第13話 ラスト・ナイト



 【まもの玉】から現れた敵は、全部で7体。

 大きな犬の魔物が2頭。

 上半身がでかい猿の化け物が、2頭。

 でかい鳥が、2羽。

 そして宇宙人みたいな人のカタチが、1体。


 その人型が手を振ると、他の6体が一斉に襲ってきた。

 隙をみて、俺はおじさんの田中さんとピンクちゃんへ身体強化の魔法をかける。


「おお、ありがてえ!」

「サンキュ、ひぃちゃん」


 ひぃちゃんって言うな、などと言っている場合ではない。

 ここでコイツらを、倒す。




【倉坂響子 VS ウルフォン2匹】


 迫る魔犬2匹に、響子は青眼の構えを解いて、蜻蛉の構えに変えた。

 顔の横に木刀を立てる、独特な構え。

「二の太刀知らず」の示現流だ。

 早期決着を望むならば、一撃で各個撃破しなければいけない。

 出来るかどうかとか、木刀で勝てるのか、なんていう問題ではない。

 やるしかない、のである。


 左に展開した1匹が、飛び掛かってきた。


「チェストぁ!」


 響子はその頭めがけて、木刀を振り下ろした。

 脳天を砕かれた魔犬は惰性のままに走り続け、しばらくして倒れた。

 どうやら異世界の魔物も、強い物理攻撃は有効なようだ。

 その隙にもう1匹が迫ってくるのは、響子も折り込み済みだった。

 ひとつ違うとすれば。


「くっ!」


 突風を伴って突撃してきたことだ。

 異世界の魔物ウルフォンは、威力こそ高くないが風を操る。

 そしてそれは、


「飛んだ!?」


 空中を駆けることも可能にする。

 頭上から攻めようとするウルフォンだったが、響子の守りも固い。

 互いに手が出ない状況だったが、響子が動く。

 公園の遊具、ブランコに向かって走った響子は、頭上に迫る魔犬ウルフォンの攻撃を躱す。

 同時にブランコの中に立って、頭上の死角を狭めた。

 少なくとも響子はそのつもりだった。

 頭上に迫る魔犬ウルフォンは、響子の頭を通り過ぎて、ブランコの上の鉄棒を噛んだ。

 そのままグルンと回った魔犬ウルフォンは、その勢いを利用して響子の背中へに突っ込む。


「ぐはっ」


 背後から魔犬の体当たりを食らった響子は、数メートル先の砂場に弾き飛ばされた。


 自慢のパンツスーツが砂に塗れ、響子の口元には血が滲んでいた。

 なんとか起き上がった響子だが、ダメージは大きい。


 仕方ない。人前では使いたくなかったが。

 腹を括った響子は、居合いの構えを取る。


「──飛剣!」


 抜刀と同時に、斬撃が飛ぶ。

 斬撃は、突撃の態勢で飛ぶ魔犬ウルフォンの脇を掠めたのみだった。

 しかしそのかすり傷を、魔犬の本能が嫌がった。

 空中で身をよじる魔犬ウルフォンに、もう一撃。


「飛剣、飛び八双!」


 宙に浮かぶ魔犬ウルフォンは、上半身と下半身が別々に落下した。


 ・倉坂響子 勝利







【田中二尉、ピンクちゃん曹長 VS ロックエイプ2匹】


 田中二尉は、数度にわたる異世界調査により、異世界の魔物を知っていた。


(人型に近い魔物は、より厄介である)


 だからこそ猿の魔物二頭を、二人で相手することにした。


 エリー曰く、ロックエイプは頭が固い。

 故に、ナイフなどの刃物が通りにくい。

 ならばどうする。

 内ポケットのナイフを抜くのをやめて、腰のメリケンサックを両指に差す。

 即席だが、これで固さは互角に近くなった。

 竹林たけばやし曹長も、同様にメリケンサックを装着した。


 互いに目配せして、突撃。

 上半身の筋肉が発達したロックエイプの攻め手は、基本的に3つ。

 殴る、頭突き、絞め落とし。

 つまり。


「ガァアアア!」


 発達し過ぎた上半身に比べて、下半身は弱い。

 腕を振り回すようなロックエイプのフックをかい潜った田中二尉は、ロックエイプのこじんまりとした後脚の甲を、メリケンサックで打ち抜く。

 これでロックエイプは機動力を失った。

 竹林たけばやし曹長を見ると、少々苦戦しているようだ。


竹林たけばやし、スイッチ!」

「はい、すみません!」


 負傷したロックエイプを竹林たけばやしに任せて、田中二尉は無傷の猿と対峙する。

 周囲に気を配ると、他も苦戦しているようだ。

 特に魔狼ウルフォン。

 まさか狼の魔物が飛ぶとは、異世界人のエリー以外は誰も思っていなかっただろう。

 だが、あくまで我らの標的は目の前の大猿。

 ともかく、目の前の二頭を片付けて、他の応援に向かわなければ。

 決意した田中二尉は、無傷のロックエイプを見据える。

 ロックエイプはさっきの個体と同じく、大振りのフックで攻撃してきた。

 ならば、その腕をかい潜って脚に──え。

 ロックエイプの後脚は、宙に浮いていた。

 大きく長い両腕をヘリコプターの回転翼のように振り回し、独楽のように連続攻撃を放ってくる。

 なるほど、弱点は攻めさせてもらえないようだ。

 だが、攻撃自体は単調で、狙いもつけられていない。

 躱すのも捌くのも、比較的容易だ。

 他の攻め手を考えようとした時、回転するロックエイプに向けて斬撃が飛んできた。


 ロックエイプの両腕は切断され、中途半端な長さが残るのみ。

 ならば。

 一気に駆けた田中二尉は、短くなった腕に注意しつつ、顔面を殴打。

 そこから、殴る、殴る、殴る。

 左右のフックを連続で叩き込まれたロックエイプは、13発目で地に沈んだ。

 竹林たけばやし曹長を見ると、地面に突っ伏したロックエイプの上に立って吼えていた。


 さて、斬撃のぬしに、お礼と注意をせねば。

 先に二頭の魔物を倒し終えていた斬撃の主に一例した田中二尉は、日比野少年の助けに向かうために、小刻みに震える指からメリケンサックを引き抜いた。


 ・田中二尉、ピンクちゃん曹長   勝利



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