九十九話 入学試験:面談
さて、あっという間に面談当日。
九の月二週一日、今日が学園入学に向けた最終段階だ。
昨日は、さすがに出歩くこともせずおとなしく部屋にこもっていた……という言い方もできるが、本を読みながらダラダラと過ごしてしまった。
ズバリ、魔道具の本。
トクトク亭の客が忘れていったらしいが、不思議なことが盛り沢山に書かれていると言う、好奇心をくすぐる本だ。
宿で仲良くなった無駄に素早……仕事の早いおばちゃんに貸してもらった。
ふぅ、内容が難しく読破するのに時間がかかりそうだ。
今日は面談に集中しなければ……。
面談は、受付番号順ということで俺は一番、そろそろ準備をするか。
時刻は九時前。
朝食は済ませてあるので、食堂で二人を待つか。
「おばちゃん、おはよう! 昨日は本を貸してくれてありがとう」
「あら、おはようイロハ君。どうだい、あの本、難しかっただろう? あれは、マジスンガルドの客がわすれていったものでね」
「そうなんですか。難しいですが、興味深いものでした。まだ読み終わっていないので、もう少しお借りしていてもいいですか?」
「ああ、そりゃ構わないさ。なんだったら、持って帰んな。もう、二年程前の事なんで、預かっていても仕方がないしね」
「ありがとう! おばちゃん。じゃ、サクランゴの果実水をひとつ下さいな」
「果実水だね……はい、どうぞ」
だから、出てくるのが早いって!
「ど、どーも。もしかして、準備していました?」
「それは…………内緒だよっ!」
相変わらず、謎の多いおばちゃんだ。
はー、サクランゴの果実水は美味い。
リンゴジュースにモモを足したような味なんだよな。
果実水を堪能していたら、ロザがやってきた。
「おはようございます、イロハ君」
「おはよう、ロザ。昨日はちゃんと寝られ……いや、なんでもない」
目の下のクマがすごいことに……真面目な委員長が、黒魔術を行使するカルト団員に成り果てとる。
「いいですね、ぐっすり眠れて……羨ましいです」
「まあ、僕はあんまり緊張しないからね。テリアはまだかな?」
「一応、声をかけてみたけど、起きてはいるみたいでしたよ?」
「確か、着替えるのが遅いんだったよね?」
「はい。でも、もうすぐ来ると思います」
そんなに着替えるのが遅いって、特別なことかね……何か理由があるってことか?
どうでもいい事とは思いつつ、なんか気になるんだよな、言い方が。
「おはよー! イロハ! ロザ!」
「朝から元気がいいな、おはよう、テリア」
「おはようございます、テリア」
「三人揃ったことだし、二次試験の面談に行こうか」
「おー!」
「お、おー」
きっちり三十分かけて学園に到着。
現在の時刻は九時半過ぎ、面談は十時から。
ひとまず、正門前の女性の職員さんに挨拶を、と。
「おはようございます。二次試験の面談に来ましたがどちらへ向かえばいいのでしょうか? 受付番号は一番なので、早めに来てくださいとのことでした」
「はい、おはよう。面談会場は、二次試験の受付をしたところが会場です。数名ずつ行いますので、会場の方へそのままお進みください」
「ありがとうございます。では」
二次試験の受付場所に来てみたが……すでに大勢の一次試験合格者が集まっている。
「受付番号が二桁の方! こちらの方へ集合してください。繰り返します。受付番号が二桁の方! こちらの方へ集合してください。」
「テリア、ロザ。二桁だってよ、行こうか。どうやら面談は一緒になるかもしれないな、お互い面談を頑張ろうな」
「うん、三人とも合格がいいねー」
「はい。私も、頑張ります!」
集合のかかった受付番号が二桁の者は、見たところ二十人程度いるみたいだ。
「面談の流れを説明します。面談は四名ずつ行います。呼ばれた順にそちらの部屋へ入り、中の職員の指示に従ってください」
「では、最初の組。受付番号一番、二番、十九番、四十三番の四名、中へどうぞ」
まだ、十時前なんだけど……という不満を誰も言わない。
惜しかったな、ロザ。
俺らとは違う組となってしまった、残念。
「ロザ、先に行ってくる」
「頑張って下さい!」
俺、テリア、女、男の順に面談の部屋へ入る。
癖で、ノックをしそうになったが、ギリギリ思いとどまった。
この世界の習慣に沿ってやろうと思う。
「受付番号一番、イロハ、入ります!」
「えっ? う、受付番号二番、テリア、入ります!」
「……受付番号十九番、入ります」
「……? 四十三番、入ります」
「…………どうぞ」
あれ? なんか違ったんかな?
返事も、困惑気味だし、他三人が戸惑いを見せているんだけど……。
扉の前で自分の名前と要件を言って入るんじゃなかったっけ?
イマイチ、こちらの感覚が分からん。
何はともあれ、どうぞと言っているんだ、入るか。
ガチャ
正面には、五人の男女が待ち構えていた。
やはり、オセロット副学園長さんがいる……。
「四人とも、前の席に座りなさい」
ふーん、副学園長さんがリーダーシップをとるようだ。
「「はいっ!」」
俺らは、左から番号の若い順に座った。
「では、早速だが面談に入らせてもらう。質問をするから、そちらの一番から順に答えてくれ。では、この学園を志望する理由は?」
俺からか……。
「はい! 一番、イロハです。私は、田舎の開拓村で育ちました。将来は、もっと広い世界を見てみたいという願望があります。ですから、専門性の高い学校よりも幅広く学べる普通校を選びました」
無難にまとめたが、どうだろうか。
「次の方、どうぞ」
「はい! 二番、テリアーナです。う……私は、騎士になりたかったです。ですが、両親より女性は厳しいという話を聞きました。男女や種族差別があまり無いという学園に魅力を感じ、将来に希望が持てるこの学園を選びました」
普通校なのに騎士のことを言っちゃうのか。
まあ、正直さが出てむしろ好印象になるかもしれんが……。
「次の方、どうぞ」
「はい。十九番、フラータです。私は、小さなころから勉強が好きでした。学ぶなら、王国で一番の学園に入る事しか考えておりません。以上です」
ほー、強いな、発言が。
こんなに自信のある発言を十歳の子供が堂々と言うとは……。
「次の方、どうぞ」
「はい……。四十三番、ジアノットといいます。私の家系は、代々名門と言われるスレイニアス学園か、ロイヤード騎士学校を卒業しています。したがって、それ以外を目指す理由がありません」
うーん、志望する理由とはちょっと違うんじゃないか?
これじゃ、自分の意思というより、家の人から言われてきました……って聞こえるんだが。
しかも、代々って言ったって、スレイニアス学園は、そんなに歴史が古いわけじゃないでしょうに。
創立は、せいぜい五、六十年前って書いてあったぞ?
「ありがとうございました。それでは、次に、希望学科を見せてもらいましたが、その理由を教えてください。希望学科を含めて順番にどうぞ」
「はい。私は、普通科を希望しています。学園の志望理由と近いのですが、王国の中でも非常に高い水準の学園であれば、より幅の広い知識を得られると思い希望しました」
今後、ジェスチャーで促されるようだ。
「はい! 私は、第一に戦闘科、第二に普通科を希望しました。将来は、騎士、衛兵、警備などの仕事に就きたいと考えているからです」
……ん? 第二希望とかあったっけ?
「はい。私の第一希望は、戦闘科、第二希望は、技能科です。将来は、戦闘が必要な職、または戦闘にかかわる職へ就きたいと思っているからです」
ふーん、戦闘ね、なかなか活発な子だ。
「はい。私は、内政科希望です。それ以外を望みません。親族にも、王国の要職へ就いている者もいますので」
うーん、随分と家系を鼻にかける子だな。
ここは、嘘でもいいから自分の願望みたいなもんを素直に言った方が良さそうだけどな。
「ありがとうございます。それでは――――」
「――――質問は以上になります。これにて、面談を終了いたします。合格発表については、二次試験の面談は、九の月二週二日……つまり、明日発表となります。正門前の掲示板にてご確認ください」
合格発表、早っ! 明日ってことは、もうほとんど決まってんじゃないの?
「それから、受付番号一番のイロハ君を除き、退出してください」
なにっ!
なんで、俺だけ居残りなんだよ……何か間違ったか!?
テリア……なんという憐れんだ眼をしているんだ、やめてくれ。
そのまま、速やかに他の三人は退出してしまった。
「イロハ君。君に残ってもらったのは、実技確認という言葉が付いていただろう。ここで、確認を行いたい。良いだろうか?」
副学園長より、実技確認をしたいとのこと。
「ええ、もちろんです。どのような確認を行うのでしょうか?」
副学園長は、白髪交じりのロン毛を撫でた後、少し微笑んだようにも見えた。
「そうだな、まず……重持久走の時のタルカン鉱について聞きたい。この試験で、最初の状態を保ったまま返却した者はこれまでいなかった。あれは、君のスキルによるものなのか?」
うっ、このおっさん……重持久走四番目の部屋の一人だったな。
あんときの意趣返しってか。
「はい。そうですが……」
「ほう……。では、共に行動していた者には使わなかったのか?」
「えっと、厳密にいえば、使用しました。ただし、その時は鉱石を交換していたため、一時的に自分の物として考えていたからです」
「なるほど……あの時か。前置きはこのくらいにして、これから確認を行う。ここにあるタルカン鉱石に、試験の時と同じようにスキル使ってみてくれ」
「はい、分かりました」
タルカン鉱石にスキルを使う……か。
大丈夫かな……なんか、あまりよくない方向に話が進んでいるような気がする。
鉱石に触れながら、無生物強化、付与!
「……どうした? 早くやって見せてくれ。できないのであれば、確認が取れないことになってしまうぞ?」
「あの……もう、やりましたけど? どうぞ、触ってみてください」
「……? 君は、何も言ってなかったようだが?」
しまった、普通は言うんだっけか?
そういえば、俺の数少ない経験では、みんな叫んだりつぶやいたりしていたような……。
でも、口に出したら、どんなスキルかバレるじゃないか……あっ! そういや、あの裏の仕事人ことキライディっていう危ない人が言っていたな、みんなに聞いているって。
スキルは隠すほどの事じゃないっぽいな……でもな、モノスキルだったら別な気もする。
ここは、合わせとこう。
「あ、小さくつぶやきましたよ。どうぞ確認してください」
コンコン
トントン
ゴロゴロ、ガタンッ!
「そうか…………うむ。確かに、あの時のような感じに思える。どのような効果のあるスキルか詳しく聞きたいところではあるが、君のことだ、話してはくれないんだよな?」
「それは、強制ですか? 答えないと学園に入学できないとか、そのような性質の質問ですか?」
「君っ! さっきから副学長に対して失礼だぞっ! 言葉を選びなさい!」
若い職員から怒られてしまった……あんたんとこの副学園長が挑発してんだぞ?
「まあ、まあ。これは、学園側からの確認依頼なわけだから、警戒するのは仕方がない。イロハ君、これは私の
くっ……ニヤリって笑ったな!
あの時の状況と全く一緒じゃないか。
このおっさん、なかなかな性格をしているよ、まったく。
「そうですか、合否に関係ないのであれば、お答えしません」
一応、話しながらさりげなく鉱石に触れ、さっさと解除しておこう。
「そうだな、拒否してくれても合否に関係はない。もちろん、君はちゃんと重持久走の能力を証明して見せたので、なんの問題無い」
「認めて下さり、ありがとうございます」
「ああ、手間をかけさせたね。これで実技確認を終了する。後は合格発表を待っていてくれ」
居残り面談を終えた俺は、面談会場を後にした。
「イロハ! 大丈夫だった?」
「イロハ君、遅かったですね。私はもう終わりましたよ?」
出た途端、テリアとロザが心配そうにやってきた。
「うん。実技確認っていう……つまり、証明だね。それが長引いた。問題なく終わったから帰ろうぜ」
「「おー!」」
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