七十八話 肝胆相照らす(かんたんあいてらす)

 王都でも有名な高級店『チェバーリエ』というところで食事をしている。


 ここは、これまで食べてきた宿屋の食堂とはわけが違うぞ……。

 白い壁、白い床、白いデーブルクロス、ええとこのホテルにあるレストランみたいなところだなあ。

 王都のお偉いさんともなると、大層なお店で食事をするもんだ。


 前菜的なものと、飲み物が次々に運ばれてくる。

 俺は、果実水という名の百パーセントジュースを水で割ったもの、他はエールか。

 ここは、ブルさんが音頭を取るようだ。


「ここまで、無事に到着できたことに、乾杯!」


「「かんぱーい!」」


 ブルさんらしい、短い言葉でありがたい。

 ワイワイ騒ぎながら雑談も捗る。


 みんな酔いが回ってきた頃に、メインディッシュとなる料理が運ばれてきた……イセエビのような大きいエビだが、双頭エビとでも呼ぼうか、頭が二つ付いている。

 料理は、エビの酒蒸しみたいな感じかな。


「ウェノさん、この料理どうやって食べるの?」


「ん? オオウミエビエビはな、この頭に割れ目を入れてあるから、ここを開くんだ。この中にあるドロッとしたのが、酒に合うんだよ!」


 ドロっとって……言い方っ!

 そして、お酒はまだ飲まないから。


 もう、説明下手かよ。


 えーと、エビミソね。

 頭が二つで、エビエビ……どう考えても特殊個体にしか見えん。

 どっちの頭が主導権を握っているのだろうか、そんな事が気になりつつ食べてみた。


 んまー!


 まさに、絶品。

 ちょいと苦みがあって、独特の海鮮風味でほんのり塩味、複雑で濃厚……ちと生臭いか。

 尻尾の方は、殻をめくったら、ちゃんと身が切り分けられていた。


 エビエビさんには悪いが、尻尾が二つになっていた方がありがたい……エビミソより尻尾の方が好みだった。


 今度は、ステーキと思わしきお肉だ。

 こちらも、ジューシーというか、柔らかくフルーティーなソースっぽいものがかかっている。


 高級肉は、塩で食べてみたかった……と思いながらも、美味しく頂きました。


 あー、白飯が欲しい。

 まだ、出会っていないんだよな、この世界で。



 料理も終盤、なんかいろいろ混ざった系果物が、食べやすいようにカットされている。

 もう、すでに満腹なので、なにも食えん。


 ほんとに、よー飲むわ、この人たちは……。

 どこに入ってんだろうな。


 ようやく落ち着いてきたようで、雑談タイムに突入中。

 

 ウェノさんとミネさんが、迷宮の話で盛り上がっている。

 聞きたいんだけど、先に話があるし、しょうがない……。


「ブルさん、この後はどうするの?」


「この後? 終わったとはいえ、イロハが試験を受けるまでは見守るつもりだぞ?」


 なら、好都合だ。


「おおー! 本当に? じゃ、体術の訓練とか付き合ってほしいな」


「おいおい、見守るって言っても、仕事を受けないわけにはいかないんだぞ? まあ、時間が空いている時ならいいが……」


「うんっ! それでいい。まだ、試験まであと半月以上もあるんで、よろしくお願いします!」


「それで、体術っていったい何をしたいんだ? 俺は見ての通り守備特化で、素早い動きは苦手だぞ?」


 そりゃあ、守備のやり方でしょうよ。


「ブルさんって、正面の攻撃を逸らしたりするの得意でしょ? あれを覚えたい。なんか、盾でカーンってやってたやつ」


「ほう、そんなところを見ていたのか。まあ、あれは慣れだぞ? 守りばっかりやっていると、正面で受けるのがしんどくなるからな」


「よろしくお願いします!」


「イロハっ! 俺の体術はどうするんだ? この前少し話してたじゃないかー」


 うわっ!

 カラムさんから絡まれた、めずらしく結構酔ってらっしゃる……。


「もちろん、カラムさんからも体術を習いたいんですけど……お願いできますか?」


「当たり前だろうが! 話しただけで何ができるってんだ。それに、お前は……あれだろ? か、格闘士のゴニョゴニョ……」


 なんか、トーンダウンしてる、別にここで言う分にはいいのに。


「あ、格闘士でごまかす件は、このパーティで話してもいいですよ?」


「そ、そうか。なんか、言っていいのか分からず……ブルさん、イロハのスキルの件、格闘士でごまかすってよ」


「格闘士だって? 身体強化はできるのか?」


 カラムさんと同じ質問かい!

 

「はい、腕力です。なので、体術を少し磨いておこうかと思って」


 ブルさん、腕組んで難しい顔をしているなあ。


「……格闘士か。すると、イロハは身体強化、紐を固くする、治癒? と、三つもスキルを持っているのか……若いのに。おっと! 余計な詮索だったな、すまない」


 スキルが三つは正解だけど、できることは倍くらいありますぜ。

 やっぱり、他人のスキルを詮索することは、良しとしていないようだね。

 

「いえ、そんなところですよ。なので、体術の基礎がある程度できていたら、なんとかなりそうだと思ってます」


「確かにな。お前のスキルは、皆の前で使うにはちょっと価値がありすぎるし、卒業までは大人しくしておくに賛成だ。わかった、俺のを教えよう!」


 ブルさんの逸らし技か。

 打撃武器や飛び道具には、盾で逸らし技が相性良さそうだ。


「じゃあ、俺の方からは、を教えよう!」


 カラムさんからは、体捌きを習うことが確定した。

 ありがたやー。


「ありがとうございます! カラムさん」


「なんだ、なんだ? お前らなんか盛り上がってんなー? 俺も混ぜてくれぃ」


 ……来たよ、この酔っ払いめ。


「ウェノさんには、関係ないからね。そっちで飲んでてよ。もう、お酒臭いからっ!」


「なんだよ、イロハー。そんな邪険にすんなよ! あれだろ? 体術だろ? それ、俺の出番じゃねーか?」


 あんたは規格外だから、今は学べそうにないよ、ね。


「はいはい、ウェノさんは強いですよねー。冒険者クラス四級ですもんねー。すごい、すごいー」


「おー、おりゃ凄いんだぞー! 特別に、剛拳を伝授してやる! ハッハッハー」


 そりゃ、スキルでしょうよ!


「ありがとう。はい、そっちで飲んで飲んで。グイっと、グイっとー」


 そこら辺にある飲みかけのお酒を、適当に一つにまとめて、オリジナルカクテルを作ってあげた。


「ふぃ~、長旅の後の酒はしみるね~! こりゃなんの酒だぁ? おう、ブルさんよ、あの迷宮でやっていた下に出る…………」


 ウェノさんは、適当なことを言いながら、上機嫌でブルさんと迷宮談議に入った模様。


「イロハ、飲んでる? 久々に今日くらいはと思っていたら……飲みすぎちゃったわ」


 飲んでるってねぇ、こんな子供に。


「今度は、ミネさんですか。僕はまだお酒を飲めませんよ……」


「あら、ごめんなさい。あなたと話していたら、子供に思えなくてね。本当は、大人なんじゃないの? イロハはさぁ~」


 えっ?

 なんでバレた!?

 

 ……と、焦っていた時もありました。


「そんなことないですよっ! 見た目通りの九歳ですって。なんなんですか、もう……」


「な~んて、冗談よ冗談。言うことが、あんまり大人っぽいから、ついね。あなた、私たちには気楽にって言いながら、ずっと敬語でしょ? ウェノさんは別として」


 よく見てるなぁ。

 ミネさんとカラムさんは、接点が少なかったし、ちゃんとしているから……。


「あー、最初の頃はちょっと頑張ってみたんですが、こっちの方がしっくりくる感じで……」


「まあ、いいわ。さっき、男同士で秘密の特訓の話をしていたでしょう? 私も、近接戦闘を教えてあげるから、学校に合格しなさいよ! そしたら、私もスレイニアスの学生と知り合いって言える……フフフ」

 

 おー! ミネさんの近接戦闘は、見る機会が無かったし、こりゃラッキーだ。

 パーティでナンバーワンって言ってたっけ?


「やったー! ありがとう、ミネさん! 合格したら、どんどん知り合いって言っちゃってください」


「まあ、スレイニアスって簡単じゃないらしいから、頑張んなさいよ! じゃ、私はカラムと話してくるわ」

 

「はい、行ってらっしゃい……」


 ……急に、ボッチになってしまった。

 こんだけ騒がしいのに、俺の周りだけシーンとしている。


 っく、これも、お酒が飲めないせいなんだよな。

 

 会社の飲み会でも、よくこんな感じになってたわ!

 この後は、酔いつぶれたものから順に強制離脱していき、飲んでいる者同士は二次会へ……気づいたらいつの間にか誰もいなくなり、お酒が入っていない俺は、送迎役かセルフ帰宅っていうね。


 この体、生まれ変わっているんだっていうのなら、飲める体になっていてくれ!

 俺も、残りの半分の楽しみってやつを知りたい……。


 なんか、熱くなってしまった。

 

 いつもなら、ここで部屋へ戻って寝ていたけど、今日くらいはいいよね?

 少しくらいハメを外しても……飲まないけど、俺も仲間に入れてもらおうっと!


「ウェノさーん! ブルさーん! カラムさーん! ミネさーん! 何話してんの? 僕も仲間に入れてよー!」


 


 普段なら、前世も含めてやったことなかったけど、自分からのん兵衛たちに突っ込んで行った。


 案外楽しいな。



 この日はみんな、浴びるほど酒を飲んでいた。

 結局、酔いつぶれるまでは行かなかったようだが、ウェノさんとブルさんは二次会へ、カラムさんとミネさんは帰るついでに俺を宿へ。


 そういや、明日からウェノさんがしばらく用事で出かけるらしい、なんだろう?

 夜は帰ってくるって言っていたけど……。




 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒王都メルクリュース

 最終目的地:王都へ到着(出発より二十三日目)

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