九十話 入学試験:お昼休憩

 とりあえず、実技試験前半戦の重持久走は、なんとかなったな。

 重さには、ほとんど関係がなかったが、タイトル詐欺というやつじゃないのか?


「一時間足らずだったけど、疲れた。みんなで返却できてよかったよ。テリアのは小さかったけど」


「小さいって言うなー! ねえ、次の試験って、何時からかな? ウチ、着替えたい」


「私も、体を流したいです……」


「確かに、あの鉱石の崩れた粉で服が汚れたな。さすがに次の試験は、昼食後とかじゃないか?」


 ん……?

 今、グラウンドには、三、四十人くらいの返却者と、五十人くらいの失格者がいる。

 後は、出走待ちの第三班だ。

 

 第一班は、百六十人……少なくとも五十人ほど足りない。


「ロザ、全部で何班あったか覚えている?」


「全部で六班でしたよ、最後の班だけ百五十人です」


 ロザは、優秀だな。


「ありがとう! さすが、ロザ」


 ということは、全部で九百五十人……。

 すでに、第二班がいないし、第三班に鉱石を配り始めたことを考えると、十一時から三十分おきにスタート。

 これを六回繰り返すと……最終の六班は一時半スタート。

 今が十二時……探索競技も同じ班でやるのかな?


 それだと、探索競技という試験の時間は三十分程度と予想されるが……。


 待てよ……受付は確か十一あったよな?

 百人ずつで受付していたとしたら、人数が合わない……うーん、どうでもいいことだけど気になってしまう。


 受付が十なら納得できるけどなぁ。


「ちょっとー! なんでウチには聞かないの? 天才なのに……」


 うるさいなー、今考え中なのに。


「あー、じゃ、テリアさんよ。運んだ鉱石の名前は?」


「えっ……か、かんかん鉱石、かな?」


 ……まあ、ドンマイだ。


「ロザ、正解をどうぞ」


「タルカン鉱石です」


 ロザは、優秀だな。


「正解!」


「むきー!」


「では、テリア。今年、学園の試験を受ける人数は?」


「……えっと、百六十人が、一、二、三…………だいたい、千人くらい?」


 ……まあ、どんぶり勘定だね。


「ロザ、正解をどうぞ」


「今年、学園の試験を受ける人数は、九百五十人です」


 ロザは、優秀だな。


「正解!」


「むぅぅ……」


「……ほらな? ロザに聞くだろ、普通。天才さんには、特別にお願いしたいことがあるから、普通のことはロザに任せとけばいいよ」


「と、特別? 普通のことは……ね? もしかして、バカにしてる?」


「そーんなことないよ、テリアを尊重している」


「村長にしてる? 代表ってこと? うーん、そっか、分かった」


 テリアは……ふぅ。

 こんな感じで、よく王都最難関の学園を受られたもんだ。

 勉強とは違った部分の……いわゆる天然さんかも知れん。


「そろそろ、時間みたいだぞ、村長」


「ほんとだ、試験官の人が何か言うみたいよー」


 ふーん、ちょうど一時間くらいか、なるほどね。

 あの鉱石の自然崩壊時間は、やはり一時間程度のようだ。

 消えた五十人ほどが、ぞろぞろと引率されて来た。



「第一班の皆さん、お疲れ様でした。この後、昼食を取り、この場所へ集まってください。集合時間は一時間後となります。遅れないように気をつけてください。昼食は、学園の食堂で無償提供をしています。着替えについては、学園の施設を開放していますのでご利用ください。では、解散!」


 一時間か。

 どう頑張っても、同じ班での競技になりそうだな。


「とりあえず、着替えて食堂へ集合だな、じゃ、また後で」


「分かったー!」


「終わったら食堂へ向かいます」



 ◇◇



 食堂へ来てみたが……人が多い。


 護衛パーティにもらった服と靴に着替え、体は時間がないので拭く程度にとどめた。


 相席でよければなんとか割り込めそうだが……待たないと、村長がキャンキャン吠えそうなので我慢するか。


 昔、急かしたことあったもんな……「外出前の着替えは、年齢に関係なく女性は時間がかかるものよ?」って妻がよく言っていたし。


 ……化粧とかしない子供にも、当てはまるもんかな?



「おまたせしました、イロハ君」


 ほー、なるほど。

 髪型を整えてくるってのがあるのか。

 ボサボサになっていたポニーテールが、朝の整った状態へ戻っている。


「いや、そんなに待ってはいないが……なんで、ロザだけなんだ?」


「その、テリアは……着替えるのが遅いんです。だから、先に行ってと」


 遅い……なんか理由があるのか? と思ったけど、どうでもいいや。


「ふーん、まあいいけど。見たところ、席は空いて無さそうだから、相席になると思うよ。僕は、一人でもいいから、二人席を探していたらどうかな?」


「一緒に食べないんですか……?」


 悲しそうなハの字眉だなあ。


「そんな時間はないんじゃないかな? もう、残り時間は三十分くらいしか無さそうだ」


「……そうですね。残念です」


「夕食ならみんなで食べられるさ。宿も同じだし。では、僕は適当に相席してくるよ。集合時間、遅れないようにな」


「はい!」


 ロザと別れて、一人でお食事。

 お盆持って差し出すと、適当に一食分が乗せられた。


 どこが空いているかなーっと?


 ショッピングセンターのフードコートみたいな食堂で、空席を探す。

 百六十人だもんな、キャパは多く見積もっても百人ってところか。


 おや?

 キノコ頭のぽっちゃりさんが、一人で三席分を占領しているぞ?

 少しズレてもらえば座れそうだ。


「すみません! 少しよけてもらえませんか?」


「……」


 なんだ?

 聞こえないのか……?

 それに、心なしか対面に座っている三人からは冷たい視線が……。


「あの、すみませんが、少しよけてもらえませんか?」


「……チッ、おい」


 不機嫌そうに対面の子へ目配せをして、何かの合図を送っているキノコぽっちゃり君。

 

「そこの君、早くどこかへ消えなさい!」


 なんだ、このヒョロヒョロ男は。

 対面から突然おかしなことを言う痩せた男の子。


「……なんで?」


「メタベックさんが、食事をしている。邪魔だ」


 メタベックさんって誰よ!


「はぁ? 僕も食事をするところだし、他の席も空いていないから、少し空けてくれればいいって」


「ここは、空いていないからどっかに行け! 逆らうと、タダじゃ済まなくなるぞ?」


 これって、またモルキノさんみたいな偉い人系か?

 まだ、身分差に慣れていないから、勘弁してほしいよ……。


「分かった。どこかへ行くから教えて。そのメタベックさんって、何者ですか?」


「……僕を知らないだと?」


 キノぽちゃさんが、初めて喋った。


「はい、知りませんので、失礼を承知で今後のために教えて下さい」


「僕は、ムスカフライ家の長男、メタベック・ムスカフライだ。一等民だから、気安く話しかけるなよ! 田舎者は、向こうへ行ってろ。飯が不味くなる」


 散々な言い方である。


「はぁ、そのメタボリックさんは、どんな感じで偉い方なんでしょうか? 田舎者なんで、すいません……」


「ムスカフライ家は、王族の遠縁だ。お前のような奴が話しかけていい相手ではないぞ? 分かったら、どこかに行け! それに、僕はメタベックだ」


 よかった、つい煽ってしまったが、さすがにメタボは古代語ではないみたいだ。


「そうなんですね、それは失礼しました。では、約束通り他の席へ移ります」


 王族の遠縁か……。

 また、めんどくさい相手と出会ってしまった。

 さっさと退散じゃい!


 ちょうど、食べ終わって立ち上がった人がいたので、すかさず席ゲット!


「横、失礼します」


「ちょいと、君。そこは知り合いが座るんだ、どいてくれないか?」


 ……学園には昼食を簡単に食べさせてくれない呪いでもあるのか?

 

 今度は、隣の席の赤髪にちょっかいを出される……。

 もー、無視、無視。


「……」


 サッと食べ終われば何も言うまい、秘技、イッキ食い!

 ……などという技は持ち合わせていないが、早食いの努力はしよう。


 普通に急いで口へ放り込む、スープで流し込む……。


「君、何を黙って食べ始めているんだ? どいてくれって言っているだろ?」


 さらに、モグモグ、パクパク、ズルズル……。

 パン、何かの肉団子、スープ、と順序良く三角食べも忘れない。

 

 そういや、三角食べって否定的な意見もあったな……。


「君っ! いい加減にしないか! 聞こえていない振りなんかやめろ!」


「モグモグ……何? パクパク……聞こえているよ、ズルズル……」


「どけ! って言ってんだ、分かんないのか?」


 ギャーギャーと……俺が食べ終わるまでに、誰も来ないじゃないか。


「ズズズ……ふぅ。ごちそうさま。さてと、その知り合いとはどなたですか?」


「まだ来ていないが? 文句あるのか?」


「あるね。知り合いは来ていない。僕は、その間食べ終わる。これの何が問題だ? まさか、こんなに人がいて順番待ちになっている状態で、未だに来ていない知り合いのために、貴重な席をあなたの権限で空けておけとでも言っているのか?」


「……ふざけるな!」


「はぁ? ふざけているのは、君だろ。僕が、誰に迷惑をかけた? 言ってみろよ、さあ」


「俺に迷惑をかけた。ほら、言ったぞ?」


 おかしなことを言うもんだ。

 感情的な奴だなぁ、だったら……。


「ふぅ。では、どんな迷惑なんだろうか?」


「俺が、取っていた席に、お前が勝手に座った」


「何のために席を取っていたんだ? 一応言うが、知り合いのためとはいかないぞ?」


「知り合いのためだよ! なんでダメなんだよ!」


「ここにいないし、まだ来ていないから。それに、君は知り合いと言っているけど……本当にそんな人、いるの?」


「いるに決まってるだろ! バカにしてんのか!」


「じゃ、すぐに連れてきなよ。じゃなきゃ信じられないなー」


「だから、もうすぐ来るんだよ!」


「えー、全然来ないじゃん。ハッ! まさか……嘘をついているんじゃ……」


「おい! 嘘じゃないって、本当だって、信じてくれよ!」


 おやおや、急に顔色が悪くなったぞ?

 元々、真っ直ぐな性格で良い奴なんだろう……その、悪いな赤髪君。


「……なんか、焦っていない? 怪しいなぁ」


「ちょ、なんなんだよ……。あっ! ほら、見てみろ、あれ」


「んー? どこどこー?」


 テリアを真似て、明後日の方向を見てみた。


「どこ見てんだお前、あっちだよ! 向こうから来ているだろ? あの、がっちりした緑髪のあいつだよ」


 おっ、知り合いとやらが、やっとお出ましだ。


「あら、本当だ。じゃあ、君は噓をついていなかった。こりゃ、僕が悪かったようだね、認めるよ。君は、正直者だ!」


「やっと分かってくれたか。俺は、嘘なんてつかないんだ」


 あからさまにホッとしたご様子。

 話題も逸れたようだし、退散しますか。


「てっきり騙されているのかと思ったよ。よかった、君が正直者で。僕は、イロハ。お互い合格したら、その時はよろしく!」


「おう! 俺は、ギレット。そして、こいつは、バルクロウ。俺も証明できてよかったぜ」


「な、なんだよギレット。それに、誰だなんだ、この人……?」


 そりゃ、そうなるよな、バルクロウ君。


「じゃあ、僕は準備があるので、またな、正直者のギレット!」


「よせよー、照れるぜ。じゃあな、イロハ!」


 あー、しんどい。

 調子に乗せやすい奴だったな……ギレットと言ったか。

 

 さて、便所で用を足して、早めに集合場所へでも行っておくか、食堂は込んでいるし。

 

 早食いして、ちょっと苦しい……。

 何があるか分からないから、早めに戻るか。

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