幕間十話 『新遊戯説明板』が出来るまで

 ◇イロハとモーセスが新遊戯について打ち合わせをしている時の細かい話



「……モーセスさん、今説明した遊戯のやり方、分かりましたか?」


「あ、ああ。だいたい分かった。でも、コンコロールって名前はいいが、他の名称が役だとか、ぞろ目だとか、もうちょっと分かりやすい名前が欲しいところだな」


「確かにそうですね。役の名前か……」


 そういえば、チンチロって『アラシ』とか『ピンゾロ』みたいな名前だったような……。

 うーん、もうちょっとパッと見で分かりやすそうな何かが欲しいところ。


「同じ数が三つ出るということで、ロクサン、ゴサンなんて言うのはどうかね?」


「数の役に数字を付けるとややこしくなりそうですね。な六の○○や五の○○のような、○○だけを考えた方が簡単な気がしますね」


「なるほど、だったら役の種類から行くと、三つぞろ目、順番、二つぞろ目、役無し、と四つ考えればいいわけだな?」


 ふぅ、こりゃ時間がかかりそうだな……もう、チンチロのを使っちゃうか。


「はい……三つぞろ目をアラシとか、順番をシゴロとかどうですかね?」


「嵐? あー、上の山が三つ揃いを表しているみたいな意味かな? シゴロは……そのままの読みか」


「山? ああ、字の事ですか……三つ揃いを表す字…………」


 アラシって片仮名だったような……。

 三つ揃いを表す字か……品、森、晶、轟、くらいしか知らんなー。


 …………おっ!

 森ってちょうど良くないか?

 ぞろ目を木に見立てて、三つぞろ目は『森』、二つぞろ目は『林』、揃わない時は『木』……木か、これはなんか違うな。


「コロコロにも役の名前なんか付けていなかったからな。何かちょうど良い名前があればよいのだが……」


「モーセスさん。森なんかどうですか? 二つぞろ目は林で……」


「ん…………!! それだ、そういう感じのものだよ! 森、いいね」



 こうして、二人で役の名前を決めていった。


 検討の結果、役の名前は、三つぞろ目が『もり』、二つぞろ目が『はやし』と、数字を木に見立てた命名となる。

 特殊役の『シゴロ』、『ヒフミ』はそのまま使い、バラバラの出目は『バラ』とした……もう、これでいいやって感じのノリで。

 

 この後も、店側のディーラーを何と呼ぼうか? とか、コロコロを投げる動きや掛け声をどうしようか? など、意外にモーセスさんはノリノリで考えていた。


 ディーラーは『ローラー』と呼び、お客さん側は、特に決めない方が良いということで、遊戯者のままとなった。

 

 掛け声は、モーセスさんが「こんこーろっ!」とか言っていたので、断然却下した…………さすがにそれは、無い。

 

 俺も調子に乗って、専用通貨……いわゆるチップを作ったら売り上げも管理しやすく換金も楽なのでは? と、さらに仕事を増やしてしまった。

 

 幸い、専用通貨は銀細工で作ることが可能で、古代語で銀をシルバーと呼ぶらしい……って、なぜだかもう知っとるわい!


 まあ、ネーミングはシルバにした。


 そして、最低単価を百ソラスにするか、千ソラスにするか。

 俺からは、運営費の部分を説明して、できるだけ高い方がいいと伝えたら、千ソラスになってしまった。

 

 これには訳があって、純銀ではないにしろ銀細工で作ると、一枚あたりの製作費が五百ソラスはかかるという事だった。

 百ソラスで貸して持ち逃げされたら大損やね。

 その代わり、交換レートは等価交換で当日換金という形にすれば、お客にも、店にも優しい仕組みになるのでは?


 あとは、入場料を取るか? 会員制にするか? 上等客向けの高額部屋を作るか?

 これらについては、モーセスさんも「しばらく営業してみて決めないと、客も判断がつかないだろう」と言っていた。

 まあ、運営についてはお任せである。

 

 一応、親権を店側固定で長期的には回収できるようなルールとしているが、親が強い役を出せば、子は何もできなくて終わるというのも芸が無いので、強い役限定で一発逆転『下剋上』チャンスを設けてみた。


 話も終盤になり、これで安心と思っていたら……。


「イロハ君! こうなったら店の名前も変えたい。何かいい案は無いかね?」


「…………はい?」


 正直、驚いたというか、大胆というか……分からんでもないが、これまでのイメージというものがあるだろう。

 下手な名前つけてしまうと、既存客がぶっ飛んでしまう……大丈夫なのか?


「せっかくなので、この店を一新すると考えたら……店の名前も変えてみようかとね」


「知りませんよ、どうなっても」


「ああ、分かっている。これまでの客が来なくなるという心配だな?」


「そうですよ……大丈夫なんですか?」

 

「そうかも知れない……だとしてもだ、私も変わる、遊戯も変わる、なら、店名も変わる。何もかもを最初、一から始めたいと思っている!」


「モーセスさんの気持ちは分かりました。何か良い名前を考えてみましょう、二人で……」


 

 その後、モーセスさんがどうしても『森』を使いたいと言い出したので、結果『コンコロの森』という店名になった。

 


 ……という訳で、ここに誕生しました。

 遊戯場『コンコロの森』総責任者モーセスさん。


 

 とりあえず「おめでとうございます!」と拍手でたたえておいた……。


 そして、やっとのことで『新遊戯説明板』が完成!


 ふぅ、長い戦いだった。


 お互いの健闘をたたえ合い、今後とも良い付き合いをしていきましょうの意味で、固い握手を交わした。

 


 

 <新遊戯の説明板>


【新遊戯コンコロールの遊び方】

 

 ――遊技場で使用する賭け金は、全て専用の通貨『シルバ』をご利用下さい。

 

 ――最低購入単位は、一枚いちシルバとなり、一千ソラスで購入できます。

 

 ――換金率は、いちシルバ=一千ソラスです。

 

 ――店側で遊戯をする人はと称します。

 

 ――遊戯者は、ローラーがいる席に着いてから、賭け金を決めて下さい。

 

 ――はローラーが担当し、遊戯者はとなります、親権はローラーから

 

 ――親に対して、子は同時に三人まで勝負が挑めます。

 

 ――最初に子が決めた賭け金を『賭け台』へ乗せます。

 

 ――賭け金には上限があり、当日の上限はローラーへご確認ください。

 

 ――勝負は店側対お客様となり、お客様同士の勝負は認めておりません。

 

 ――コロコロの振り順は、親の目が確定後、子が振ります。

 

 ――親は三回振って、必ず一番強い目を選択します。

 

 ――子がコロコロを振る回数は三回までとなります。

 

 ――勝敗は、出目のによって必ず決着します、引き分けはありません。


 ――勝負に勝った場合、賭け台の賭け金が戻り、配当金を受け取ります。


 ――勝負に負けた場合、賭け台の賭け金は没収されます。

 

 ――出目のの強さは、役一覧で確認して下さい。

 

 ――退店時は、すべてのシルバを換金して下さい。

 

 ――翌日以降のシルバの換金は行いません、ご注意下さい。


【役一覧】

 三つとも同じ目の役=もり

 例)ろくもりいちもり

『六、六、六』~『一、一、一』の計六種。


 特殊連番の目の役=シゴロのれん、ヒフミのれん

 例)シゴロ、ヒフミ

『四、五、六』、『一、二、三』の計二種。


 二つが同じ目の役=はやし

 例)ろくはやしいちはやし

 ただし、残りの一つは役に影響しない。

『六、六、五』~『一、一、二』の計六種。


 出目が不揃い、役無し=バラ

 例)バラ

『六、四、二』や『一、三、四』など。


【通常勝敗】

 子が勝った場合、賭け金の一倍配当となります。

 ――役の強さは、森、シゴロ、ヒフミ、林、バラの順です。

 

 ――同一役の勝負は、数字の大きい方が勝ちです。

 

 ――同一出目の場合は、親の勝ちとなります。


【下剋上達成条件】

 子が特定条件を達成し、下剋上で勝った場合は、賭け金の二倍配当となります。

 

 ――親が六の森の時、子が一の森を出した時のみ、森の下剋上もりのげこくじょう達成。

 

 ――親がシゴロの時、子がヒフミを出した時のみ、連の下剋上れんのげこくじょう達成。

 

 ――上記の二種以外の場合は、通常勝敗となります。

 

 ――親は下剋上ができません。



【コンコロール遊戯実践例】

 ローラーは店側、客をルグロシン、カイリーン、フラボマとする。


 一人遊戯)賭けは金、十シルバ。

 ローラーの出目『四、四、六』役は、四の林。

 ルグロシンの出目『五、五、一』役は、五の林。

 

 ルグロシンの勝ち、賭け金の十シルバが戻り、さらに十シルバの配当を受け取る。


 二人遊戯)賭け金は、三シルバ。

 ローラーの出目『二、二、一』役は、二の林。

 カイリーンの出目『五、五、五』役は、五の森。

 フラボマの出目『二、二、六』役は、二の林。

 

 カイリーンの勝ち、賭け金の三シルバが戻り、さらに三シルバの配当を受け取る。

 同一役のため、親権によりフラボマの負け、賭け金の三シルバは戻らない。


 三人遊戯)賭け金は、二シルバ。

 ローラーの出目『六、六、六』役は、六の森。

 ルグロシンの出目『四、五、六』役は、シゴロ。

 カイリーンの出目『二、三、四』役は、バラ。

 フラボマの出目『一、一、一』役は、一の森。

 

 ルグロシンの負け、賭け金の二シルバは戻らない。

 カイリーンの負け、賭け金の二シルバは戻らない。

 フラボマは森の下剋上達成、賭け金の二シルバが戻り、さらに四シルバの配当を受け取る。


 二人遊戯)賭け金は、五シルバ。

 ローラーの出目『四、五、六』役は、シゴロ。

 ルグロシンの出目『一、二、三』役は、ヒフミ。

 カイリーンの出目『四、四、四』役は、四の森。

 

 ルグロシンは連の下剋上達成、賭け金の五シルバが戻り、さらに十シルバの配当を受け取る。

 カイリーンの勝ち、賭け金の五シルバが戻り、さらに五シルバの配当を受け取る。

 

 二人遊戯)賭け金は、二十シルバ。

 ローラーの出目『一、一、一』役は、一の森。

 カイリーンの出目『六、六、六』役は、六の森。

 フラボマの出目『一、一、一』役は、一の森。

 

 カイリーンの勝ち、賭け金の二十シルバが戻り、さらに二十シルバの配当を受け取る。

 同一役のため、親権によりフラボマの負け、賭け金の二十シルバは戻らない。


 一人遊戯)賭けは金、十シルバ。

 ローラーの出目『一、三、五』役は、バラ。

 フラボマの出目『三、四、五』役は、バラ。

 

 同一役のため、親権によりフラボマの負け、賭け金の十シルバは戻らない。



【注意事項】


 ――過度な暴言、暴力等はおやめください。


 ――道具、スキル等、不正が発覚した場合、直ちに警備隊へ通報します。

 

 ――お帰りの際は、換金をお忘れなく。

 

 ――シルバの置き忘れはありませんか?

 

 ――翌日以降の換金には応じられませんので、お気を付けください。


 ――またのお越しをお待ちしております。




 遊戯場『コンコロの森』

 総責任者 モーセス




 出来上がった説明板を見て、感心してしまった。

 複雑なルールに、役の説明、さらに迷いやすいパターンの実践例など。

 細かいところまで網羅されているようで、初心者にも分かりやすいと思う。


 

 モーセスさんが、説明板をせっせと作っている間、自分用にコロコロ展開図と、地球のサイコロの比較図を作ってみた。

 やっぱり、この世界のサイコロには慣れていないからパッと見で数字か浮かばない……カンニング用ってことで。


 スキルによるイカサマ等についても、特に警戒する必要はないらしい。

 やはり、使用者の手を離れた状態で効果を及ぼすスキルというのは、かなり稀な存在だと言っていた。

 

 俺からは、配布用の役一覧みたいなものを作って、開店時に配った方が良いとアドバイスをしたら……すぐに作ってくれた。

 モーセスさんの熱の入りようが分かる、上手くいってほしいなあ。

 


 【コロコロの実物】


 自分用のサイコロ比較図


https://kakuyomu.jp/my/news/16818093087808378566


 参考のために書いてみた異世界サイコロ展開図


https://kakuyomu.jp/my/news/16818093087808496689


 【コンコロの配布用役一覧】


 モーセスさんがまとめた配布用役一覧


https://kakuyomu.jp/my/news/16818093087808560447

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