百四話 クリニア商会:その壱
軽く昼食をとって、組合の受付の人にクリニア商会の場所を聞いてみた。
一本下の通りにあるらしいので、行ってみると、デカい建物がある。
クリニア商会と書いてあるんだけど、この建物を見ると本当にあの人がここの副会長さんだったのだろうか……と、疑いたくもなる。
一杯食わされた可能性もありそうだ。
中へ入ると、区画ごとに食材コーナー、衣服、金物などなど……様々な物を取り扱っている。
二階が、商談用の何かっぽいが……いきなり紹介もなしに行くのもなぁ。
とりあえず、店員さんにグリフという副会長さんがいるかどうか聞いてみよう。
「すみませーん!」
「はい、どうしましたか?」
無難にカウンターのお姉さんへ声をかけてみた。
「あの、グリフさんはいらっしゃいますか?」
「……どのようなご要件でしょうか?」
おっと、警戒されたかもしれない。
「僕は、イロハと言います。村にいる時、グリフさんから声をかけられまして、王都に来たら寄ってくれと……」
「副会長がですか? 村……どこの村でしょうか?」
怪しい者を見る
「ネイブ領のゴサイ村と言うところです」
「……そうですか。少しお待ち下さい」
「はい……」
お姉さんが、奥へと入っていった……この流れ、あまり良くない気がする。
まもなく、白髪交じりの年配の男性がやってきた。
支配人とか、そんな感じかな?
「私は、ここの管理者……のようなことをしているネビリーだ。話は聞いたが、失礼ながら君みたいな子にグリ……副会長が声をかけたのか?」
みたいな子って……本当に失礼だな。
それに、管理者のようなことって一体……!?
「はい、確か……気軽に訪ねてくれって」
「ふむ……ネイブと言ったね? それはいつ頃だい?」
「三か月ほど前ですかね? 開拓村の再開発を見に来たような事を話されていましたが……」
「開拓村……なるほど。少年は、イロハくんと言ったね? 副会長は非常に忙しい。それに、そう簡単に取り次ぐことも難しいのは分かるよな?」
警戒されてしまったようだ。
なにやら、難しい顔をしながらやんわりと断られているような気がする。
「はい……」
「副会長は、数か月前に
うーん、こりゃ本当に別人の可能性もでてきたぞ。
「そ、そうですか。すみません、こちらこそ突然押しかけて来てしまって……」
「ああ、その、決して少年を疑っているわけじゃないんだ。実はな、今、副会長は大事な時期でもあってあまり時間が取れないんだ。だから、必ず話はしておくから気を悪くしないでほしい」
大事な時期ねぇ……。
何か大きな商談を抱えているとか、そんなところかな?
「はい。大きな商会ですもんね。今日寄らせて頂いたのは、グリフさんを訪ねる目的もあったんですが、これから王都へ滞在することとなるので、住むところを紹介して頂こうかと思ったんです。知っている人の方が心情的に安心しますし……」
「ふむ、ということは……この時期となると…………なるほど。少年は、商科学園に合格したと? 商人見習い希望とかそんなところか?」
うーむ、商人ってみんなこんな感じの問答が好きなのかな?
答えを聞く前に推理して、こうだろ? みたいな……。
「いえ……スレイニアス学園の方です」
「なにっ! そうなのか? そりゃすごい、優秀なんだな。でも、そうなると……なんでグリフが…………うーむ」
なんか考え込んでいる様子だが……あれ? いつの間にか副会長さんを呼び捨てにしている気がする。
グリフさんより偉い人なのかな?
とりあえず、すごく見られているんだけど……。
「あの、なにか……」
「ふむ。イロハ少年、グリフとはどんな話をしたんだ?」
「ただの世間話ですよ。開拓村を見に来られたようなので、そこで少しお互いの意見を交わした感じですかね」
ギロっと見つめられる……なんだろう。
「開拓村か……確か、ネイブ領の王都に近い森林地帯だったよな? なるほど、いろいろと納得がいった。よし、明日もう一度ここへ来てくれないか? グリフとの面会の時間を準備しよう! そうだな、時間はお昼にしようか。昼食でも食べながらゆっくり話すといい」
なぜか、急にトントン拍子で話が進んでしまったような気がしてならない。
納得……? どういう意味だ?
話の流れから、グリフさんはこの人に伝えていないのは確かだ。
まだ、あの人が本当にグリフさんかどうかも怪しいのに、こんなに話が進んでしまっていいのだろうか。
「あの……」
「分かっているさ。もしかしたら人違いかも……と思っているんだろう? そんなことは、気にしなくていい。今の少年の受け答えで十分資質は測られたから問題ない。少年も、滞在先を探していると言っていたな? クリニア商会で準備してもいい、とにかく明日また来てくれ」
気にしなくていいとは?
資質?
分かりづらい言い回しが多いな……。
この人は一体何者なんだろうか。
「もちろん、伺うことは問題無いのですが……」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。私は、クリニア商会の商会長をしているネビリー・クリニアだ。ちなみに、グリフは私の息子だ」
商会長さんだった……。
「そ、そうなんですか! すみません、いきなり訪ねてきて……」
「そんなに畏まらなくてもいい、商会長といっても、引退間近のおじいさんさ。私も、グリフには劣るが人を見る目はあるつもりだ。少年には是非、開拓村の件を聞かせてほしいと思ってな」
「はい、僕で良ければお話します。それでは、明日また伺います」
ふぅ。
なぜか上手く言ったような気がするが、乗せられた気もする……商人と話すといいように転がされているような気がしてならない、本当に油断のならない
宿に戻ってからは、今日の出来事を考えながら、明日はどんな話になるんだろうと考えている。
最終的には、都合よく滞在先を見つけられればいいなと。
まさか、商会長さんが出てくるなんて思いもしなかったし……どうなっちゃうんだろうか。
あれこれ考えながら、やがて眠りについた。
◇◇
今日は、再びクリニア商会へ行く約束をしている。
寝過ごさずちゃんと起きられたのはよかった……昨日は、変なことまで考え込んで夜更かししてしまったからね。
さて、お昼まで三時間ほどあるのだが……二時間前には出たほうが良さそうだ。
一応、考えをまとめておかないとな。
ひと月の最大予算は十六万ソラス。
ただし、何かあった時に身動きが取れなくなるので滞在費は最大十万ソラスで押さえたい。
食費は、自炊をするとしてひと月当たり約二万ソラス程度。
こちらは、多少外食をしたとしても三万ソラス程度に収まると思う。
となると、滞在費と生活費で十六万ソラスなので、家賃は十万ソラス、食費は三万ソラス、貯金は三万ソラス……この辺りが妥当か。
外郭地区になると、移動が大変になりそうだな……一応、スレイニアス学園は西地区にあるわけだから、西方外郭地区までは検討対象にしておこうかな。
さて、そろそろ出かけよう、今日はどんな出会いになるんだろう。
昨日の道順通り、冒険者協会を東へ向かいおよそ八十分ほどでクリニア商会へ着いた。
約束の時間より三十分早く着いてしまったけど……どうしようか。
中を覗いてみると、十数人の客が店内で買い物をしているようだ。
時間まで、生活用品などを見ておこうかな。
ボチボチ時間なので、受付へ。
話が通っていたのか、すんなり二階へ通された。
やはり、二階は商談部屋のようだ。
応接室っぽい部屋で待つこと十分……見覚えのある彫の深い顔のおじさんが入ってきた。
「ようこそ! クリニア商会へ。久しぶりだね、イロハ君」
やはり、あの時出会った人はグリフさんで間違いなかったようだ。
ホッとしたよ。
「こんにちは、グリフさん」
「私の睨んだ通り、イロハ君はスレイニアスに合格したんだってね。商会長に聞いたよ。まずは、おめでとう!」
「ありがとうございます。無事合格できて王都へ滞在することになりました」
「そうか。それにしても、合格発表から逆算して、来るのが少しばかり遅すぎやしないか? 王都での滞在先に困るだろうと思って相談に乗るつもりだったんだよ?」
本当に?
あんなに短い出会いだったのに、そこまでする理由はなんだ?
「えっ? そうなんですか!? 幸い、今宿泊している宿は、試験の期間だけ安くしてくれるところだったので、滞在先探しについてもかなりの猶予があったので……」
「ほう、スレイニアスと言えば、トクトク亭か。あそこは、主人が気前のいい人だからな。ところで、イロハ君は希望の滞在場所はあるのかな?」
「できれば、スレイニアス学園に近いところがいいのですが……予算が少ないので、西側の外郭地区まで候補に入れています」
「外郭地区か……。場所的には良いのかもしれんが、治安はあまりよろしくない。そうだな、西の端あたりの物件を探してみよう。予算はどれくらいで考えているんだ?」
「最大でもひと月あたり十万ソラスくらいしか……」
「おいおい、イロハ君。どうしたんだよ。そんな簡単に商人へ手の内を明かしたら足元を見られるぞ? それとも、もっと別の何かがあるのかな?」
俺は商人じゃねえ!
なんで見習いみたいなことされてんだよっ!
「あはは、忘れていました。でも、グリフさんには正直にお話したほうが良いと思っていました。だって、僕を騙したりしないでしょ? 開拓村の件もありますし」
おっ、眉毛がピクッとなった……やはり、ここまでしてくれるのは開拓村の件があるからか。
「まったく、末恐ろしいよ。確かに、君をだまして得なことは何にもないな。それに、あの後考えていたんだが、イロハ君……君は、ネイブ領主の関係者か、開拓村の関係者ではないのか?」
とうとう本題が来たか……。
「どうしてそう思うんですか?」
「いくらなんでも、内情を知りすぎている。それに、期日を具体的に把握している。これは、計画の全容や、開拓団の能力を理解していないと導き出せないと考えたんだ」
「やっぱり、あの時話し過ぎちゃいましたね。あの村に王都の商会の人がいるって思わなかったものですから……グリフさんは聞き上手ですし、楽しくなっちゃって」
「ふぅ、こりゃなかなか手ごわいな。よし、君の滞在先は私が何とかしよう! その代わり、クリニア商会が開拓村へ入るきっかけを作ってくれないか?」
「そんなことで良ければ、協力しますよ。あの時は伏せましたが、僕はゴサイ村開拓団団長の息子です。必ず、グリフさんを父へ紹介します」
っと、ここで驚愕の表情が。
「なにっ! まさか、あのルーセントさんの息子……さんがイロハ君だと?」
どのルーセントだよ!
グリフさんも父さんの事件を知っている感じなんだろうか……。
「そ、そうですが、なにか問題がありましたか?」
「いや……そうだな、ルーセントさんは、噂では商人を嫌っているという話で、懇意にしている商人以外は関係を持たないと聞いている」
あらら……えらい言われようだ。
「そうなんですか? それって、たぶん昔の事件が関係しているんじゃないですかね? 今は、そんなことないと思いますが……」
「あの時も、てっきり私が商会を名乗ったものだから軽くあしらわれてしまったのかと思ったんだが……。それで、ネイブまで戻り、領主に相談をしたがルーセントさんに一任しているし、領主が口を出すと反発するから自力で頑張ってくれと言われて帰ってきたんだよ。だから、開拓村のことはあきらめるつもりだった」
へぇ、ネイブ領主とも会ったんだ。
確かにあの二人は……お互いに言う事を聞かなそうな感じの間柄だもんなあ。
「父はそんな風に思われていたんですね。でも、噂は噂です。昔のことは分かりませんけど、今は開拓村の団長として、村を大きく発展させると言っていました。だから、大手の商会が参入するのは、村にとってもいいことだと思いますよ?」
「うーむ……言っていることは分かるが、噂の方が先行していてな……。イロハ君がルーセントさんと上手く話をつなげてくれるなら、こちらも願ったりかなったりだ。なにせ、メルキル王国を縦断できる連絡路の中心地だからな。もし、あそこが開通したら村どころではなくなると思っている。できれば他の商会が参入する前に……ああ、こういう言い方は良くないな」
「分かりました。僕も、村には発展してほしいですし、責任もって父を紹介しま……」
「おいっ! グリフっ! なんで二人だけで話しているのだ? 私も同席すると言ったではないかっ!」
こんな時にまたややこしい闖入者が……!
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