九十八話 一次試験合格発表

 今日は、九の月一週五日、スレイニアス学園一次試験の合格発表の日だ。


 空は快晴、絶好の合格発表日和。

 朝食をとり、部屋で準備を整える。


 今日の食堂は、天気と違ってどんよりとした重い空気になり果てていた。

 

 無理もない、調べる限りでは、一学年につき百名~二百名程度……ということは、ここへ滞在している者の中で、いったい何人が合格するんだと言う話だ。


 単純に、受験者が千人だった場合、多くても五人に一人しか合格できない。

 

 さて、結果はどうなるかな?



 まもなく、食堂で待ち合わせいていたテリアとロザと合流。


「おはよう、昨日はちゃんと寝られたかな? 二人とも」


「寝られるわけないじゃん! ずっと緊張しっぱなしだよ……」


「……ほとんど、寝られませんでした。こんなに緊張したのは初めてです」


 まーね、二人の腫れぼったい目を見れば分かる。


「今日は、まだ一次試験の発表だよ? 受かっても二次試験の面談、その発表……体がもたないよ」


「分かっているけど、目がカーっと冴えちゃってダメだった」


「イロハ君は、眠れたんですか?」


「もちろん、ぐっすりと」


「……」


「……」


「ほら、合格発表を見に行こう!」


 雰囲気は悪いが、ここであれこれ話していても始まらない。

 到着まで、無言の三十分を過ごし、いよいよ合格発表の掲示板前に……。


 すごい人集ひとだかりだ。

 有名な神社の初詣というくらい混雑している……掲示板もまったく見えない。


「これじゃ何も見えないじゃん! どうすんの、イロハ」


 俺に振るんじゃないよ。

 うーん、しかし、このままじゃ埒があかないのも事実。


「……順番に、確認を終えたら速やかに前を開けてください!」


 お! 職員さんが誘導を始めた。

 さすがにこれじゃマズいもんな、流れに乗ろう。


「テリア、ロザ、誘導が始まったようだから、この辺りに並ぼう」


「あー、いよいよだ。合格……合格……」


「ほぁい。もう、ドキドキが止まりません……」 


 二人は変なテンションのまま、少しずつ列は進んでいく……。



 かなり前列へ進んだところで、掲示板は見えるが文字は見えないという、もどかしい位置から進まなくなった。


 前方で、何やらごたついているようだ。


 こんな時は、視覚強化!


 おー! 見える見える。

 一次試験合格者受付番号と、書いてあるぞ。


 どれどれ…………一番、二番は、すぐに発見。

 俺とテリアは、合格しているようだ。

 ロザは、確か五十四番だったな…………お! あった!


 何のことはない、一次試験は三人とも合格している、よかった、よかった。


 まぁ、これは伝えるまでもないか。

 こういうのは、自分で見る方が感動も大きいだろうし、無粋な真似はやめておこう。


 ふぅ、まずはホッとしたよ。

 

 それに、首席とかの発表も無さそうだ……お偉い様の子供とかもいるなら、差し置いてっていうのも、目を付けられそうで怖い。

 自分の合計点数が良かったのかは分からないけど、恐らく上の方だったと思っている。

 


 そして、ようやく進み始める。


「ね、ね、イロハ。番号は見える?」


 すでに見えていたが、ここは合わせようか。


「テリアが見えないんじゃ、僕も見えないって」


「はぁー、もー早く進んでよー!」


 テリアは、もはやイライラ状態。


「落ち着けよ。もうすぐじゃないか」


「あわわ……怖いです。もう、帰りたいです。後で教えてください……私は、五十四番です……」


 ロザは、現実逃避気味……本当に帰ろうとしている、っておい!


「待て待て! 帰ろうとするなよ、ロザ。自分の頑張りの結果はちゃんと自分で見るんだ」


 もう、無茶苦茶だよ……僕らでこの状態じゃ、そりゃ前に進まないよな。

 チラホラ親御さんも見えるけど、圧倒的に子供が多い。


「前列の方、順番に確認を終えたら速やかに前を開けてください! 後ろが詰まっています!」


 職員さんは、懸命に捌いている。


 


「ほら、そろそろ見えてきたぞ!」


「あっ! ウチの番号あったー! イロハ、あったよ! 二番があったー!」


「おー、おめでとう、テリア」


「僕も自分の番号があるみたいだ」


「……私、まだ見えません」


 うん、ロザは目が悪かったもんな、メガネじゃ見えないのかな。


「あれー? イロハの番号の後ろになんか書いてあるよ?」


「えっ? なんだって……?」


「あっ! 私の番号、ありました! ありましたよ、イロハ君!」


 ちょ、ロザが両手を握ってきて上下に振ってくるので、俺の番号に何が書いてあるのかが見えない……。


「あ、ああ。ロザ、おめでとう。ちょっと、僕の番号が……」


「私、合格していました! テリア、私、合格だったー!」


「よかったねー! 三人とも合格してた!」


 今度は、三人で手をつないだ状態……いや、番号の後ろに何が……?


「ちょっと、二人とも、僕の番号が見えないって……テリア、そこどいてっ!」

 

 無理矢理テリアを避けて前に出る、すると……。


「なんだ、これは……?」


 一番(実技確認)と書いてある。

 

 よく見ると、数人の番号の後ろに実技確認が付いている。

 どういう意味なのだろうか。

 

 さらに掲示板には『自分の受付番号があった者は、速やかに学園にて手続きをして下さい』と書いてある。

 えーっと、この道順案内かな?


「なあ、二人とも。合格者は学園へ手続きに行く必要があるみたいだぞ? この道順のようだが……」


「本当だ! 三人で行こう!」


「行きましょうか。私、ホッとしたせいか、そろそろ眠たくなってきました……」



 朝とは違って、三人とも軽快なステップで道順通りに学園の事務室へ。

 ここでも、すでに列が出来ている。


 ここにも、誘導の職員さんがいる。


「あなたたちは、一次試験合格者ですか? 付き添いの方は、外で待機していてくださいね」


「私たちは、三人とも合格でしたので、このまま並びますね」


「はい。では、この記入用紙に必要事項を書いてお待ちください」


 記入用紙を頂いた……なになに……。

 

 【必須事項】

 出身領地

 御両親名

 希望学科


 【任意事項】

 主スキル

 適正職種

 特性性能


 【再確認者用欄】

 筆記試験

 実技前半

 実技後半


 

 ありきたりのようで、分からない用語もあるな。

 こんな時は、ロザに聞くのがベストだろう。


「ロザ、この用紙の希望学科って何のこと?」


「希望学科は、二年目からの専門課程のことですね。専門課程は、戦闘科、内政科、技能科、普通科、特別科の五つです」


 大学の学部みたいな感じかな?


「おおー! すごい。さすがロザだ」


 パチパチパチ

 パチパチパチ


 なんと、周りの合格者からも拍手が飛んできた。

 

「えっと……ありがとうございます」


「君、すごいね!」

 

「どこから来たの?」


「あ、あの……すみません……」


 あらら、見事に絡まれてしまったみたい……っと、テリアが割って入ってきた。


「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ! ウチの友達に話しかけないでちょうだい!」


 とうせんぼ状態。

 差し詰め、マネージャーを通してくださいって感じだ。


「何だコイツ……変な奴」

 

 おっと、これはいけない。

 今にもテリアが殴りかかる勢いだ……。


 連れを変な奴呼ばわりされては黙っていられないな。


「おい、君。変な奴とはどういう意味だ? 怖がっている友人を守った者に変な奴という言い方はないだろう。それこそ、挨拶もなしに馴れ馴れしく話しかけてくる君らは、何者なんだ?」


「……っく。分かったよ、悪かったな。その子が、スラっと学科を言ってのけたから感心したんだよ」


「まあ、謝ったならいいや。テリアもいいだろ?」


「いいよ。今度からは気を付けてねー! …………ザコ」


 ぷぷっ! ザコて。

 余程頭に来たんだろう……笑顔からザコまでの一連の流れがおもろすぎる。

 こりゃムカつくだろうな。


「なんだと! てめー、調子に乗ってんじゃ……」


「まあ、まあ、落ち着いて。いまの所、君の変な奴呼ばわりとで一対一じゃないか。これでおあいこ、な? テリアも、もう黙っとけ! そっちで、スーハーでもやっときな」


 俺は、周囲を見ろよとばかりにジェスチャーを披露した。


「そ、そうだな。もういいよ……」


 突っかかってきた少年は、周りを見て冷静になったのか、大人しく自分の列に戻っていった。


「ごめん、イロハ。またやっちゃった……」


「小さな声で言うけど、今のは面白かったぞ。まあ、時と場所は選ぼうな」


 僕は手段を選ぶ方ですが……。


「ありがとう、テリア。私は、男の子に囲まれるのがちょっと苦手で……」


「ああいうのとは、仲良くする必要はないさ。さ、早く記入しなきゃ僕らの順番が来ちゃうよ?」



 

 用紙に必要事項を記入して、しばらくしたら順番が回ってきた。

 受付台は五つ、それぞれマンツーマンで行ってくれるようだ。


 僕は一人の受付の前に座ると、記入した用紙を提出した。


「はい、お預かりします」


「お願いします」


 受付番号 一番

 家名、名 イロハ


 【必須事項】

 出身領地

 ネイブ領、ゴサイ村

 御両親名

 父ルーセント、母ステラ

 希望学科

 普通科


 【任意事項】

 主スキル

 

 適正職種

 格闘士を希望

 特性性能


 【再確認者用欄】

 筆記試験

 実技前半

 実技後半


「受付番号一番、イロハ君。希望学科は普通科ですね。適性は……格闘士ですか。スキルは空欄のようですけど、身体強化はありますか?」


 聞くなら任意って書かなきゃいいのに……。


「はい、あります。任意だと書いてあったので空欄にしています」


「分かりました。イロハ君は、実技確認の対象者となっています。面談時、実技試験についての確認が行われます。よろしいですか?」


「えっと、はい。ところで、実技確認とは何でしょうか?」


「実技試験の際、こちらが想定した範囲を超えた結果が出た場合に、対象者の能力を確認する行為です」


 うーん、これは、どこかで想定を超えたってことか。


「なるほど、僕は不正を疑われていると言う事ですね?」


「いえ、疑っているのではなく、試験結果に対する根拠を確認するだけです」


「あの、どちらの試験でしょうか? このままでは、不安で眠れませんが……」


「私では、重持久走か探索競技のどちらかまでは分かりません」


 煽ってみたものの、教えてはくれないらしい。


「そうですか……」


「合格者の受付は、以上となります。面談日程は、九の月二週一日の十時からとなります。番号の若い順に行いますので、受付番号一番のイロハ君は十時までに正門前まで来てください」


「はい、ありがとうございました」


 

 どうやら、俺が一番遅かったようだな、外へ出るとテリアとロザが待っていた。


「遅かったね、イロハ。実技確認とかがあったの?」


「いや、それは面談で行うらしい」


「結局、実技確認とは何だったんでしょうか?」


「ああ、実技確認って……うーん、要するに学園が想定しないことをやったので、不正を疑っているっぽいね」


「えー! イロハ、不正したの?」


「しとらんわい! 一緒にやっただろうが、実技試験は」


「まあ、その実力を示せって事みたいだね。特に問題無いよ」


「ふーん、なんか学園って面倒くさいねー」


「そろそろ帰りましょうか。私、眠たくてしょうがないです……」


「用事も終わったし、さっさと帰ろう!」


 


 トクトク亭の食堂で、次の面談についてのすり合わせをすることになった。


「次は、九の月二週一日の十時だね。テリアは、俺と近い番号だから十時前に着かないとな。ロザはどうする?」


「私も一緒に行きます。面談は、複数個所でするそうなので、順番はすぐ回ってくると思います」


「では、またな。テリア、ロザ」


「おー!」


「はい」



 特に問題なく、三人ともスレイニアス学園の一次試験を突破した。

 うーん、問題と言えば、実技確認が気になりはするが……不正はしていないしね。


 試験中に出会ったギレット、モルキノ、ナシム、メタボなんとかは、合格したのかな?

 それに、王族の子供が学校に行く歳とか言っていたし……。


 面談とはどんなことを聞かれるのだろうか。

 

 社会人の面接とかは得意な方だったけど、世界が違えば勝手も違うし、ましてや子供の面談だもんな……気になることが多い。

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