四十五話 一組目の冒険者

 王都までの護衛として、冒険者を雇うことになった訳だが、どんな人物なのかをしっかり見定めたい。


 思えばずいぶん昔のことだと感じられるが、社長時代は、自分で面接し採用を決めていたものだ。

 

 これから、まず一組目のパーティの面談となったので、ワクワクしながら到着を待った。


 面談会場は、会議室を使って良いと言われたので、父さんと二人で待機している。



「失礼するっ!」


 荒っぽい感じで、大柄の男と小柄の男の二人組が会議室に入ってきた。


「こんにちは。君たちが、王都までの護衛希望のパーティか?」


 一応、決めるのは俺だけど、進行役は父さんにしてもらう。

 子供だとナメられるし、当然、父さんは見た目も厳ついから抑止力にもなる、との事。

 脅す気じゃないよねぇ?


「あ? 護衛希望ってなんだ? 王都まで送ってほしいと言うから来てやったんだぞ」


 な……これは、なんてガサツな男だ。

 それに偉そうというか、これはもうアウトだろ。

 チェンジで。

 

「そうか。それは、それは。ところで、腕の方はどうなんだ? 見たところ二人のようだが?」


 えー! 思いの外、気にしてなさそうだけど。

 父さんなら、有無を言わさず「出ていけ!」と言うかと思った。


「俺の冒険者クラスは五級だ。あと一人を加えたパーティも同じクラスだ。ここから王都までなら問題無いだろ?」


 クラス? 五級?

 そんなものがあるのか、一体どれくらい強いものなのか。


「腕は、な。紹介がまだだったな。私は、ルーセント。こっちが護衛対象の、息子のイロハだ」


 げ、突然のキラーパス。

 もう、チェンジだって言いたい。


「イ、イロハです。よろしくお願いします」


「俺は、ブルーシス。こいつはカラムだ。遅れているが、もう一人、ミネウネールという女がいる」


 三人パーティで、ブルーシス、カラム……ウネウネ? 女性もいるのか。


「カラムです。どうぞよろしく」


 この人は普通な感じだけど、どことなく影が薄い気がする。

 ブルーシスさんがインパクト強すぎるんだよな。


「君らは、三人パーティなのか?」


「いや、もう一人いるんだが、今は負傷中だ。問題あるか?」


 負傷中とは?

 怪我で入院みたいな感じか。


「そうだな、負傷中の者の役割はなんだ?」


「剣撃主体のアタッカーだな。ちなみに、俺はガード、カラムはスカウト、ミネはアシストだ」


 アタッカーは攻撃、ガードは守備、アシストは助手とか? スカウトは勧誘……わからん。

 ここへ来て古代語連発だ。

 しかし、アタッカーがいなくて大丈夫なのか?


「なるほどな。襲撃されたらどう守る?」


「ガードの俺が前に出て守備、二人は護衛対象を逃がす。捕縛、殲滅が条件ならばこの話はおりる」


「そこまでは求めないさ。パーティの活動地域はどこだ? あと、護衛実績があれば聞こう」


「主に王都中心に迷宮探索だ。今は、負傷者が出たので領都間の護衛と狩猟を少しな。野盗の類とは率先して戦闘をしないが、撃退は、四度ほど他パーティとの合同で経験がある」


「ほう、迷宮か。イロハ、聞きたいことはあるか?」


 また、キラーパスきた!

 ちょっと、情報量が多くてまとまらん。

 

「えっと、あ、あの、護衛は僕ひとりになるけど、大丈夫ですか?」


「なに? 俺たちじゃ心配なのか、坊主?」


「い、いえ。そういう意味じゃなくて、子供ひとりでも護衛を受けてもらえるかなと思って……」


「ああ、そういう事か。問題ない、どうせ王都に戻るついでだ、坊主は気楽に構えて守られとけ」


 怖い……。

 でも、守るだけって心配になるけど、どうなんだろう。


「はい、わかりました。あと、さっきの話で二人と僕が逃げた後、ブルーシスさんが残って戦う場合は、その後はどうなるのですか?」


「ん? 俺か?」


「はい。どうするのか気になっちゃって……」


「やられて死ぬか、生きて逃げ延びるかのどっちかじゃねーの? 坊主に関係あるか?」


「えっ……死ぬって、そんな簡単に」


「何が知りたいのか分からんが、王都まで護衛対象は守る。それだけだ」


「イロハ、その辺でいいだろう?」


「……うん」


「いや、ブルーシスさん、カラムさん、時間を取らせて悪かったね。もう一人とは会えなかったが、大体のことは聞けたので、後は冒険者協会からの連絡を待ってくれ」


「ああ、わかった。こっちは、坊主の護衛に問題はない。早めに連絡をくれ」


「今日中に解答しておこう」


「いくぞ、カラム」


 そう言って、二人の冒険者はスタスタと出ていった。


 うぅ……終始圧倒されて、何も聞けなかった。

 

 死ぬとか物騒すぎるよ。

 うーん、雰囲気は無理だけど、守ってくれそうな気がするから困る。


「と、父さん! 冒険者ってみんなあんな感じなの?」


「ん? あんな感じとは、荒っぽいってことか?」


「うん。出会ったことのない人たちだった」


「笑えるなあ。まるで、お宝息子じゃないか、イロハ。あんなもん普通だ、もっと粗暴な連中もいるし、礼儀正しいのもいるさ」


 お宝息子……?

 なんとなくバカにされているっぽい、この国独特の言い回しか?


「お宝息子ってなんだよ! もう、想像と違って、ちょっとびっくりしただけ」


「すまん、すまん。お宝息子とは、世間知らずの大事に育てられた息子のことだよ、ハッハッハ」


 箱入り息子のことかー!

 語感からそんな感じはしてたよっ!


「父さんが僕の事、お宝にしたんだから笑っちゃダメだよ!」


「いやー、これは意外な弱点を見たぞ。あの、何事にも動じない生意気なイロハがねー。クックック」


「もう、この話は終わりっ! それで、どうだったの? 僕は、単純に怖いと思った」


「そうだな、冒険者を相手にするときは、見た目や言い方ではなく、中身や内容を重視したほうがいいぞ」


「荒っぽくて、声も大きかったし、頭に入ってこなかったよ」


「俺は、そう悪くない印象だったな」


「そうかなぁ……」


「次の冒険者はもう少し後になりそうなので、ご飯食べて戻ってくるか」


 気疲れしたんで、小休止だ!

 もう、お昼をだいぶ過ぎたんじゃないかな?


「行こう! 行こう!」


 

 領主館付近の食堂っぽい活気のある店で、ステーキのようなボリュームたっぷりのお肉を頂いた。

 支払いを自分でしたかったけど、お金のチャージをしていないので、父さんのやり方を見ていた。


 すげー! タッチ決済や。

 ティッシュ箱くらいの直方体の魔道具に、払う側の面と払われる側の面に双方のソラスオーダーを押し当て、青く光ると完了らしい。

 金額は、中央上面に該当するプレート乗せてあるので、たぶんそれを読み込んでいるんだと思う。


 あの魔道具、どんな構造なんだろう。

 こうすれば、こうなるんだよ……で納得できない自分の性格が恨めしい。


 領主館に戻る時、我慢できずに聞いてみた。

 

「父さん、あのソラスオーダーで支払った魔道具って、どんな構造なの?」


「ん? セーバーのことか?」


「あれ、セーバーっていうの? それそれ、あの四角いの」


「構造って、こっちの面に俺のソラスオーダーを当てて、あっちの面に店のソラスオーダーを当てて、金額のプレート置いたらいいんじゃないか、見ていなかったのか?」


 これだから脳筋は。


「……そんなんじゃない。父さんに聞いた僕が間違いだったよ」


「なんだよ、あの魔道具だろ? いろいろあるぞ。腕につけるやつとか、持ち運びするやつとか。でも、だいたい同じ形状だな」


 なんというか、必死で答えてくれようとしている……って、サイズ違いもあるのか!


「え? 小型もあるの?」


「あるぞ。大きさは違っても、確か……各面の役割は統一されていたと思う。どうだ、これでいいか?」


 知っている事は答えたぞ、とでも言うような顔になっている。


 あの直方体の魔道具の『セーバー』は、金取引の情報を記録する物だ。

 客側と店側のそれぞれの面に支払いと受け取り、上面が購入金額の読み取り機能という役割がある。


 そこでまた疑問が……。


「あー、そういう事か。あの上に置いていたプレートは購入代金の情報だよね? あれは、商品ごとに作るの?」


「うーん、俺は商人じゃないからな、詳しくは知らんが、商業組合で売っていたのを見たことがある」


 あ、そうか。

 あらかじめ決まった単価設定に、商品価格を合わせている訳か。

 だから、細かい十ソラスや一ソラス単位は使用せず、百ソラス、千ソラス、一万ソラスで構成される単価設定な訳ね。


「なるほど。じゃあさ、お金ってどうやって入金されるの? 例えば、今払ったお金は、いつお店の人のものになるのかな?」


「え? さっき払ったから、もう店に入っているだろ」


 この世界のほとんどの人はそんな感覚だろうけど、ネット社会経験者の俺は納得がいかない。

 セーバーが端末なら、その情報はどうやって他の端末情報と合わせてメイン装置に通信されるのだろうか?


「情報はね。でもたぶん、すぐに使えないと思う。なんか、チャージ……いや、情報の更新のような事をするんじゃないかな?」

 

「あー、何が言いたいかわかった。どうせ、今からイロハに入金するから、やってみるか」


「うんっ!」


 話しながら、領主館に着いた。

 そのまま、冒険者組合へ。


 冒険者組合の依頼窓口の隣に『金取引所』と書いてある窓口があった。


「ここだ。ちょっと待ってろ」


「わかった」


 父さんが、金取引所の受付で送金の手続きをやっているんだと思う。

 

「よし、いいぞ。この子へ入金したんで、更新をお願いします」


 ずいっと前に出された。


「はい、ではソラスオーダーをお借りしてもよろしいでしょうか?」

 

「はい、お願いします」


 ネックレス型の自分のソラスオーダーを渡す。


「こちら、一度もご利用がありませんので、初回登録となります。少々お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」


「はい。登録料とか、お金がかかるんですか?」


「今回は必要ありません。作成時に登録料も含めて頂いております」


「あ、すみません……」


 受付の人は、淡々と説明をしながらも、俺のソラスオーダーを後ろにある大きめの魔道具に入れて作業をしている。

 仕事のできる人だ。

 

 

 しばらく待っていると、受付の後ろにある魔道具が青く光った。


「登録が終わりました。情報の更新も終わりましたので、お返しいたします」


「ありがとうございます」


「ご利用いただき、ありがとうございました」


 受け取ったソラスオーダーを、じっと見ていると……じわっと文字が浮き出てきた。

 徐々にハッキリと見えてきて『七十八万ソラス』と読める。

 この辺は、コアプレートと同じだ。


「ちゃんと入金されているか確認できたか?」


「うん。これ、不思議だね。ところで、なんで七十八万ソラスなの?」


 マジで、不思議すぎる……どういう理屈だ?


「入学金二十万、宿泊代三か月十八万、生活費三か月三十万、予備に十万ってところだ。このくらいしかしてやれないが、頑張れよ。三か月分は入れているから、困ったら早めに手紙で知らせるんだ」


「父さん、ありがとう。頑張ります!」


「さて、こんなところで立ち話もなんだ、会議室へ行こうか」


「うん」



 次の冒険者を待つために、会議室へ入った。

 まだ、冒険者は来ていないようなので、もう少し気になったことを聞いてみようかな。


「まだ来ていないようだな、冒険者は」


「うん。それでさ、さっきの更新した大きな魔道具ってどこにでもある物なの?」


「各領にはあるんじゃないか? 王都には何か所かあった覚えがあるぞ。もう分かったと思うけど、送金は金取引所の大きな管理セーバーで更新すれば、お金が実際に使えるからな」


「それじゃあ、商売をしている人は、定期的に更新しているってこと?」


「セーバーを持っている人は、みんなやってんじゃないか?」


「そうなると、例えば、ネイブ領から王都までの送金はどれくらい時間がかかるの?」


「ああ、それはだいたい一か月から二か月はかかるぞ。そういう意味で三か月分入れたんだよ」


 納得だ。

 個人と店の取引は、商売人のセーバーでことが足る。

 恐らく、店員の給金なども同様。

 商売人は、各領の管理セーバーで更新し、それまでの金取引情報がインプットされる。

 

 送金に数か月かかるということは、リアルタイム通信ではなく、物理的に情報を集めて回る役目の者が、定期的に管理セーバーを更新しているのか。


 これなら、金銀銅貨の直接支払いも支店までで解決する。


「ありがとう、父さん。ソラスオーダーの謎は解けたよ。あの魔道具の仕組みはよくわからないけどね」


「そりゃよかった。しかし、お前も変なところに興味を持つな。みんな、あんまり気にしていないと思うぞ」


 だろうね、俺も日本での知識がなかったら疑問もわかない。

 できるなら、純粋にこの世界を満喫したいよ。

 

「うん。自分でも、たまに考えなきゃよかったって思うこともあるよ……」


「まあ、今に始まった事じゃないからな。もう、イロハのなんで? には慣れたよ」


「そんなに、なんで、なんでと聞いていたかな……」


「お! 来たようだぞ」


 唐突に、お話タイムは終了を告げられてしまった。



 【移動経路】

 ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ

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