七十六話 コンコロール
な、なんですとー!
本命は……俺? あのー、九歳ですよ?
「……」
「まあ、そんなに深く考えなくてもいい。君は学校に行くんだろ? それまで、ここの立ち上げに協力してほしいんだ。その……白熱した遊びとやらを。ど、どうかな?」
んん?
なんか、期待に満ちたまなざしで見られてるんですけど……。
要するに、自分のお店として新規オープンするにあたり、これまでのコロコロではなく、何か新しい遊戯を賭けの対象にしたいということか。
困ったなあ、チンチロリンをイメージして話したつもりだったが、あれも勝敗が五分五分で商売に向かないよね?
……どうせ知らないなら、ちょっとアレンジしちゃうか?
熱くなれて、賭けが成立し、胴元が儲かるようなギャンブルに……うーん。
「モーセスさん。確認ですが、イカサマは無し、長期的に見れば店側に利益が出る……このような感じを目指していますか?」
「な……何だと?」
ありゃ? 渋い顔……。
違ったか、もしかしてがっぽり儲ける系か?
それなら、脅威の利益率を誇る宝くじとか、スピードくじみたいなものが良さそうだけど。
売れ行き次第だが、四割は利益がみこめそうだからね……うーん、こっちの世界でも売れるもんかね。
「やっぱり、長期的な回収は、資金的に厳しいで……」
「イロハ君っっ! それを、その、私に教えてもらえないか! すぐに回収とかは気にしなくていい、資金ならなんとかする!」
凄い勢いで肩を掴まれてグワングワンと……唾とか唾液とかヨダレとか飛んできて汚いじゃないか。
まあ、お望みとあらば……チンチロリンをベースに、あーして……こーして……アレをこうすれば…………いけるか。
こうなってくると、タダってのもなんか違うよな、情報提供……コンサル料を頂かねば、これでも元社長、商売人だしな。
でも、責任は負いたくないし、フォローする時間もないし……売り切りのフロー型で考えようか。
「分かりました。では、その情報にいくら出しますか?」
おー、見事なびっくりフェイスを頂きました。
情報は高いんだよ、新社長さん。
「さ、さすが私の見込んだ人物だ。もちろん、タダでとは言わない。ただし、今は、店を回す金しかないのだ。だから……利益の一割でどうだ?」
え……そんなに払って大丈夫なのか?
こっちがびっくりなんだけど。
「いやいや、そんなに貰えませんよ。それに、渡す情報に責任をも持ちたくありません。もし、儲かったならばその時に、少し頂く程度で構いませんよ?」
「それでは面白くない。ちゃんと、私の方にも利点があるんだよ、イロハ君にうちの遊戯指南役としての繋がりができるというね」
なるほどね。
店側は、この情報で上手くいかなかったとしても払わずに済むし、俺がお金を望むならば、新たな情報を提供し、かつ儲けさせなければならない。
最悪、既存の遊戯をやればいいわけだし……しっかり保険がかけられている。
俺は、上手くいけば責任を持たずに情報の対価である権利収入をもらい続けることができる。
面白い。
一応、ウィンウィンだ。
怖いのは、期限がないことと、こちらが店の利益を確認できないことくらいか。
「そこまで言われると、荷が重いですね。でも、面白そうなので協力はしますよ、僕でよければ。ただし、条件があります……」
「おお! それで、条件は何だい?」
「まず一つ目、僕の案は全てモーセスさんが考えた事にすること。二つ目、僕がここに関係している事は秘匿すること。三つ目、情報提供は僕主導ということでお願いします。後のことは、お任せしますので」
さて、期限や利益の部分をどうするのか……ワクワクするねぇ。
「……っ、君は、本当にいくつなんだ? 見た目と話している内容が一致しない、長命の種族なのか?」
また、これか。
そんな種族が本当にいるんかね?
「いえ、普通の子供で九歳ですよ。勉強を頑張っただけです」
「まあ……分かった。そういうことにしておく。それで、一つ目と二つ目は分かる。要するに、目立ちたくないんだよな? だが、三つ目になんの意味があるんだ?」
「それは、そちらから依頼されてやるのは、今回限りということです」
「では、今後、私はどう相談すればいいんだ……」
「そんなに、厳密な話ではありません。僕は、学校に行くんですよ? そう何度もここへ来て、商売のお手伝いなんかできません。要請は断れる、そういう意味ですよ」
「ああ……そうだったな、見た目は子……えー、九歳だったな。しっかり商科学園で学ぶといい」
「はい、商科学……えっ?」
「えっ?」
「……えっ?」
なんで、サモラスさんまで意外な顔をしてんの?
「あの、僕は、スレイニアス学園志望ですよ?」
「なんだって! そんなに交渉能力に長けて、商人に必要な度胸に知識、抜け目なく報酬を要求し、そのうえ長命……まあ、それはいいとして、商科学園に行くべきじゃないのか?」
俺に、専門的な事を勉強している余裕は無いのですよ。
「今は明かせませんが……僕は、やりたい事があるんです。そのためには、様々なことを知る必要があります。もっと幅広い知識を得るには、専門校では足りません」
「ふむ……。何をやりたいのかは分からないが、もし、知りたいことがあれば、私も力になるぞ? 私たちは協力関係だからな、いつでも言ってくれ」
「ありがとうございます。頼りにしてますよ」
「あと、サモラスさん。あなたも、一つ目と二つ目だけは守ってくださいね?」
「ああ、もちろん。俺は、君の護衛パーティの代理として来ているんだ。護衛パーティ以外でここの事を話すことは無い、警備隊長の名にかけてな」
「よし! では、交渉成立だな、イロハ君」
はい、ここで念のためのオーラチェックの時間です、すまないねお二方……俺は疑り深いもので。
…………ふむふむ、サモラスさんは青、モーセスさんはマリンブルーみたいな色、まあ信用できると言えるか。
「はい、こんな子供の僕で良ければ協力します」
モーセスさんは、すぐさま何やら文字の書かれている板? のようなものを出し、そこへ署名をしている。
それをサモラスさんへ渡し、サモラスさんも署名している……二人とも、署名したらそこが一瞬青く光っているんですけど……。
「さあ、君も書いてくれ」
自分にも回ってきたんだが……中には、先ほどの内容が記載されていて、おかしなことや、ものすごく小さい字などは見当たらなかった。
まあ、魔道具かなんかだろうな。
俺は、署名し返却した。
うーん、やっぱりこの魔道具が気になる……。
「これで、契約は成った。さて、早速その、客も店も熱くなれる遊戯とやらを教えてくれ」
「分かりました。ところで、さっきの署名って魔道具ですか? 何に署名したかくらいは知っておきたいので」
「そうか、イロハ君は知らなかったのか。すまない、冒険者を雇っているから、契約はしたことがあると思って説明をしていなかったね。これは『契約の板』と言う魔道具だ。契約を破ったら、破った本人の署名が消えてしまうという効果がある。ただし、故意に破った時だけという条件付きだ。普通は、破られたら被害を受ける方か、双方で持ち合うことになる」
そんなもん、破り放題じゃないか?
「それだけの効果ですか? あまり意味は無さそうですけど……」
「確かに。でもな、このメルキル王国は、商業が推奨されている。そして、この国の初代国王もまた商売で財を成した。この契約の板の署名は、消えると言っても跡は残る。その跡という証拠があれば、その者の信用は失墜する。そのくらい重要なことでもあるから、もし、破棄したかっらた私に言ってくれ。これは、あくまでも私側からの誠意なのだ」
ほほー、そんな副次効果があるのか。
破るには商人を辞める覚悟がいると……。
「はい。信用してくれてありがとうございます、モーセスさん。では、新遊戯の打ち合わせをしましょう」
「おお! 期待が膨らむじゃないか。ところで、サモラスはどうするんだ?」
「さすがに、俺は話を聞く立場に無いな。ちょっと、部屋の外に出ておくよ、終わったら声をかけてくれ」
ふーん、俺はてっきり、一枚噛ませてくれとでも言うのかと思ったが、サッと出ていってしまった。
「では、まずコロコロを三個とお金に見立てた物を十個ほど持ってきてください。それから…………」
およそ二時間ほどかけて、チンチロアレンジバージョンの説明をした。
一応、モーセスさんと新遊戯の名前を考え、チンチロアレンジバージョン改め『コンコロール』と命名。
コロコロと出目のコントロールを掛けて提案したところ、モーセスさんが「いいね、その響き!」ってことであっさり決まった。
二人とも、名前が長いので略してコンコロって言っているんだけどね。
結構アレンジしてみたけど、これって流行るんだろうか……。
親権があるため、遊戯を行えば行うほど収支はプラスになっていくと思うが、あくまでも確率であって、その収束には十年、二十年とかかかるかもしれん。
モーセスさんは、立派な手ごろの板にコンコロの遊戯方法とその役一覧、勝敗条件……などを書き込んでいる所だ。
上手な字で書くもんだなぁと思いながら、ぼーっと見ていると、モーセスさんが話しかけてきた。
「イロハ君、想像以上だよ、このコンコロという遊戯。確かに、店も客も白熱しそうだな。それに、真似をするところが必ず出てくる……対策を急いでおかないとな」
ほう、特許的な何かがあるということかな?
「そうなんですね。まあ、運営はお任せしますし、後はお好きなようにやってください。僕は、あくまでも遊戯の指南役ですからね」
「後出しで悪いが、先ほどの契約には含めなかったことがある。やはり君との付き合いの期限は設けない方針で考えたい。つまり、この遊戯が続く限り、イロハ君には無期限で一定の収入が発生するというわけだ。もちろん、利益を確認したいと思った時はいつでも言ってくれ、ごまかす気はない」
出方を見るためにあえて明言しなかったが、ちゃんと仕事として見てくれているんだな。
商売に関しては、信頼はできそうだ。
「ある程度運営が軌道に乗ってからでもいいですよ。僕も、学校で何もできなくなると思いますから」
「今は……な。将来、何かを成したい者は、その時にお金が無いと何もできなくなるぞ。お金は、もらえる時にもらっておくが正しい、これは助言だ」
売り切りで考えていたんだけど、思いがけずストックビジネスへと変貌を遂げてしまったよ……遠い地域へサブスクみたいに広げてみるのも手かもしれない。
「はい、分かりました。ありがたく頂きます。じゃあ、僕からもひとつ助言を。この、コンコロの客に、負ければ倍の賭け金、勝てば元の賭け金という賭け方をし続ける人は要注意ですよ、例え少額でも。説明は省きますが、この手の賭けごとの必勝法みたいなものです」
「そんな必勝法があるのか……?」
勝率五割程度のギャンブルには、マーチンゲール法って言う有名なやつがあるんですよ。
「うーん、理論上はってところですかね。条件は、無限の資金力、上限の無い賭け金、回数ですね。多少は無くても成立するのが怖いところです」
「…………そうか! 毎勝負、負け分まで一回で取り戻すということか、なるほど」
「まあ、店の規模が大きくなれば、そう問題になる額でもないですが……」
そして、日が暮れるまで延々と新遊戯についての話を続けてしまうことに……。
丁寧に作られたコンコロの説明板は、上手な字で分かりやすいようにまとめられていた。
後から数枚追加で作るらしい……プリンターが無いと手書きだもんな、大変だ。
少しの雑談を終えて、本日の新遊戯指南会議はお開きとなった。
王都の学校に行く話はしているので、宿が決まったら連絡は欲しいとのこと。
実家、ゴサイ村、ラム……新たにモーセスさんにも手紙を送ることになってしまった。
ちなみに、サモラスさんは普通に待ってくれていた。
時間にして四時間くらいはかかったと思うけど、特に文句も無く「モーセスも、いい協力者が出来てよかったな」って言ってた。
あの二人の関係は、イマイチ分らん。
こうして一仕事を終えて、無事に帰る事が出来ました。
まさか、この歳で不労所得が発生するとはね……ありがたいやら、チンチロ開発者に申し訳ないやらで複雑な気分だ。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒メルクリュース領カーン
最終目的地:王都メルクリュース
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