九十一話 入学試験:探索競技 その一

 まもなく、集合場所へ到着。

 すでに、早食い組の五十人ほどが集まっている。


 十五分前か……。


「戻ってきた者は、番号札をこちらで確認しています。まだ、見せていない方は、ご協力をお願いします」


 なに? 流れ作業でやっているのか?

 こりゃ、時間が押しているな。


「すみません、これ、番号札です」


「一番ですね。はい、確認しました。この付近にいて下さい。探索競技の開始時にいない場合は失格となりますので、注意してください」


「はい。探索競技は、第一班だけで行うんですか?」


「試験についての質問は、お答えできません。説明までしばらくお待ち下さい」


「はい、すみませんでした……」


 徹底している。

 さすがは学園といったところか。


「おーいおい! イロハー!」


 なんだその呼び方は……。


「なに? テリア」


「早かったね、席は空いてたの?」


「うーん、それについては……結果的に席へ座ってちゃんと食べられた」


「……また、なんか揉めたんだ」


 ジトッとした目で見るなよ。


「またって、なんだよ! 僕じゃない、向こうからなんだって」


「イロハ君、本当に揉めたんですね……」


「ロザまで……。揉めたんじゃなくて、絡まれた、だ」


「テリアが、言っていたんです。イロハ君をひとりにしない方がいいって。どこかですぐ揉めるからって……」


「ちょっと待て。問題を起こすのは、テリアの方で……いや、まあ、そうだな、気をつけるよ。揉めてはいないけどね」


 いくらここで言ったって、言い訳に聞こえるな、やめとこ。


「私は、イロハ君が心配ですよ……」


 変な空気になってしまった。


「おっと、二人はあの試験官に番号札を見せた? 戻った流れで受付をしているらしいぞ?」


「そうなの? じゃ、行こー、ロザ」


「うん」



 はぁ……。

 俺、そんなにトラブルメーカーに見えるのか?

 

 心配されるほどに?


 うーん……確かに、学園に来てから揉めてばかりではある。

 絡まれるのは、俺が生意気だったり、余計なことに首を突っ込むからで……。


 見て見ぬ振り、事なかれ主義、他人の振り……できない。

 どうしても理不尽なことには、対抗したくなる。

 

 今に限ったことじゃなくて、以前からそんな性格だったし、そのせいで就職した会社を辞めることになったり……はぁ、だ。



 ◇◇



 いよいよ、一次試験最後の探索競技が始まる。


「番号札一番から百六十番のすべての番号を確認しました。では、これより実技試験の探索競技の説明を行います。探索競技の制限時間は一時間です」


 ふーむ、探索競技か。


「学園の敷地のどこかに探索プレートという物を配置しました。皆さんは、そのプレートを探し出してください。探索プレートは、このようなものになります。一つずつ番号が振ってありますので、同じものはありません」


「……」


 妙な間が……現物の確認をしろってことか?

 

「確認はできましたか? 競技となりますのでプレートの取得は、早い者勝ちとなります。見つけた者は、試験官へお渡しください。一人当たりひとつまでとなります。複数持ってきた者、取得に至らなかった者は、失格とさせていただきます。今回も、直接の妨害行為を禁止します。では、質問を受け付けます」


 試験官が、探索プレートなる物を見せてくれる。

 普通の金属製で大きめのスマホって感じに見えるが……魔道具であることは確定だ。


 この光り方、やっぱりプレートのようだ。

 視覚強化は、ほんとに便利だよ。


 真っ先に挙手をしたのは……さっきも質問していた目力のある女の子か。

 次いで、複数人が挙手をしている。


「そこのあなたから順に、質問をどうぞ」


「はい! 探索は、仲間と協力をしてもいいのでしょうか?」


 うん、いい質問だな。


「協力での探索は禁止していませんが、人数分のプレートが必要になりますので、必ず事前に取得の優先順位を決めていた方が良いでしょう。合格判定は、持ってきた者のみになります、ご注意を。では、次の方」


 ああ、確かに三人組の場合、二つしか見つからなかったら……揉めるな。


「はい! プレートの発見が同時となった場合は、どうなりますか?」


「同時になることはあり得ません。仮に同じところを探索したとして、必ず先に始めた者がいるはずですので、後から来た者が妨害行為に当たります。次の方」


 おっと、これはいいヒントが来たぞ。

 ということは、本当に探索が必要で、すぐに見つかるような状態には無いってことだ。


「はい。スキルが無いと発見できないような場所にありますか?」


「その質問には、正しく答えられませんが、身体能力、知識、スキル、経験などを活かして探索をする競技となっております。はい、次の方」


 答えられないは、イエスってことだな。

 だいたい分かってきたぞ、お宝の場所には何らかの仕掛けがあると見た。

 後はそうだな……アレが気になるところか。


「はい! 探索競技中に体調が…………」



 今回は、かなり多くの質問が続いた。

 しかし、聞いてほしいことが出ない……またテリアにさせようか。

 

 テリアの肩をツンツンツーン。


「何よ?」


「テリア、ちょっとさ、プレートの番号って意味があるのか聞いてくれ」


「またウチが聞くの? イロハが聞けばいいじゃん!」


「いや、テリアだから特別にお願いしようと思ったんだけどな……ロザじゃ厳しいし」


「と、特別ね! 分かった、任せて!」


 シュッと挙手をして、すぐに順番が来た。


「はいっ! 探索プレートの番号に意味はありますか?」


「あります。各番号によって評価も変わります。高評価の番号情報は公開しません」


 うーん……だったら、もう一個疑問が出てくるよな?

 ロザは、厳しいか。


 お?

 手をあげてみたが、隣の奴が先か。


「はい! 見つけたプレートの譲渡は可能ですか?」


 おおー!

 いいね、それを聞きたかった……って、さっきのギレットとかいう奴じゃん。


「条件付きで可能とします。協力関係にある者同士の場合は認めます。それ以外の場合は禁止致します。次のあなた、どうぞ」


 俺が最後の質問者のようだ。


「はい。先ほどの話に近いですが、探索プレートの放棄および放棄されたプレートの取得はどのような扱いになるのでしょうか?」


「そのような想定はしておりません。放棄する者がいるのでしょうか?」


 えっ?

 まさかの、質問を質問で返すって、大人がやっちゃいけないやつなのでは?

 しかも、質問をそのまま受け取ってしまうとは……こっちが想定外だよ。

 

 本当に聞きたいのは、最初に見つけたプレートしか権利が発生しないのかってことなんだけど。

 こりゃ、周りに悟られずに聞くのは難しいか……。

 

「はい、では例に挙げてみます。私を含む三人の協力関係を持ったとします。仮に、二枚取得したことで高評価番号に気づいたとした場合、三枚目が目的の番号ではなかったら放棄の可能性が出てきませんか?」


「なるほど。つまり、発見者の取得の義務はあるのかと言いたいわけだね?」


 結局、バラすんかい!


「その通りです……」


 おや?

 別の試験官が話すようだ……というか、クラウトリーさんじゃないか。


「えー、それについては、私から説明しよう。先ほどの件、試験官へ渡したうえで所有の放棄を認める。放棄者は改めて探索する事。これでいいかな?」


 ま、それなら拾ったとかも無いし、番号の選択権もあるな。


「はい。ありがとうございました」


「では、第一班が探索する範囲はこの北東部の範囲となります。道具が必要な場合は、ここにあるものを使用してください。建物の中は含みませんのでお間違えの無いように。他の班との境界進入時には試験官を配置していますので注意を受けます。以上、探索競技開始!」


 学園敷地内の地図っぽい物を掲げて、こちらへ向けている。

 なになに、第一班は学園北東部、第二班は学園北西部、第三班は学園南東部、第四班は学園南西部、第五班は学園中央中庭、第六班は学園裏演習場となっているようだ。


 横には、丈夫な紐、土を掘る道具、岩を砕く道具、壺みたいな器、鉄板、鉄球……いろいろな道具が置かれている。


 まさかの、同時進行だった。

 三十分おきにスタートするから、第一班の終了は十四時。

 最後の第六班の終了は、十六時半。


 あくまでも、目安だけどね。

 すでに十分くらい押していたし……。


 俺は、まだ地図を見ているのに、みんな走って行っちゃったな……。


「テリア、ロザ。二人は行かないのか?」


「あんたねー、何をのんびり構えているの? ほら、三人協力関係って言ってたじゃない。ねー、ロザ?」


 そりゃ、例えだよ。


「はい。イロハ君、この三人は協力関係ですよ。今度は私も力になれるよう頑張ります!」


 ロザ、気合い入ってんな……どうやら重持久走の挽回を図りたいらしい。


「ウチも、重持久走よりは自信あるんだよね! まあ、見てなさいよ」


 うーん、どうしようか。

 実は、探索プレートの位置がすべて分かっている……とか言ったらマズいかな?

 しかも、ある程度高評価のプレートも想像できるんだよね。


 思えば、この学園に来て、実技試験の説明前になんとなく視覚強化を使ったら、なんか地中やら、建造物やら、樹上やら、何気ない岩の中やらにポツポツと青白い光が見えちゃっている。

 

 さっき、実物の探索プレートを見て確信したよ、同じものだって。

 最初は地雷か何かと思って焦ったよ。


「て、提案があるんだけど……。どうかな?」


「どうしたの? ウチじゃ不満……とか?」


 もう、言うしかないか。

 しれっと、あーこんなとこにー! なんてことを三回も続けたくないし。


「あ、いや……探索プレートがどこにあるかは、だいたい分かるんだ……」


「は?」


「……は?」


「だよな。そうなるよな。だけど、間違いない」


「じゃあ、そんなに言うなら、どこにあるか一個言ってみてよ!」


 俺を疑うとは、偉くなったもんだ、テリアよ。


「うーん、じゃ、あそこを見て、あの坊主頭二人と女の子一人の組み合わせ。あの左の坊主が掘っている所から、もうすぐ一個出てくるぞ」


 まもなく左坊主君が探索プレートを掘り当てた。


「……げっ!」


「……うそっ!」


「な、言ったろ? それで、提案は聞く気になったか?」


「聞く聞く聞くー! どこにあるのー? ね、ね?」


 うるせーよ!


「テリア、落ち着いて。まずは、イロハ君の提案を聞こうよ」


「はーい」


「まず、この探索は、競技なわけよ。その上でプレートに高評価、つまり点数があるということ。それを考えて、今わかることは……取得難易度が評価につながると想定している」


「取得難易度って、さっきの坊主頭のはどうなの?」


「あれは、難易度的に簡単な方なんじゃないか? 評価は低いさ」


「イロハ君、その、難易度の高そうなプレートは分かりますか?」


 ロザは、なかなか鋭い。


「うん。なんとなくの話だけどね」


「すごい! でも、試験ではイロハ君に頼ってばっかりで……」


「そう、悲観することも無いと思うぞ? だって、場所が分かっても、恐らくちゃんとそれに対応した手順を踏まないと、高評価プレートは取得できないようになっていると思うから」


「みんなで、協力……とかですかね?」


 余程、取得に貢献したいらしい。


「まあ、そんなところかな。分かったか? テリア」


「だいたいはね。じゃ、自分の得意なこととかを話せばいいんだよね?」


 提案の肝、まさにこれが聞きにくい事だったんだよ。

 こいつは……察しがいいのか悪いのか分からん奴だな。


「そう、そう。まずは、それぞれの得意なことを教えてほしい。できれば、自分しかできない事とか、できる人が少ない事とかが望ましいよ。いいかな?」


「分かったー!」


「もちろんです!」


 さて、クリアは確定として、高難易度プレートをちゃんとゲットできるかな?

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