六十七話 赤オーラ
「頼む、イロハ。なんとかならないか?」
「お願い、イロハ。このままじゃ、青の盾が本当に崩壊するわ」
さっきから、この調子で、理由も言わない。
何だか、よくある友人からの借金依頼のような……いくら何でも、理由もなしにお金は貸せない、俺にだって生活があるんだ。
「それで、いくらなんですか?」
「五十万ソラス!」
ご、五十万ソラスだって!?
「そんな……持っていないわけじゃないけど、払ったら入学金とちょっとしか残らないから、すぐに返してもらう必要があるけど、どうですか?」
「「…………」」
……だんまりかよ。
「あのですね、お二人とも。まず、どんな理由だって、二人が困っていて僕が持っているんだったら貸しますよ。だから、理由を教えてください」
「……お金は、必ず返す。できるだけ早く。今は、何も言わずに貸してくれないか、な?」
どうするか。
俺は、貸してもいいと思っている。
友人にお金を貸すときは、戻ってこないものとして貸すことにしていからね。
その金額は、受けた恩の大きさか、その人とのつながりの強さだと思っている。
でも、どうしても納得いかないんだよな……よりにもよってこの二人が、俺に?
「分かりました。でも、理由を話すことが条件です。その代わり、聞いても必ず貸します。どうですか?」
お二人が見つめ合っている……。
そして、頷き合う。
「分かった。話そう」
「はい。それで、どうしたって言うんですか」
「簡単に言うと、青の盾の崩壊危機だ」
わけわからん、やり直し!
「それはまた、大変な事だとは思いますが、説明が簡単すぎますよ」
「あ、ああ。ブルさんと、ウェノさんが拘束されてしまった。損害金が七十万ソラス、俺とミネの手持ち合わせて二十万ソラス。あと五十万ソラスを明日中に払わなければ、警備隊に捕えられ鉱山送りになる」
「……あの二人は、一体何をやらかしたんですか?」
「俺も詳しくは分からないが、賭け事でお店に損害を与えたらしい。青の盾の資金二百万ソラスと、ウェノさんの個人資金百万ソラスを全部巻き上げられた上に、迷宮で稼いだ五十万ソラスも取られて……イカサマだと暴れたらしい」
……アホなのか?
「……何を考えているんですかね、その二人は」
「本当に申し訳ない……俺も、ブルさんがこんな事するとは思えないんだが、そう聞いたからには、払うしかない。直接話すこともできないから、詳しい事情は聞けていない」
「分かりました。ひとまず、話を聞かないと何も分かりませんし、五十万ソラスを貸しましょう」
はぁ……何やってんだか。
目的地を目前にして、全財産の半分以上を失いそうだよ。
「それで、どこでお金を渡すんですか?」
「明日の朝、カーン地方館の警備隊ということになっている。本当は、今日行く必要があったが、明日まで待ってもらった」
「では、明日の朝に一緒に向かいましょう」
「すまない、イロハ……」
「ごめんね。私もこんなことになるとは思わなかったの……」
「あの、二人合わせて二十万ソラス……あとどのくらいまでならなんとかなりますか? 五十万ソラスは僕が出しますが、何かあったりしたらいけないので余裕が欲しいです」
「……すまん、イロハ。実は、俺らの手持ちは二人合わせて
やはりね、俺だってそうする。
これで、限界資金が、俺の全財産七十万ソラスと二人の四十万ソラスの百十万ソラス……相手はギャンブルの胴元、沢山あって悪いことは無いはず。
「ああ、いいですよ。そりゃ、大事なお金ですし、最低限は持っていないとってのは理解できますので」
「本当にすまん……」
「分かったから、お二人とも、もう謝らないで下さい。明日、何かわかるかもしれませんし」
「そうだな……では、明日」
「はい、また明日」
そう言って、肩を落とした二人は、トボトボと出ていった。
ブルさん、ウェノさん、一体何があったの?
さすがに、そこまで考え無しじゃないでしょうに、トラブルの匂いしかしないよ……。
◇◇
朝が来た……お金を失う朝が来た。
ふぅ……さて、行くか。
宿の食堂で二人と落ち合うと、そのまま無言でカーン地方館へ向かった。
ちなみに、この宿は『スグスグ亭』と言って、食事は居酒屋みたいなメニュー。
さぞかし、お酒が進んだんだろうな……拘束組の二人は。
まっ、こんな時こそ仲間を信じないとな。
つまり、騙されたんだよな……?
三百五十万も取られるまで分からんもんかね? と言いたい。
警備隊はともかく、謝罪相手は確実に敵対勢力だな。
とりあえず、何があってもいいように、今のうち身体強化をしておくか。
前を歩く二人に無言でついて行く俺、こんなに気まずい空気だと、異常に距離が感じられる。
…………。
さすがに、このままってわけにはいかず頭を上げたら……前の二人から、昨日見えたモヤのようなものが見える。
普段は、あまり気にならないかもしれないが、無言地獄の最中だったんでなんとなく気づけた。
早朝で、そこまで人は多くないけど、周りの人をよく見たら、やっぱりみんなうっすらとモヤが出ているようだ……なんで?
……。
まさか、霊感的な何かに目覚めてしまったのか!?
なーんて冗談はさておき、もしかして身体強化のせいか?
ということで、身体強化を解いてみたら、モヤが見えなくなった。
モヤ……は、なんか言葉がイマイチなので、オーラと命名しよう!
このオーラが何を意味するものなのか、夏の暑い日の
……分からんが何かあると思うんだよな。
身体強化……オーラが見える…………見える、か。
フッフッフ、これは目だな。
目が強化されたんだ、身体強化の親和性が上がって目が良くなった、これだろう。
そうと分かれば、部位さんの出番では?
目の部位強化……ってどうやれば?
視力や眼球の保護は分かるけど、スピリチュアル的なものを見るってどうやんのかね?
うーん、目に見えない物を見ようとして望遠……おっと、そうだな
よーし、人を纏う見えない何かを意識して……目の部位強化っ!
……初チャレンジの目の部位強化、ほんのりホットな感じというか、まるで目薬の逆やな。
顔を上げると……見える、見えるぞ!
これは……!?
さっきまでのオーラに色がついている。
カラムさんとミネさんは、薄い水色みたいな感じ。
周りを見ると、黄色がほとんどでたまに橙や緑と言った中間色も見える。
赤は見えないな、俺はてっきり色の三原色方式でシアン、マゼンタ、イエローかと思ったんだが……。
いろいろ分析してみたいところだが、カーン地方館に到着したようだ。
ひとまず、身体強化に切り替えよう。
◇◇
しばらく待たされた後、詳しい話を警備隊事務所の控室で聞くこととなった……。
「カーン警備隊長のサモラスだ。冒険者パーティ青の盾と、護衛対象のイロハ君だな?」
「はい、その通りです……」
肩を落としたようにカラムさんが答える。
どうやら、会話はカラムさんがするみたいだ。
「今回、ブルーシスとウェノの拘束に関しては『コロコロ場』より通報があったからだ。現場到着時には、まだ暴れていてな……十人がかりで取り押さえて拘束させもらった。言いたい事はいろいろあるだろうが、通報内容と現場の状況から、コロコロ場側の言い分が正しいと判断した。先方の希望は、損害額が七十万ソラスと言っている。こちらとしては、円満解決が望ましいのだが、どうするね?」
カラムさんは、静かにこちらを見て、俺が頷くと前を向いて答えた。
コロコロ場て……何?
「七十万ソラスを支払います。ご迷惑をおかけしました」
「分かった。損害金については、一度、警備隊が預かる。受付の方で支払いを済ませてきてくれ。それが終わったら、私も同行し、先方のコロコロ場へ向かう」
ん?
警備隊がなぜ預かる?
それに、ウェノさん達はどこ?
なんか、いろいろ勝手が違って分からん……。
「あのー、サモラスさん。ちょっとお聞きしたいのですが」
カラムさんが、余計なことは言うなとばかりに目配せをしてくる。
……知らんぷりぷりを決め込む。
こっちだって確かめたい事があるし、出資者だよ? 黙って従いたくはない。
「……なんだ? イロハ君、だったかな?」
おっと、声のトーンが下った、つまり圧をかける感じだな。
怪しい……試してみるか。
目の部位強っ!
「ウェノさんとブルさんは、どこへ? あと、支払いができなかった場合はどうなるんですか?」
「今回の拘束者は、先方の希望で現場にいる。損害金が払えない場合は、本人たちが働いて返すか、鉱山送り……これもある意味働いて返すことにはなる」
ほほーう。
この人オーラが赤だね、マゼンタが出た。
カラムさん、ミネさんはやっぱり水色やね。
「なぜ、先方のコロ……なんとかは、現場での拘束を希望したんでしょうか? また、その要求をのむ必要が警備隊にあるのでしょうか?」
さすがに、カラムさんが焦ったような顔をしている……やっぱ聞いちゃまずかったかな。
なんとなく予想はできているけど。
「ん……現場の拘束は、損害金の支払いができない場合に、コロコロ場で働いてもらうことになっているのだそうだ。要求ではなく、被害者の希望だ。希望を聞いて何が悪い?」
何がって、明らかにコロコロ場の肩を持っているじゃん。
「そうですか、ではもう一つ。ウェノ、ブル両名に支払いをさせたいわけですよね? お金が目的なんですよね? その先方は」
「なんなんだ、お前は! さっきから、警備隊に不手際でもあったかのように言いやがって! そうだよ、先方がお金を要求しているから、そうだろうよ!」
おっ!
赤オーラが、黒ずんできた……。
「その、拘束された二人は、一日で五十万ソラスも稼ぐ冒険者ですよ? なんでわざわざ下働きなんかをして返済期限を延ばそうとしているんですか……ねぇ?」
「そんなことは知らないね。先方からの通報があったから、我々警備隊が動いただけだ」
「あらら? 事情をよく知らない割には、警備隊が一時お金を預かるだとか、先方の要求……いや希望を聞いて現地で拘束中とか、おかしいですね。一晩経っているわけですから、現地に拘束できる場所が
「おい、坊主。いい加減にしとけよ! 大人をからかうもんじゃない。まだ続ける気なら、お前も拘束するぞ!」
赤オーラが、どんどん黒ずんでいく。
なるほど、オーラは感情にリンクしているようだ。
「ふぅ~。あのですね、何もしていない十歳足らずの子供をどうやって、何の罪で拘束するんですか? いい加減にするのはそっちの方ですよ。今の話で、あなたと、そのコロコロ場は、何らかの形で繋がっているのは分かりました。ただ、こんなことを警備隊がしていいわけがないので、揉めそうだったらすぐに手を引くつもり、でしょう?」
「この……! わかった。俺は、もう知らん! 関係ない! この問題は、お前たちとコロコロ場の話だ。損害金も直接払ってもらおう」
お、今度は赤から朱色オーラになってきた……。
ふーむ、もう少し刺激してみるか。
この人、察知が早そうだし、気づいてくれるかな?
「いまさら、逃げられませんよ。現場に同行するんでしょ? お金も預かってくれるんですよね? まだ、証拠とかないですから……大丈夫ですよ、今の所はね」
「な、なんだよ、警備隊に引いてくれって話じゃなかったのか? お前は、俺をどうしたいんだ?」
ふむふむ、橙オーラだな。
だんだん薄く、いや黄色になっていってる感じか。
「いえ、特には何も。ただ、警備隊なんですから、公平に判断してもらわないと、一般民が困りますよねぇ? だから、お金をもらっていようが、便宜を図る関係だろうが、公平に判断してほしいんです。公平にね。もちろん、サモラス警備隊長様は、公平で民の味方なんでしょ? だったら、何の不満もありません。行きましょう、一緒に」
む、サモラスさん、表情の険が取れた感じだぞ?
「お前の言い分は……分かった。俺も同行し、公平に判断する。そして、お前たちは、警備隊にどちらが正しいのかを提示する。これで、お前は余計なことを考えなくてよくなる……そう言うことだな?」
うんうん、サモラスさん、話が早い。
そして、オーラはさらに色を変えていく……。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ⇒ミッド⇒ホグ⇒メルクリュース領カーン
最終目的地:王都メルクリュース
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