七十九話 皆からの・・・

 王都に到着してから、十日が経過した。

 この頃になると、予約していた客が続々と到着してきたので、宿も大賑わい。

 小学校の教室にいるような雰囲気があり、あちらこちらで同い年の少年少女の会話が聞こえてくる。

 時折、保護者と思わしき人物が訪ねてきたりと、準備に余念が無いようだ。

 

 俺はというと、ほとんどの時間を、訓練に費やすこととなってしまった。

 それぞれ、一日一時間から三時間ほどかけて習い、後は自主トレという名の反復練習、実に容赦の無い訓練だった。

 宿で出会った同年代の子と友情を深め合う……なんていう事もなく、どこぞの格闘家並みのスケジュールをこなす日々。

 

 おかげで、短期集中ではあったが、そこはさすが成長期の子供の体、自分でも感心するほどの成長をしたと言える。


 まず、ブルさんからは、逸らし技を徹底的に仕込まれた。

 原理は分かるのだが、咄嗟に角度を上手く調整することが非常に困難で、なんとか及第点ってところが限界だった。

 盾装備ではない俺なので、特別にグラブって言う腕に着ける籠手のような物を買ってもらった。

 

 この装備の金属部分である手の甲側で受けるのだが、最初は腕をバツ印にして盾に見立てた感じの逸らし技を学び、徐々に片手受けへとシフトしていった。

 

 実際、無生物強化と超相性がいいという結果に。


 次に、カラムさんからは、体捌き。

 これは単に、紙一重で避ける技術で、上手くなれば、撤退、けん、返し技など、様々な場面で有効となる。


 こちらは、身体強化を使ってカバーすればマシになったが……カラムさんが「足も身体強化できるのか?」みたいなこと言ってた。

 まあ、全身強化しているんですけどね……じゃないと、とてもついていけないよ。


 そして、ミネさんからは、近接戦闘なのだが……これって、軍隊格闘技っぽい。

 いわゆる、金的、目潰し、頭突きなどの何でもありで、最初はちょっと引いたんだけど、模擬戦の一対一は結構楽しかった。

 まあ、寸止めだからね。


 ミネさんには、部位強化が有効だった。

 関節技には、対抗する部位を強化し技抜けを狙う。

 裏技でオーラを見ていれば、背後を取られても近けりゃ分かる。

 柔道仕込みの寝技を披露してみたが、禁止技の無い状況ではどうしようもなかった。

 強いと言われる横四方固よこしほうがためをやってみたところ、普通に喉を殴られ、指をきめられ、固めるどころか上になりながらのギブアップ。

 横四方固って、女性にやると自分の顔の位置がぱいんぱいんに……子供だから許されたと思う。


 ゴメンナサイ、そして……ありがとう。



 こんな感じで、訓練漬けの三週間を過ごしたところ……御三方から、格闘士としてのお墨付きをもらった。


 これも、みんなが俺のスキルの危うさを心配してのことだったらしい。

 本当に、いい人たちと出会えたよ。


 ウェノさんはというと……何か忙しく動き回っていたようだけど、詳しくは聞いていない。


 八の月の最後の週には、現地で試験の案内があるらしいので、頃合いを見て確認をしに行く予定だ。

 

 そういや、訓練中に……ハッ! と気づいて、慌てて自宅、ミルメ、レジー、ラム、モーセスさんへ、それぞれ手紙を送った。

 筆記用具なんかを入れているお宝ボックスを久々に開けた時、最近まったく確認していなかったコアプレートを見つけたので、久々にチェックしてみると……。

 

 お蔵入りならぬお宝入りしていたコアプレートさんから……御光が差しております。


 早速、訓練の効果が出たみたい。

 ありがたや〜、ありがたや〜。


 コア:強化

 ■■■□□□

 スキル:真強化

 身体強化(真)●

 部位強化(真)○

 無生物強化(真)

 スキル:真活性

 細胞活性(真)

 スキル:真付与

 無生物付与(真)○

 生物付与(真)


 …………。


 ……こりゃあ、また驚いた。


 まさか、白丸の先があったなんて……確かに、頻繁に身体強化は使っていたし、なんとなく効果が上がっていた気はするけど……ふーむ。

 そうなってくると、少なくともスキルの成長度合いには、三段階のレベルが存在することになる。

 丸無し、白丸、黒丸……興味深いなあ。


 今度は、まだこの先もあるのか? という疑問が湧いて来る……。



 ◇◇



 王都についてからは、ひたすら訓練に没頭し、勉強の方はほとんど手を付けず……やっと九月を迎える。

 今日は、八の月最終日。


 明日は、いよいよ王立スレイニアス学園の入学試験だ。

 

 試験日は毎年決まっており、九の月一週一日が筆記試験、二日が実技試験となっていて、一次試験自体は二日間で行われる。

 その後、二日間の試験結果によって、後日に行われる二次試験の面談の日程が通知されるらしい。

 学力、実技、面談という難関を突破した者だけが、晴れて入学できるという流れだ。


 八の月五週一日……だいたい、二十五日くらいにスレイニアス学園へ直接確認をするために訪問したところ、筆記試験は例年通り四種類、実技試験は二種類の内容と案内されていた。


 筆記試験は『王国歴史』『計算問題』『礼儀作法』『思考問題』の四種類で、実技試験は『体力判定』『能力判定』の二種類が行われる。

 

 筆記については、ある程度予習しているので問題ないと思うが、思考問題だけは、その年によってかなり内容に違いがあるらしいので何とも言えない。

 

 過去問題は見つけることが出来なかったが、代表例みたいなもので『親と兄弟の一人、どちらかしか助けられない時、どちらを選びますか?』というような問題があげられていた。

 

 これは、何を答えても間違いではないが、理由……つまり、そう思った過程を答える必要があり、その内容を見て判断されるのだろう。

 礼儀作法などもあるくらいだから、常識や協調性などを見るんじゃないかな?

 

 ……以前、興味本位でやった、サイコパス診断に似ている気はするが。


 実技試験の内容は、当日発表のため事前に知ることはできないようになっている。

 ここ数年の傾向は、体力系でハーフマラソンレベルの持久走、荷運びなど、力と体力が主流。

 技能系では、得意スキルの披露、試験官との対人戦、集団対抗戦など、個の能力から集団行動においての協調性など幅広い。


 

 ゴサイ村にいた時は、情報が無かったので知らなかった。

 正確には、知る術を持っていなかったから、知りたくてもどうしようもないという話だもんな。

 

 ここ数年の出題傾向の情報が手に入ったのは、ウェノさんのおかげだ。


 王都に着いてから、初日の親睦会以来、何かに忙しく動き回っているなあと思いながらも、訓練を頑張っていたら「まあ、参考にしてくれ」と言って、さらっと情報をくれた。

 

 ここまで詳しい情報を集めるだけでも大変なのに、苦労した素振りも見せずスタイリッシュに去っていく姿は、一流の執事を彷彿ほうふつとさせる。


 お酒さえ飲まなきゃなーと考えつつも、完璧な人間なんていないよな……と。

 ウェノさんの執事モードは、相変わらずカッコいい! 感謝しています。

 

 

 今日は、試験の前日となるため、みんなで食事をしようってことになっている。

 もちろん、毎日誰かと食事はしているんだけどね。

 区切りというか、壮行会的な感じかな?


 食事会と言えば、高級店『チェバーリエ』だろう……ってことで、みんなが希望したようだ。

 また、あの料理が食えるとは……やべっ、よだれが。



 ◇◇


 

 一通り一流の料理を堪能し、解散せずに一度全員で俺の宿泊しているトクトク亭へ。

 

 できれば早めに休みたいんだが……と思っていたら、みんなから話したいことがあるんだそうだ。

 

 激励かなんかかな?


「それで、話したいことって何ですか? ブルさん」


「あ、その、あれだ。改まって言うのもなんだが、試験を頑張ってくれ。スキルの問題とかいろいろあるだろうけど、イロハは十分に強い。機転も効くし、状況判断も悪くない。自信を持っていいぞ! それと……これは、青の盾のみんなからだ、受け取ってくれ」


 ……服だ。

 黒っぽい、動きやすそうな服。

 何かの皮で出来ていて、ピタッとしていないレジャージャケットにズボンという感じだ。

 現代と違うのは、ちゃんと戦闘用の服となっている点だろうな。


 こんなことされたら……最近、涙腺が緩くなってアカン。


「えっと、ありがとうございます……」


「あ、あんまり気に入らなかったか?」


「いえ、す……凄く嬉しいです。ブルさん、カラムさん、ミネさん、ありがとう!」


「良かった。これから成長するだろうから、すぐ着られなくなるかもしれんな? それは、迷宮の魔物って奴から取れる上等の皮で出来ているんだ。格闘士ってことで通すんなら動きやすい方が良いだろうって、カラムが選んでくれてな」


「イロハは格闘士で行くんだろ? だったら、そういう服がちょうどいいと思ってな。俺も、スカウトを始めた頃には使っていたんだぞ?」


「色は、私が選んだのよ。あなたの髪の色に合わせてみたわ。それに、素早い動きなら目立たないような色が良さそうだと思って」


 ブルさん、カラムさん、ミネさん……みんな、俺のことを考えてこんなものまで……。

 いや、ここはしっかり感謝をしないと。

 

「うん。鎧でガチガチよりこっちの方がいいと思う。みなさんありがとう、大事に使います!」


「えー、ゴホッ、ゴホッ、あー、俺からもあるぞ? イロハ」


「どうしたんですか、そんなに咳して。ウェノさん」


「俺からはな、この靴を贈ろうかと思ってな。お前は足が速いだろう? それに、結構負担も大きいと思ってな。耐久と軽量重視の靴だ。ちなみに、俺の靴と材質は近いから、速歩に耐え得る代物って思ってくれていいぞ? ま、上手いこと使ってくれ」


「うわぁ! この靴軽いし、頑丈そうだ。ありがとう、ウェノさん!」


 ウェノさんまで……。

 学園の情報を集めてくれただけで、すごく助かったのに、こんなものまで準備してくれて……本当にありがとう。


「おう、気にすんな。お前が金を取り返してくれた礼でもあるからな」


 ウェノさんは相変わらずだな……。


 試験も明日に控えているし、合格すれば、みんなともいよいよお別れとなってしまう。

 そうなる前に、ちゃんと言うべきことは言わないとな。


「みなさん、ありがとうございます! 大事に使わせていただきます! そして、ネイブ領からこの王都までの護衛、お疲れさまでした。いろいろありましたが、無事到着出来て良かったです。本当に、お世話になりました」


 俺は、これまでのお礼も含めて、精いっぱいの感謝の言葉を口にし、深々と頭を下げた……。


 ゴサイ村から王都を目指し、二十三日程かけて到着。

 王都メルクリュースへの到着をもって、イロハ護衛パーティとの長い旅は終わってしまった。

 

 

 後は、スレイニアス学園に合格するだけだ。



 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒王都メルクリュース

 最終目的地:王都へ到着(出発より二十三日目)




 ―― 第二章 上京道中編 完 ――

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