六十八話 コロコロ場
ふむふむ……これはすごいぞ、黄色を通り越して緑オーラになった!
思いもよらず、オーラ判定の検証が捗ったぞ。
サモラスさん、ありがとう!
とりあえず、カラムさん、ミネさんはこのやり取りを二人でポカンとして見守ってくれた。
「さすが、隊長。では、行きましょうか」
さてさて、警備隊長のサモラスさんと、カラムさん、ミネさんの四人で、問題のコロコロ場へ向かう事となった。
位置関係から言うと、前方にサモラスさん率いる警備組三名、次にカラムさん、ミネさん、その後ろに俺という配置。
当然、カラムさんが話しかけてきた、それも小声で。
「イロハ! 一体どういうことだよ……わけが分からん。その、警備隊も一緒になってブルさんたちを騙したってことなのか?」
「うーん、それは分かりません。ただ、何らかの事情があって、警備隊とコロコロ場が懇意にしているってことくらいしか……」
「でも、話の流れから……こっちに協力? するような話をしていなかったか?」
「どうでしょうか。警備隊というか、サモラスさん個人が懇意にしているんじゃないかと思うんです。そこで、このままこっちの意見も聞かずになにかしやがったら、お前らの事を詮索してやるからな? という感じの会話をしていたわけです」
ま、脅迫ですよ。
「そ……そうなのか?」
「そこで、詮索されたくないサモラスさんは、あくまでも公平に判断しましょう、ということになったんです。向こうの肩は持たないってことですね。後は、どれだけこちらの意見を聞いてくれるかは、本人次第じゃないですか?」
もう、バレてんだから、誠意を見せなさい、誠意をってね。
「全くそんな風には聞こえなかったが、イロハが言うなら、そうなんだろう。つまり、振出しに戻ったってわけだ」
「そうですね。でも、確信はないですが、そのコロコロ場ってところ、まともじゃない気がするんですよ。いざという時は頼みますよ、助さ……いや、カラムさん、ミネさん」
「お、おう。ここまでやってくれたんだ、そっちの方は任せてくれ」
カラムさんはともかく、終始大人しかったミネさんの目がキラリと光った。
「私も、荒事ならいくらでも力になれるわ。あんな会話での腹の探り合いなんて柄じゃないからね、私は。それにしても、スレイニアスを志望する子供はこんなにレベルが高いなんて……早い段階から何を話しているのかわからなかったわ」
レベルね、通じるんだ。
もう、ゴサイ村が古臭い言葉を使っていただけで、普通に外来語感覚で出てきているぞ、古代語なのに。
それに、普通の十歳はこんな交渉なんてできないと思うけどな。
「まあ、戦闘になったらあの二人がいるから大丈夫だとは思うけどね。警備隊も十人がかりって言ってたし」
「ごちゃごちゃ言っていないで、ばちーんと戦闘で決着をつけた方が楽だと思うわ」
どこまでも武闘派なミネ嬢……。
そして、行きより会話が弾んでいるという現金な二人。
その周りには、水色のオーラをまとわせていらっしゃる。
何の感情だろ? ある程度落ち着いたような気はするけど、色は変わらないな……もうちょっとで分かりそうな気がするが。
「そう言えば、二人とも、僕が話している時、まったく止めませんでしたよね?」
「ああ、そりゃ、いらない争いは避けてほしかったがなぁ……お金を出すのがイロハじゃ文句も言えんさ」
カラムさん、ちょいとお金に弱いのかも知れん。
「私は、序盤から何を言っているのか分からなくなったからね、あの隊長さんがタジタジになって行く様子を見て、スッとしたくらい?」
このお嬢は、まるで大きくなったミルメや……。
「お二人とも、お似合いですよ……お! もうそろそろですかね?」
「な、な、何を……」
「わ、私は……」
「ほら、二人とも、着いたようです。さあ、行きましょう!」
うーん、桃色とかには変わらないか。
もしかして、感情じゃない?
とすると……サモラスさんは、赤から橙、黄色、緑へ、二人はずっと水色。
黄色、緑、橙は、外にいっぱいいる……わけわからん。
あ、サモラスさんが手招きしている……依然、緑オーラだ。
「さ、着いたぞ。警備隊は特に何もしない、立ち会うだけだ、いいな? あとは君らが上手くやるがいいさ。お手並み拝見と行こうか」
おおー!
サモラスさんは、もう隠さなくなったような振る舞いだ。
「分かりました。交渉次第では、少々過激な言動や、備品が壊れたりするかもしれませんが、大目に見て見守っていてください。なにしろ、イカサマを見つけるんですからね」
「ほう、自信があるんだな。警備隊は、人に危険が迫らない限り、手を出さない。あくまでも
みんなでコロコロ場の中へ入っていく……。
ふぅ……なんてザマだ。
拘束されている二人が見えてきた。
うちの大事な仲間にこんな事しやがって……事情次第で、容赦はしない。
もう、村でもないし、我慢することも無いだろう。
攻撃は護衛チームに任せて、
「イロハッ! なんで来たんだっ!」
「カラムッ! イロハを巻き込むなっ!」
中に入って早々、警備隊の人に拘束されているウェノさんが叫び、次いでブルさんが叫ぶ。
あんた方ねぇ……。
「なんでって? ウェノさん、ブルさんの損害金を払えるのが僕だからですよ。二人して、まだ酔っているんですか? 警備隊に拘束されているんですよ? 巻き込むなも無いでしょうが……護衛期間中に何やってんですか、まったく」
「……」
「……」
ぐうの音も出ないとはこの事。
しかし、二人のオーラを見て驚いた、水色だそれも白に近い……。
少しきつめの言い方だったけど、オーラの色に変化なし。
正面には、胡散臭そうなひげのおっさんがいる……コイツか。
赤オーラ全開で、その周りの店員? も赤オーラ、一人だけ橙。
…………なるほどね。
こりゃ便利だ、感情ではなく俺に対する敵対心ってところか。
水色というか、たぶん青が味方、赤が敵、中間がどっち寄りかを示す……。
黄色は中立ってところか。
水色は……まあ、見えたら嬉しいってことだと予想している。
たぶん、父さん、母さんも水色だろう。
「それで、お金はどちらへ払えばよいでしょうか?」
わざと、サモラスさんを向いて言ってみる。
「ホッホッホッ。そこの坊やが損害金を払ってくれるのかい?」
胡散臭いおっさんが寄ってきて、手をスリスリ擦るそぶりを見せる。
おいおい、見事な定番の動き……そちも悪よのう。
「ええ、払いましょう。ですが、何に七十万ソラスの損害が出ているのですか? その辺りを詳しくお聞きしたい」
「なんだって? 坊や、損害を受けたのはこっちだ、変な言いがかりをつけるなら、こいつらは鉱山行きだぞ!」
「えー、少なくとも、七十万ソラスに値する何かが無いと……なんで、七十万ソラスなんだろう? ってことになってしまうよ? 大丈夫? おじさん」
煽りついでに、忘れずサモラスさんを見る。
「あー、モーセス殿、この子の言うように、損害金の内容を伝えてくれないか? 警備隊では、そこまで把握していないからな」
サモさん、ナーイスフォロー!
モーセスね……モーセスこいつがボスと。
「…………いいだろう。まず、うちの店員をイカサマ扱いした。その上、暴力を振るった。遊技場の設備を壊そうとした。大声のせいで客が帰った……七十万ソラスじゃ足りないくらいだ」
何にいくらとかは無いんだな、適当すぎる。
それに、ほとんどが未遂で暴力も怪しいところだ。
「そうですか。ウェノさん、ブルさん、今の話に間違いはないですか?」
「間違いねえ、間違いねえが……そいつはイカサマをしている。その証拠を暴こうと台を開けようとしたら、そいつらがいきなり暴力だなんだと言いがかりをつけてきたんだ! 人を殴ってはいないぞ、俺は!」
「イロハ、すまん。久々に羽を伸ばしていたら夢中になってしまった……。ただ、そいつらは分かっていてやっている、イカサマを。俺らを狙って……くっ」
こ、この二人、純粋すぎる。
こんなんで世の中渡っていけるのだろうか……心配ではある。
「はい。だそうですが、モーセスさんでしたっけ、イカサマをしているんですか?」
「何を根拠にそんなことを言っているのか。坊や、悪いことは言わん、そんなくだらない大人の言う事なんて聞く耳を持ってはいけない」
あんたも含めてね。
さて、どう持っていくかな……論点をずらして……あーして、こーして。
「ええ、そうですね。それで、イカサマはやっているのですか?」
「おい、いい加減にしろよ! なんでイカサマなんて話になるんだ! 金を払うか払わないかの話だろうが!」
そうですが、そうはいかないんですよ……だって、払いたくないもん。
「いえ、うちの二人はイカサマをしている、と言っているんです。先ほどからあなたは、否定しないじゃないですか? だから聞いているんです。もし、イカサマをしているのであれば、話は変わってきますからね。そうですよね、サモラス警備隊長?」
「ああ、そうだな。そうなったら、だがな」
いいよ、緑のサモさん。
「なんだ? サモラス! 貴様、どういうつもりだ!」
おっと、ボロが出そうな予感が。
「どういうつもりも何も、警備隊は犯罪者を取り締まるところ。犯罪が行われたならばその者を捕らえるまで。どちらの言い分が正しいかを、
うまく躱したか……このサモラスさん、モーセスに思うところがありそうだな。
「くっ……どいつもこいつも。おい、坊主、よく聞け。このコロコロ場は、イカサマなどやってはいない! これでいいか?」
よかねーよ。
そんな事が通るわけ無いだろう、さあ、追い込むのはここからだ。
「ハハハ。なるほど、イカサマをやっていない、と。それでいいわけがないでしょう、何を言っているんですか? あなたが言った、うちのウェノさんが言った。これの何が違うんですか。まだ、どちらの意見も通っていないんですよ?」
さて、煽られて熱くなって乗ってきてもらいましょうか。
「……おい、ガキ。このモーセスをバカにしてんのか?」
「えっ? そう聞こえましたか……じゃあ、やっぱり嘘をついているんですね……残念です」
「なんだと! なんでそうなるんだ! 頭がおかしいんじゃないか? おい、サモラス、もうこいつらを鉱山にでも連れて行け! 不愉快だ」
「……」
サモラスさん、なんか、笑いをこらえている様子で無言を貫くようだ。
「なんでそうなるって、一対一の意見にどっちが有利だとかは無いでしょうに。なのに、焦って圧力をかけてきた……やましいんじゃないですか?」
「ちょっと、このガキを黙らせろ!」
「僕が黙っちゃうと、お金を払う者がいなくなりますが……」
「グググ……じゃあ、どうすりゃいいんだよ、もういいだろうが!」
「よくないですね。ではこうしましょう。イカサマをやっていないことを証明してください」
「はぁ? なんでそんなことをしなきゃならないんだ? ばかばかしい」
確かに、俺もそう思う。
でも、やらざるを得ないんだな、これが。
もう、そういう次元にいないんだよモーセス君。
「でも、こちら側はこの店がイカサマをしているからそれを指摘するために暴れたと言っている。そちらはイカサマをしていないと言う。警備隊は、もしイカサマをしていれば犯罪を暴こうとしている構図になるから話が変わってくる……ほら、やっぱり、イカサマをしたかしていないかが問題でしょう?」
これはね、水掛け論に持っていき、すでに論点をすり替えてんのよ。
悪魔の証明をしなきゃならないのはあなたです。
「……ガキ。おまえ、覚えておけよ。今回は、人目があるからな、こちらが折れてやろう……イロハだな、覚えておこう」
覚えておけと言ったり、自分で覚えたと言ったり……忙しい人だ。
これで、なんとか土俵に乗ってくれた。
後は、本当にイカサマをしているのか、していないのなら、その時はしていたんじゃないか説と、その証明を……でいくか。
最悪、この後襲ってきそうな気もする……その時は、矛と盾とお供の二人に懲らしめてもらいましょうか。
俺、性格悪いよなぁ……他のライバル企業にも凄く嫌われていた覚えがある。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒メルクリュース領カーン
最終目的地:王都メルクリュース
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