六十九話 コロコロ大勝負

「こっちだ……」


 もはや、不機嫌を通り越して、怒りマックスのモーセス氏。

 纏う赤オーラは、どす黒く湧き出ている。


 オーラが黒く染まっていくのは、恨みなんかが深くなっている感じで、赤が敵対なら、黒が交じるとより深い敵対……つまり、ぶっ殺す、確定! まで行くんじゃないかな。

 正直、ちゃんとした法治国家じゃないこの世界で、そこまで恨まれると怖いな。


 逆に、青は味方、仲間意識など、好意的な意味合いだろう。

 白が混じる水色なら、死んでも守って見せる! ってな感じか、みんなありがとう。

 レインボーなんかもあったら……ま、いいか。


 モーセス氏より、でっかいカウンターテーブルをご紹介頂いた。

 確かに、人が隠れられそうなほどでかい……非常に怪しい、ウェノさんたちが疑うのも無理はない。


「この台ですか? あの、失礼な話ですが、ここは何をするところなんでしょうか?」


「お前は、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ……ここはコロコロ場だ。賭け事をする大人の遊び場所だな。本来、子供の来るところではない」


 賭け事ね、でも、そのコロコロ場が分かんないんだって。


「コロコロ……実際やってみてもらえませんか?」


「まあ、ガキは普通ここには来ないからな。いいだろう、社会勉強をさせてやろう」


 いちいち、子供だの、ガキだの、癇に障るなぁ……。


「……お願いします」


「これが、コロコロだ。これを、客がこの中央の円の中に投げ入れる。投げ入れるコロコロは三個だ。出た目を確認し、二つ同じ数が出るまで投げ入れる。同じ数以外の一個が自分の目だ。店側は、客の目が決まってから振る」


 台の中央には、平たいルーレット板みたいなものが備え付けられている。

 そこに、サイコロのようなものを投げ入れる……。


 コロコロとは、サイコロの事か。

 しかし、異世界のサイコロとはまた不思議な模様だな。


「自分の目、ですか。分かりました」


「そして、ふたを閉めると中の円盤が動き出し、止まったら出た目を確認する。バラバラの目なら、その中で大きい数の一倍、二個同じなら同じ数を足してその数の二倍、三個同じなら三個全てを足してその数の三倍、これが自分の円盤の目。円盤の目と自分の目を合わせたもので数の大きさを勝負するんだ。まあ、分からんだろうな、ガキには」


 はいはい、ガキですよ。

 そんなことより……このルールは、惜しいかなチンチロリンまでいかない、チンチロモドキだな。

 ただ、サイコロ……いやコロコロが、俺の知っているやつと違って、ぱっと見で数字が分かりにくい。

 

 まとめると、こんな感じだろう。


 ――先攻は客側、中央にコロコロを投げ入れる

 ――二個のぞろ目がでるまで続ける

 ――ぞろ目でない残りの一個が自分の目、確定後やり直しはできない

 ――蓋を閉じ円盤を回す、チャンスは一回

 ――出目によって倍率があり、これが円盤の目となる

 ――バラバラの目は三つのうち大きい数字の一倍

 ――二個のぞろ目はその二つを足して二倍

 ――三個のぞろ目はその三つを足して三倍

 ――自分の目と円盤の目を合わせた数で勝負

 

 以上が、チンチロモドキのルールだ。


 自分の目は、ピンゾロとか出してもただの一だな。

 最初の一投は、一から六を決めるだけのように見える……最小値は一、最大値は六となる。

 

 円盤の目が肝だな。

 一二三ひふみとか四五六しごろは、ただの三、ただの六。

 でも、六ぞろ目を出したら五十四、ピンゾロは九か……。

 六を二つ出したら二十四なのでピンゾロより強いじゃん。


 この役の構成は、如何に簡単な手順でイカサマを達成するか……だろうな。

 だいたい、十六を超えたくらいが現実的な強い役となりそうだ。

 つまり、何らかの方法で後攻の店側のコロコロを勝てる役にするってことか。

 

 自分の目と円盤の目を足した時の幅は……最低値が四、最大値は六十、開きがとんでもねーな。


 結局、円盤の目で勝負は決まる感じ……ああ、イカサマが必要な時のためか。

 


「……まあ、だいたいは分かりましたよ。それで、勝負とは誰と勝負をするのですか?」


「随分長く考えたようだが、ただの子供がさっきの説明で分かるわけがないだろう。勝負は、そこの奴だ。おい、ルグロシン、ちょっとここでやってみてくれ」


 キツネ目のルグロシンとやらに、コロコロを三個渡される。

 なぜか、コイツだけ橙オーラ……悪者になりきれていないとか?


 よし、投げ入れてみようか……ほいっ。

 んー、やっぱ分かりにくいなこのコロコロ。


 ……二、二、四が出た……四か。


「ほう、一回で目が出たな。お前の出目は四だ」


「まあ、こんなもんですか。じゃ、ルグロシンさん、どうぞ」


「おう。今度はこっちの番だ、ほらよっ」


 二、四、六……三、五、六……四、四、三。


「こっちは、三だ」


「確認ですが、この後、この円盤が回って出た目は、僕の方の円盤の目になるんですよね?」


 円盤に置いてある大きな台になっている机の下の先から、オーラが漏れている…………ふーん、そこにいるんだ、赤いオーラの人が。


「そうだ。そして、この段階で賭け金を積むんだ」


「なるほど。賭け金の上限と配当はどうなっているのですか?」


「賭け金は自由だ。ただし、あまりにも大き過ぎる場合は、断ることもある。配当は一倍……つまり、賭けた額分を相手からもらうことになる」


「イカサマがあるかないかの話で、その机にも台にも仕掛けは無い、それで間違いは無いですね?」


「おい! イロハー! その台には何もなかったぞ!」


 余計なチャチャが入る……もう。


「はいはい、ウェノさん、周りは静かに願います。これは、イカサマがあるかどうかの話です。それで、どうなんですか、ルグロシンさん?」


「……ない。イカサマなんて、やりようがない」


 下手だなー、知っているんだろうね、この人は。

 イマイチ、徹し切れていないというか。


「では、もし発覚した場合、そちらが求めた損害額の二倍、百四十万ソラスをお支払い頂くということで。もちろん、そこの二人も不問となります」


「おい! ガキが! 調子に乗るなよ!」


「ちょっと、モーセスさん。今検証の最中ですよ? 何なら交代しますか?」


「……いいだろう。ルグロシン、まかせたぞ、分かっているな?」


「はいっ! だ、大丈夫です」


「では、さっきの取り決めは受けて頂くと言うことで……」


 ふぅ、面白いように釣れるな、ここは釣り堀かなんかか?


「おい! その流れなら、もし、発覚しなかった場合、お前も二倍の支払いになることを約束しろ!」


「わかりましたよ、モーセスさん。横から遊戯者でもない人がガチャガチャ言わないでください。その条件、受けましょう。では、ウェノさんは僕の横にいてください、合図したら素早く動いてくださいね」


 拘束を解いてもらい、ウェノさんが手を振り振りしながら歩いて来る。

 よかった、自然な形でボディーガード兼イカサマ撃退要員を手に入れたぞ。


 どのみち、支払いの方はあまり関係ない、ある意味、勝ち確なのだから。


「では、ふたを閉めるぞ?」


「待ってください。まだ、賭け金を積んでいませんよ?」


 さて、イカサマ無くしては、勝負ができないように追い込まないとね。


「はぁ? 何言ってんだ、さっき取り決めをしただろう?」


 甘いよ、ルグロシンさん。

 これは、勝ち確のギャンブル。

 せっかくだから目一杯賭け金積まなきゃね。


「いえ、あれはそこの二人の件でしょう? 今のこの勝負については、賭け金が積まれていません」


「……どうしたいんだ?」


 ルグロシンの目線を追うと……モーセスへと続く、軽く頷いて何やら手信号を送っている。


「では、七十万ソラスでお願いします。もちろん、いけますよねぇ?」


「なんだって? 無茶だ、そんな話ではないはずだ。しかもそんなに高額でなんて……」


「あら、そうなんですか? 損害金で請求するくらいの金額なんだから、高額ではないものと……違いましたか?」


「そ、それは……。でも、いくらなんでも……そ、そうだ! 賭け金はちゃんと持っていないと、成立しないんだぞっ!」


 嫌がるねぇ。

 ということは、ここの負け分の全額もしくは一部が、自己負担かその責に値するペナルティがあると見た。

 では、保証人を付けさせていただきましょうか。


「お金はありますよ。だって、そもそもが、七十万ソラスを支払いに来たんですからね」


「ぐぐぐ……でも、そんな金額……」


「ほら、こんな時に横からガチャガチャ言うチャンスですよ、モーセスさん! 支払いの保証をしてあげて下さいよ」


「な、なんで私が……」


 ここで、部外者面はさせないよ。


「いや、そこは最高責任者でしょう。それとも、負けを認めますか? だったら、二倍払いだけで勘弁しますよ?」


「……このガキ。いい、ルグロシン、やれ!」


 よし、釣れた。

 そんじゃ、さらに根保証といきますか、フフフ。

 あー、限界資金を把握していてよかったよ。


「はい! では、ルグロシンさんが勝負では、モーセスさんが代理で行う。いいですね?」


「ああ、分かったから、早くやれ! 小賢しいガキめ」


 よし、言質は取れた。

 ルグロシンさんが始めようとしているが、そうはいかない。


「じゃ、七十万ソラスの賭けでふたを……」


「いえいえ、七十万はルグロシンさんの場合ですよ。モーセスさんが保証をしているので、賭け金は百万ソラスでいきましょう!」


 みんなが一斉に目を開く。


「ちょ……それは、話が違う、そんなのは受けない、受けたくない」


「あらら、残念です。では、ルグロシンさんが負けを認められたので、モーセスさん……えーっと、七十万ソラスの二倍の百四十万ソラスをお支払いください」


「おいおいおい! なに勝手に決めてんだ! なんで私が、おい、ルグロシン! 受けろ、そして絶対に勝つんだ! 分かるよな!」


 ……ねえ。


「勝負に絶対はないと思いますが、さすが、賭け事のお店の経営者は違いますね。絶対ですか……この店には、絶対があると……。ルグロシンさん、絶対だそうですよ!」


「わ、分かったよ。じゃ、じゃあ、ふたを閉めるぞ……」


「いまの所、僕が四でルグロシンさんが三ですよ」


「わ、分かってる! じゃ、ふたを閉める」


 円盤が回りだしたな……ふむ、動きは無し、か。

 こちら側の出目が確定してからじゃないと動かないわけね。


 やがて、円盤は止まる……静かだ。


「ルグロシンさん? 円盤が止まっていますよ、開けないとコロコロが見えません。これ、僕の円盤の目ですよね?」


「あ、ああそうだ。開けるぞ……」


 ルグロシンさんの顔は、まるでサウナに入っているかのような汗が……。

 

 さあ、俺の円盤の目は何だろうか。




 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒メルクリュース領カーン

 最終目的地:王都メルクリュース

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