?

 ちょっと待て。

 いろいろと柔らかい部分が温もりと共に当たってるのよ。


「エリー、服、服!」

「あの服? 貴方にあげる! ワタシごと!」


 ちょっとちょっと。

 テンション上がり過ぎじゃないですか。

 エリーさっき王女って名乗ってたじゃん!

 俺、平民よ?

 家柄も平民、容姿も人並み、頭なんて最近やっと勉強始めたばっかりなんだから!


「ひぃちゃん〜しゅきぃ〜」


 あかん、エリーの目の中にハートが見える。

 いや嬉しいんだよ。嬉しいんだけどさ。

 こういうのじゃないんだよなぁ。


「落ち着け、エリー」

「そうだねひぃちゃん、先にシャワーだよね!」

「超落ち着け、いや、いっそ落ち込め」

「落ち込んだらひぃちゃんエキスをちゅーちゅー吸って復活しゅる〜しゅきぃ」


 もう、誰かなんとかしてくれ。

 おいキョウ姉ぇ、ニヤニヤすんな。ピンクちゃんはもらい発情とかしない!

 なんとかエリーのしゅきしゅき攻撃を躱していると、芝生を鳴らす足音が聞こえてきた。

 その足音はなんの躊躇もなくエリーの側に立ち、


「落ち着きなさいバカ王女」


 エリーの頭をゴチンとブン殴るのだった。



 ☆ ☆ ☆



 なんだ、これは。


「先ほどはウチのバカ王女が、大変お見苦しい姿を……」

「いえいえ、うちの愚息こそとんでもないご無礼を……」


 みんなでアパートに帰った直後、母屋に呼ばれた俺は、名も知らぬ異世界のショートカットのエルフと母親の土下座合戦を眺めていた。


「ほら、比呂ヒロ。あんたも謝んなさい」

「別に悪いことしてないけど」


 なんならたった今、エリーを守り抜いてきたばっかだぞ。


「いいから。謝ることくらい、いくらでもあるでしょ。エリーさんのおっぱいをガン見してすみません、とか」

「見てねぇわ!」


 ごめんなさい何度もガン見してました。特にさっきの下着姿は絶景でした。


「いえいえ、あの程度の駄肉でよければナンボでも」

「異世界人の関西弁!?」


 ああもう、どうなってんの。

 明日はエリーが帰る日だってのに、なんでこんなにわちゃわちゃしてんだよ。

 ちょっとは落ち着いて別れに浸らせてくれよ。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。わたくしは侍女のルイと申します。どうぞ、お見知りおきを」

「はあ、よろしくお願いします」


 ショートカットの異世界エルフさんは、三つ指をついて俺に頭を下げる。

 なんなんだ、まったく。


「これからの予定ですが、明朝にこちらの世界を立ちます」


 いきなり現実に引き戻された。

 ……そうだよな。

 泣いても笑っても、どんなに好きでも。


 明日の朝でさよなら、なんだよな。






 ※今夜21時、もう1話投稿します。

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