四十八話 初野営

 ブルさんにいろいろ聞こうと思ってたけど、満腹効果ですぐに寝てしまった。


 特にトラブルもなく、休憩のおトイレも徐々にタイミングが合ってきたので、膀胱に優しい旅となりつつある。

 

 起きて気づいた時には、もう夕暮れだった。

 そろそろ野営地点に到着するかもしれん。


「ブルさん、ごめんなさい。すっかり寝てました」


「気にすんな、慣れない旅で疲れたんだろうよ」


「日が暮れて暗くなったら野営なの?」


「もう少し早いな、完全に暗くなる前には野営の準備をする、間もなく次の野営地点に着くぞ」


 そっか、街灯とか無いもんな、ほんとのお先真っ暗状態か。

 

「あー、冒険者のこと聞きたかったな」


「そんなもん、あと何日あると思ってんだ。聞きたかったらいつでも聞きな」


「うん! ありがとう」

 


「おい、そろそろ着くぞ!」


 ウェノさんの声が響く、景色はまさに夕暮れ時という感じだ。


 野営地点に到着した。

 昼食の時と同じような準備が始まる。


 人生初の野営だ!

 もちろん、キャンプとかは経験がある。

 でも、この世界では勝手が違うし、ランタンやらバーベキューセットなんかも無い。

 

 では、せっかくなので、気合の第一声をカマしてみる。


「薪取ってきますっ!」


「おう、見える範囲で頼むぞ。あと、獣は狩らんでいい」


「へーい……」


 大人は、すぐ先読みして行動を制限してくる、まったく。


 野営地の森側の浅いところで、小枝を集める。

 小動物やら、気持ちの悪い虫やらがうじゃうじゃおる。


 ある程度集めた頃、木陰に毒々しいキノコが生えているのを見つけた。

 うわぁ、採ってみたいが大丈夫か?


「なーにやっでんだ?」


 ウェノさん!


「いや、なんか凄い色のキノコがあるなって」


「これは、コルキノコだな。触ったら火傷、食ったら三日くらい地獄だぞ?」


 川から汲んできた水を、両手に持ったまま毒キノコを説明してくれる。


 危ない、危ない。

 やけにカラフルな色だなと思ったよ。


「触んないでよかった。さてと、薪持っていこーっと」


 しっかり監視がついていたか。

 あんなに重いの持って、どうやって一瞬で近づいたんだ?


「薪持ってきましたー!」


「おう、ご苦労さん。もうすぐイロハが仕留めたダチョルを食える。いやー、干し肉じゃなくてよかった」


 ブルさんは、ご機嫌で何よりだ。

 

 ミネさんのところに行ってみようかな、あんまり話したことが無いし。


 ということで、料理中のミネさんに突撃インタビュー!


「ミネさん。なんのスープを作っているの?」


「あら? イロハ。これは、野菜のスープよ。あと、これに干し肉の予定だったけど、ダチョルが手に入ったからね」


「ダチョルって美味しいんですか?」


「ヤマドリでは一番美味しいと思うわ。奇麗な状態で捕らえるのは難しいと言われているからね」


「ヤマドリ? ヤマドリって、白くてもっと小さくないですか?」


「ああ、この辺の鳥って、だいたいヤマドリって言うわよ。冒険者は、その辺ちゃんと分けないと狩猟の仕事ができないからね。お店は、そこまでのこだわりは無いと思うわ」


 まあ、地球でも普通の豚、黒豚など全部豚肉だし販売店はそれでいいのかも知れん。


「へ〜、知らなかった。だから、たまに違う味がしたんだ」


「味の違いがわかる子なのね。将来のお嫁さんが大変そうだわ」


 そんな事ありません!

 何にでも調味料ドバドバのバカ舌です。

 おかげで、健康診断の数値が……今はいいか。


「田舎の村なので、味付けが塩だけなんです。だから、微妙な違いもなんとなくね」


「あら、香辛料が欲しいなら、次のウエンズ領で買うといいわ。王都より品揃えがいいし、安いわよ」


「おおー! ミネさんありがとう。凄く欲しかったんだ」


「今から焼くダチョルも、カラマメやペパを使うから楽しみにしててね」


 ペパねぇ。

 ペッパーとか、そんなオチだろうな。

 名称は、似た響き系や混ざり系が多い。


「楽しみです。あの、護衛中に狩りとかはしないんですか?」


「そうね。ブルさんが仕事人なところあるから、あまりやらないわね。怪我をしたら仕事に響くでしょ?」


「そっか。狩猟とか、冒険者のこと教えてほしかったんだけどな」


「まだ早いわよ。学校にも行ってない子が、冒険者なんてできるわけないじゃない」


「そうだよね……残念」


「まあ、捌いたり、採取くらいはカラムに聞いたら教えてくれるかもよ?」


 おお!


「カラムさんって、今、捌いてるよね? 行ってくる!」


「はいはい、行ってらっしゃい」


 

 ちょっと移動して、カラムさんの所へ。

 

「カラムさん! 捌き方見ててもいいですか?」


「びっくりした! ああ、もう今日出すダチョルは切り分けたぞ?」


「残りはどうするの?」


「一応、明日まではもつと思うから、残りは油漬けにする。こうすると少しは長持ちするんだ」


 オイル漬けか、空気に触れないとしばらく持つって感じかな?

 鳥は、細菌とかヤバいんじゃなかったっけ……。


「へー、なるほど、見てよっと」


「この部分をな、こう切るときれいに取れる。ここの部分は内臓に触れたから捨てる。この筋は先に切っとけば、後は適当な大きさに……よし」


 手際よすぎじゃないか?

 しかも、よく切れる短剣だ。


 俺も、料理はよくやる方だったから分かるが、普通はこんな簡単に生肉は切れない。

 しかも、毛や皮、内臓もそのままの肉で骨もある。

 

 少し凍らせるとかでもなく、上手く繊維に沿って、各部位に切り分けている……お見事!


「手際がいいですね?」

 

「まーな。数年やっていると自然とできるようになるさ。あとは、これに塩まぶして擦って、油壷に全部入れる、これで良し」


「明日、食べるんですか?」


「そうだな、昼は食べられるかもな。夜はペイジに着くから明日には食べてしまわないとな」


「今度、採取の事とか、捌き方を教えてください!」


「お、おお。いいぞ、冒険者に興味あるのか?」


「はい、知らない事なら何でも、ですかね?」


「好奇心旺盛だな。流石、多感な子供さんだ」



 それから、夜ご飯になるころには、辺りは真っ暗となってきた。

 

 新鮮なダチョル肉に、香辛料をふんだんに使ったヤキトリ、みんなも絶賛して、頭ワシャワシャされてしまった。

 お味の方は、今まで食べた鶏肉の中で断トツ一位。

 

 ブルさんなんか、狩猟を解禁しようかと本気でウェノさんに聞いていたほどだ。


 夜は、護衛とウェノさん四人で交代の見張り番をするらしい。

 野営と言っても、テントとかではなく、客車で寝るだけ。

 

 夜食に、さっきのオイル漬けを食べようと言う話が聞こえてきたが、いい子は早めに寝ます。

 

 みなさん、夜間警備をよろしくお願いします。



 ◇◇



 日の出とともに、朝早くの出発となった。

 

 今日は街で休める……という思いは、皆も変わらないんだと思う。

 心なしか、早く行こーぜ感が出ている。


 何のトラブルもなく、昼食拠点に着き、昨日仕留めたダチョルのタレ焼きを食べた。

 この世界のタレは、塩っ辛くてまだクオリティが低い。


 あの、万能調味料のみりん様がいてくれたらなあ……照りが欲しい。


 驚いたことに、あんなに大きなダチョルさん、五人が一日半で完食してしまった。

 

 これには理由があって、昨日の野営時、大人気ない大人たちの悲しいリレーの末、今日の昼食分を残して全部食べてしまったからである。


 最初の方。

「ダチョル美味しかったなぁ、ちょっとくらいいいわよねぇ?」と。


 次の方。

「まだ沢山残っているな、腹減ったし食うか」と。


 次の方。

「あ! 結構減ってる、俺が捌いたのに……まだあるし、ちょっとくらいいいよな?」と。


 そして、最後の方。

「イロハが仕留めた鳥、ルーセントに自慢すっか。パクパクパク、んめ~」と。


 そして、朝を迎える。


 誰とは言わないが、口調でお察しであった……ダチョルさん大人気ですわ。


 

 さて、次の街を目指して移動しているところだけど、今日もブルさんと俺の客車をシェア中である。

 昨日の見張り番で、一番きつい真夜中の担当をしていたみたいで、寝不足のようだ。

 目の前で豪快に爆睡中である……おい、仕事人はどこ行ったよ?


 単調な景色が続く中、やることもなく、普段は荒っぽいくせに静かな寝息のブルさんを見ながら俺も寝た。


 

 疲れていたのか、結構長く寝ていた気がする。

 ブルさんはすでに起きていて、ちょうど小タイムということで客車が止まった。

 俺も行ってこーっと。


 日本育ちの俺としては、こんな野外で普通に用を足すのは抵抗があるけど、女性も普通にそこら辺の木陰でいたしておられたようだ。

 

 小も大も男も女も子供も大人も、生理現象には勝てません、出るもんは出るんです。


 最近は、普通に男同士で並んで……ってな感じに染まってしまった。

 

 今日の夜には、ペイジに着く。

 かなり寝たし、今度こそブルさんとお話ししよう!



 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ⇒ネイブ領ペイジ

 次の経由地:ウエンズ領ベガ

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