四十九話 冒険者とは

 客車は順調に出発。

 

 早速、冒険者の事でも聞いてみようと、ブルさんに話しかけた。


「ブルさん、パーティ名は青の盾あおのたてだよね? なんで教えてくれなかったの?」


「四人揃っていなかったからな。メンバーに、もう一人ゲータスってのがいるんだ」


「そっか。確か、負傷中とか言ってたね」


「そうだな。もう半年以上復帰できていない。パーティで動いている以上、アタッカーがいないとなかなか厳しいんだ、冒険者って奴は」

 

「ブルさん、冒険者ってどうやってなれるの?」


「なんだ? 冒険者になりたいのか?」


「そういう訳ではないけど、興味はあるかな?」


「冒険者は基本的に誰でもなれる。向き不向きはあるがね。ただ、続けることが難しいんだ」


「怪我とか、事故とか?」


「それもあるが、多くは人間関係だな。結婚や子供などの理由で辞める者も多い」


「ああ、そういう事か」


「俺は、冒険者になってもう十年を越える。沢山の者を見てきたし、同期の奴もだいぶ減った」


「えー! そんなに長く冒険者をやってんだ」


「危険な仕事も多いし、収入も安定しない。不定期だから、家族との時間も都合よく取れない」


「大変なんだね、冒険者は」


「だがな、一番の続かない原因は、冒険者クラスとランキングのせいなんだ」


「面談の時に言っていた五級ってやつ?」


「そうだ。五級ともなれば、そこそこ食っていける。クラスが上がれば選べる依頼が広くなるからな。例えば、この護衛とかな」


 ああ、だから父さんは聞いていたのか。


「クラスって何級まであるの?」


「十級から一級だ。その上もあるにはある。現実的ではないし、なりたくてなれるものでもない」


 十級が一番下か。

 何かの検定みたいだな。

 

「五級は、どれくらいいるの?」


「そうだな、五級がどれくらいかは分からんが、冒険者のほとんどが、十級から五級までだと思うぞ?」


「なかなか厳しい世界だね。じゃあ、仕事ってクラスによって決められているの?」


「どう言えばいいか……。冒険者は、最初に雑務をこなすんだ。それから採取、狩猟、運搬などクラスが上がれば選べる仕事の種類が増える」


 クラスってのが、冒険者の能力評価みたいなもんか。


「なるほど。その仕事の種類は、難易度がクラスに直結しているみたいな?」


「必ずしもそうではないが、だいたい合ってるぞ。話が早いなイロハは。子供とは思えん」


「どーも。では、さっきのランキングって何?」


「これも、冒険者じゃない人間には説明が難しいぞ。ランキングには意味があって、上のクラスへ昇格したい人には必須条件だ。同じクラスにいる者の中で、ランキング十位以内に入れば昇格試験の条件を満たす」


 冒険者とは、ミッショングレードならぬグレードミッション制とでも言うか。

 等級に応じて選べる仕事内容が増える、そこに実力主義まで……世知辛い。


「じゃ、競わせるとか、楽させないような意味合いがあるの?」


「そりゃ違うな。向上心がある者は、上を目指せるという意味合いが強い。冒険者は、クラスの降格自体がほとんど起こらないんだ。ランクは落ちることがあってもな」


 うーむ……降格が無いとは、いろいろな抜け道がありそうだな。

 それに、意欲が無い層の万年平社員ができてしまう気がする。


「それだと、自分のやりたい仕事のクラスで満足して、それ以上は頑張らない人も多くなりそう……」


「ほう、よくわかったな。だから、無難に七級や六級付近で大人しくしている者が多くなり、いざ頑張ろうとしてもランクは上がらず、昇格できず……最後は怪我か年齢かで悩んで辞める者がほとんどだ」


 だろうね。

 やる気と評価されるとでは、主体が違うし、タイミングもまた重要。

 社会人に通ずるものがある……。


「そう言えば、ブルさんは五級だよね、ランキングは何位なの?」

 

「おいおい、言いにくい事を聞いてくれるじゃねえか。まあいいか、俺は四十位くらいだ。冒険者にランキングを聞くことはあまり良くない行為だぞ。言わない人がほとんどだろうがね」


「なんでだろう……うーん、とりあえず聞かないことにするよ」


「なんでも何も、自信持って言える奴と言ったら十位以内だろ。でも、昇格を控えているわけだから、あまり目立ちたくないんだよ。それ以下なんて、燻っていると言っているようなもんだぞ? 気にしないのは、せいぜい上級と言われる三級以上の者くらいじゃねーか?」


 向上心は無いのに、燻っている自覚はある……分かるなぁ、挫折やチャンスを逃した時には特に、俺も経験がある。

 

 実際、向上心が最初から無い人はほとんどいないんじゃないか?

 現状に満足してしまったり、諦めてしまった時に失ってしまうものだと思っている。

 

 周りと比べられたり、タイミングを逃したりと、結局、勝者がいれば敗者もまたいる。

 勝敗や結果を出すという事を、今すぐに決めたくないだけ……そこに周りがかかわると、余計に逃げているわけじゃないって追い込まれていくんだよ……。


 うん、こういうのは、土足で踏み込んでいい領域じゃないな。


「なるほど、よく分かったよ。これは、気軽に聞けないね。あ、そうそう、降格しないのはなぜ?」


「年一回以上、依頼を受けておけば降格はしない。もちろん、完了しないといけないがな」


「結構ゆるいね。だったら、冒険者になっておくのもいいかもしれないなあ」


「そういうやつも沢山いる。騎士をしながらだとか、商人をしながらだとかな。冒険者協会は、冒険者人口を減らしたくないんだろうな」


 母数の問題だろう。

 意思はともかく、数が少なけりゃ組織が成り立たないもんな。


「今度は、ブルさんの武勇伝を聞かせてよ」


「なんだ? そんなものはないぞ」


「そんなこと言って~。じゃあ、命の危機に直面したことは? そう言うのを聞きたい」


「うーん、それならな。あれは俺が……」



 ブルさんからは、根掘り葉掘りと冒険者のお話を聞かせてもらった。

 

 いやー、有意義すぎる。

 下手な小説を読むより内容が濃いし、リアルで面白い。


 外は、日が傾いてきたけど、ちゃんとペイジに着くのかな?

 何にもない雑木林のような場所を抜けて進んでいる。


 途中で、休憩を挟んで、外はもう薄暮状態。

 薄暗い中、雑木林を抜けた先にやっと街っぽい何かが見えてきた。


 ほっと一安心。

 さあ、初めての経由地ペイジへ!



「そろそろ到着するぞ!」


 ウェノさんのお知らせが入る。


 あれ? 今まで、街へ入る時に起きていた事がないや。

 外を眺めていると、ウェノさんが門番と話している。

 

 やがて、門番さんがこちらへやってきて、客車、荷車を目視で確認しているところ、目が合った時「ようこそペイジへ」って言われた。


 検問があるのか。


 間もなく、ペイジポートへ到着。


 皆んなで手分けして荷物を持ち、宿へ移動。

 小さな街なんで、宿も二軒ほどだった。

 名前は『ハテハテの宿』と。

 ここは、一階が大衆居酒屋タイプとなっていて、大人たちがリーズナブルな価格でお酒が飲めるらしい。

 

 以前、お酒は苦手だった。

 肌に合わないというやつで、よく「人生半分損している」と言われたものだ。

 半分もだよ……。

 なので、第二ラウンドのこの人生、大人になったらもう半分の楽しみにチャレンジしてみたい。


 と言うわけで、チェックイン!


 俺はウェノさんと二人部屋。

 すぐに食事ということで、一階に降りる。


 青の盾メンバーも揃っていて、四人席の長方形テーブルに着席……俺だけ短辺にどこからか持ってきた椅子。


 おいぃぃー!

 俺だけおこちゃま席やんけ。


 ブルさん達は、飲み物を先に頼んでいたらしく、ビールっぽい泡の乗った飲み物が配膳された、俺は果実水のようだが。


 まずは、かけつけ一杯ってとこか。


「明日はネイブ領を抜ける。皆の無事を願って、乾杯!」


 乾杯って言うんだ。

 今日まで、出会わなかったな……乾杯。


 喉が乾いていたんで、一杯目のオレンジジュースっぽいのをごくごく飲んで、俺のお気にのジュースを追加注文。

 トリファのお祝いの時に食べたサクランボリンゴのやつ。

 これ、ただのリンゴ味なんだけど、名前はサクランゴだったな。


 周りを見たら、ブルさんはすでに三杯目、ウェノさんは二杯目……凄い勢いで飲んでいる。


 飯だ、飯。

 お腹すいた〜!


 間もなく、ドロドロのスープに焼いた肉と茹でた野菜盛りが届いた。

 真ん中にドン、各々が取り皿へ取っていくスタイルだ。


 まずはスープ……美味い!

 これ、じゃがいもスープか。

 

 では、お肉を少々取って……んモゥー!

 牛だ、ビーフだ、懐かしい。

 だいぶ固いが、味は牛さんだ、塩ペパ味……ご、ご飯ほしい。


 野菜は、まあちょっとだけ食べるか。

 うーん、温野菜というのか……塩煮というか、あまり美味しいとは思わないけど、体のためにね。


 スープとお肉をたらふく頂いて、お腹がパンパン。

 もうすでに眠い。

 大人たちを見ると、まだ飲んでいる。

 どこに入っているのかね。


 俺はそろそろお暇を。


「眠たくなったんで部屋に戻るね」


「体汚れているだろ? 洗って来い、俺はまだブル達と飲むぞ」


 出来上がっているのかよく分からないウェノさんが、宿のカウンターを指差す。


「はーい、ごゆっくり〜」


 カウンターに行くと、布切れと桶をもらった。

 道順に行くと、銭湯が……あるわけ無い、ただの水浴び場だ。

 時期的に、そんなに冷たくないので、ザブザブ浴びて、ゴシゴシ。


 適当に済ませて部屋に戻ってきた。

 子供の体って、どうしてこんなに眠いの? 夜はこれからだと言うのに……。



 ……目が覚めた。

 ジュース飲みすぎたかな、ちょっトイレ。


 トイレは一階だったもんな、危ない、危ない。

 ん? 食堂は、まだやっているっぽいぞ?


 覗いてみると……ブルさんとウェノさんペアが、空コップを大量生産しながら盛り上がっていらっしゃる。

 

 声は大きめなんで、多少聞こえてくるが……父さんの名前がチラホラと。


「……しかし、ルーセントには困ったもんだよ。昔のよしみで協力するつもりが、すぐにネイブへ来いっ! だろ? まいったよ」


「……俺は、王都の冒険者を長くやっているから知っているが、騎士団の赤鬼のルーセントといったら、とんでもなかったぞ」


 赤鬼?

 赤槍じゃなく?

 プッ……『赤鬼のルーセント』おもろいやん。

 

「あー、どっかのパーティをボコボコにして回ってたやつか? なんでも、逆鱗に触れたとかなんとか」


「そうだ。ありゃ、今でも冒険者の中では、伝説になっとる。関わった者は、もう王国におらんという話だ」


 こえー! それって指名手配されてんじゃないの?


「一体何があったんだ? ルーセントがそんなになるほどとは……。本気で怒らせたら……あー、嫌なこと思い出した」


「ん? あんたも、なんかあったのか、ウェノさん」


「いや……まーあったんだが、その話はいいさ。それで、何があったんだよ」


「ああ。とある商人が、腹いせに冒険者を雇って、騎士団の人間に嫌がらせをしたらしい。それもかなりしつこくな。それが、同僚だか友人だかで、関わった者全てボコボコにしたって話だ」


 あり得そうな話だ。

 父さんは情に厚い人だからな。

 よかったよ、ただの暴力行為じゃなくて。


「へ〜、なんでルーセントが急に王都を離れたか分からなかったが、そういう事か」


「関わった者の中には、三級の奴もいたそうだ。以降、冒険者はルーセントさんとモメるなと釘をさされた」


 父さんは、少なくとも三級の実力を持っている、強いわけだ。


「大義名分はルーセントにありそうだな。そりゃ、恐れるわな」


「俺も信じられんよ、あんな恐ろしい伝説の人に……イロハというまっすぐな子がいたという事実に」


「そりゃ、俺もだ。もっと横柄で、顎で大人をこき使う生意気なガキと思っていたからな。そうそう、ルーセントを子供にしたような……子鬼のルーセントってかぁ?」


「ブハハハー! 傑作だ。ブハハハー!」


「クックック……笑えるだろ? クァッハッハー!」


 なんか、盛り上がっているな。

 大人は、いろいろとストレスが溜まるのだ。

 俺は、理解のある子供だから今日のことは心の内に秘めておこう。


 さて、また寝ますか。



 ププッ……赤鬼のルーセントて。



 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ⇒ネイブ領ペイジ

 次の経由地:ウエンズ領ベガ

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