四十四話 ソラスオーダー
朝早く出てきたから、ボチボチお昼くらいじゃないかな? お腹も空いてきたぞ。
俺、ネイブ領主、ウォルターさん、ルブラインさんのふんどしで相撲を取った父さんは、実にすがすがしい顔をしている。
「ふぅ。いろいろ、すまんなイロハ」
「いや、大丈夫。結構面白かったから。でも、父さんはぶん殴るかなーって思ってたんだけどな」
「まあ、人の目もあるし、あんな奴殴ってもいいことは無いさ。そんなことより、同行する商会がなくなってしまった……困ったな」
殴る選択肢もあったんだ……。
「でも、王都行きの人くらいいるでしょ? 別に大人数じゃなくても、僕は大丈夫だよ」
「そうは言うが、今から探すとなると身元の保証が難しくなるな。普通に冒険者を雇うしか無いぞ」
身元保証か。
大手の商会だったから安心していたと。
保証の意味ねー!
それなら、適当な同行者を探して不安を抱えるより、冒険者数名に僕一人を守ってもらう方がましのような気がする。
「それでいいよ。結局、道中の盗賊対策でしょ? 金目の物を沢山積んでそうな商隊より見逃してもらえる可能性が高いんじゃない?」
「確かにそういう考え方もあるんだが、人数が少ないと襲われやすいということもあってだな……」
「もし、僕が冒険者を雇うと言ったら、何人くらい雇うことになるの?」
「そうだな、冒険者は、基本ひとつのパーティ単位で仕事を受けるので、三、四人くらいじゃないか?」
パーティって言葉はあるのか……。
この世界でカタカナ語がどこまで使えるわからないので、できるだけ誰かが使ったものを使うようにしていたけど。
カタカナ語は、こちらで言う古代語の名残ってことだったよな。
ミルメとレジーにうっかりピラミッドと言ってしまった時は焦ったなあ。
「だったら、護衛する者が四人と、護衛される者が一人では、護衛側が多いから守りやすいんじゃないの?」
「む……よくそんなことを思いつくよな、お前は」
「これでも王都で上位の学校の試験を受けに行くところなんだよ? いろいろ勉強したに決まっているじゃない」
王都トップスリーとか言って通じるんだろうか……。
「わかった。今から、雇える冒険者を探してみる。待っている間にソラスオーダーを作りに行こうか」
「はいっ! 楽しみ~」
同行予定の社長さんからお断りをされ、新たに冒険者を雇うことになった。
こういうのもまた一興。
そんなことより、カタカナ語がどこまで使えるのかが、気になり始めてしまったよ。
「冒険者協会には、予約を入れてきた。少々の文句を添えてな」
「あらら、お気の毒。それよりも早く作りに行こうよ! ソラスオーダー」
「行くか……と言っても、冒険者協会で作るんだぞ?」
「そうなの? じゃあ、お金はどこに預けるの?」
「ん? お金も冒険者協会に決まっている。ま、話すより実際にやってみるか」
二人で冒険者協会の窓口へ。
「ルーセント様。先ほどは、大変申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだ。それで、息子のソラスオーダーを作りたいんだが」
「はい。では、そちらの部屋の方で測定しますので、作成される方は中へお入り頂くと、担当の者が対応致します」
受付の女性が言うには、さっきの待合室の隣の部屋で測定するらしい。
「じゃ、行ってくるね」
「そこの待合室にいるから、終わったら来るんだぞ」
「わかった」
測定室に入る。
といっても、何を測定するのか分からないんですけど。
中には、眼鏡をかけた博士のような見た目の中年男性がいた。
「こんにちは。少年はこれから学校が始まる歳かな?」
「こんにちは。はい、王都の学校へ試験を受けに行きます」
「そうか、そうか。では、コアを測定するから、こちらへ。そうそう、コアプレートは作成済みかな」
「はい、もう作っています」
「それなら話が早い。では、まず血液を頂こうか」
針のようなもので親指の先を刺される。
名刺サイズの黒っぽい金属の板に血をつけるように指示されたので、擦り付けてみる。
「うん、うん。そのくらいでいいよ。次はこっちに来てこの魔道具へ腕を入れてくれ」
あら?
消毒なんかはないのか……指先のちっちゃい傷、結構気になるタイプなんですけど。
たぶん、細胞活性で治ると思うけど、ここで使うのはなぁ。
「はい」
次は、やっぱりコアプレートの時と同じ、あの血圧測定器に似た『魔道具』へ腕を入れる。
後で知ったが、地球で言う機械的な物を、こちらでは魔導金属製道具……だったか、略して魔道具って言うらしい。
きっと、不思議金属とかを使って、不思議金属とかでどうにかしているんだろう。
ああ、それにしても懐かしいなこの温かい感じ。
手順はコアプレートの時とちょっと違うけど、やる事は同じようだ
思ったけど、これはコアの情報などを測定している状態なんだろうな。
「どうだ? 胸の辺りがモヤっとするだろう?」
「そうですね。コアの情報を読み取っているんですか?」
「正確に言えば違うな。コアに特性があるだろう? これは、その形を読み取っているんだ。そして、血液に含まれているコア由来の成分を合わせた物は唯一のものとなる。難しいだろ?」
なるほど、地球で言うところの生体認証みたいなもんかな?
指紋、静脈、虹彩、声紋、耳介……など、二つ以上を組み合わせて本人の特定を行うという感じか。
「なんとなく分かる気がします。コア由来の成分とか、合わせた物って言う部分がよく分からないですが」
「ほほ~う。いいね、少年。いいだろう、説明しよう! コア由来の成分とは、スキルを使う時に消費される物質の事だな。主にコアが生み出すものとされている。合わせた物とは、マージメタルに情報を記憶させることでできる自分専用の情報だ。不思議と自分にしか見えないからな」
なんか、生き生きしているなあ。
イメージ的には、指紋と遺伝子情報ってところかな?
それにしても、マージメタルっていう不思議金属の原理がよくわからん。
「難しいんですね、その技術というのは」
「そうだな、不思議なことが多く、未だに分かっていないことも多いが、やりがいはあるぞ。どうだ? 少年も目指してみないか、コアの研究者を」
「いえ、結構です。今のところ興味はありませんから」
「そっか、そっか。残念だ。興味が出たら私の所へ来なさい、君は見込みがありそうだ。私は、トルフェムと言う。普段は、王都の研究機関でコアの研究をやっている。こうやって、各領を回ることもあるがね」
危ない、危ない。
コアの研究者だったんだ。
しかも、トルフェムさん、王都の研究機関所属って。
俺が一番出会っちゃいけない人じゃん。
「ありがとうございます。僕はイロハって言います。興味が出たらトルフェムさんに相談しますね」
まだかな……魔道具をじっと見ているんだけど、まだ温かいんだよね。
「そろそろいいかな……ん? ちょっと長いな。イロハ君、もしかしたらスキルを沢山持っているか、特性が特殊なものかもしれんぞ。コアプレートは確認しているのか?」
なにぃぃ!
そんなこともわかるのか?
「あははは、そ、そんなことありませんよ。あれ? ちょっとズレていたのかな? コアプレートは、つ、作った時以来、見てませんね」
ちょ、突然聞かれたので、変な言い訳しか思いつかん。
「それなら、確認しておいた方がいいな。もちろん詮索する気はないが、己の能力は常に把握しておかないと、いざという時に何もできないぞ?」
「あ、ありがとうございます」
意外と紳士だ。
一部のマッドな研究者の悪評が目立つだけで、普通の研究者って真面目な人も多いもんな。
「コア
ギ、ギクッ……。
「そうなんですね……」
「イロハ君みたいに、まだ学校へ行っていない年齢の子ではありえないが、スキルの親和性が高い場合も同様の現象になると言われている」
キャー!
トリプル一致ですわ。
「そ、そんなこともわかるんですか?」
「わかるにはわかるんだが、あくまでも統計的な話だからね。でも、ある程度の確証はあるよ。秘密だけど」
思い当たることがあり過ぎるよ。
心臓に悪い。
強化よ、心も強化しておくれ……。
「奥が深いんですね、コアの研究って」
「そうだな。お! もう終わったみたいだ。かなり長かったから、イロハ君はいずれ大物になるかもしれないな」
「そ、そんなことないですよ、からかわないで下さい」
「では、情報を記憶させて、ソラスオーダーを作ってくるからちょっと待ってくれ。おっと、そうだ。首から下げる形でよかったんだよな?」
「はい! お願いします」
えっ?
そんなに、すぐにできるものなの?
まぁ、待つか……と思ったらすぐに戻ってきた。
「おまたせ。これがソラスオーダーだ。一応な、決まり文句があるので聞いてほしい」
「はい、お願いします」
「このソラスオーダーは、冒険者協会で発行、管理を行っています。したがって、不正を働く者に対しては冒険者協会が全力を持って対処するのでご安心下さい。利用に関する注意事項は、各冒険者協会支部にてご確認ください。この度は、ご利用いただきありがとうございました。っと、こんな感じか」
これは上手い。
安心と抑止力のどちらにも働きかける魔法の言葉だな。
「注意事項をしっかり聞いておきますね。トルフェムさん、ありがとうございました」
「またな。試験頑張れよ!」
部屋を出て、すぐに父さんの待つ隣の待合室に入った。
「父さん、終わったよ」
「ん? 遅かったな、なんかあったのか?」
「コアの形? を読み込む魔道具に時間がかかったみたい」
「……そうか。何か言われたか?」
「それって……」
「そうだな。イロハの特性は他とは違う特殊なものだったってことだろ?」
「やっぱり。そんな感じのことは言われたけど、コアプレートは作ってから見ていないって答えた」
「それでいいんじゃないか? どっちにしても、周りが特性を知るすべは限られているし、あくまでも予想しかできないからな」
「えー! 特性を知る方法があるの?」
「むぅ、これは王国の一部の人間しか知らないから、たとえ家族にでも話せないんだ。すまないな」
父さんは、何か知っているんだな……機密事項ってやつか。
「いや、大丈夫だよ。そんな方法があるってことを僕が知っておけばいいし、例え知られても、どうやって知ったのかを明らかにしないと証明しようがないでしょう?」
「……すまん。ちょっとわからん。知られても、証明する? どういう意味だ?」
「例えば僕の特性が分かったと言われても、納得する調べ方を説明できないと、分かったことにはならないと思うんだよね。違うって言えば済む話だし」
「なるほど。そう考えたことは無かったな。でも、そういう道具があるなら厳しくないか?」
ん? 道具って……魔道具か!
機密事項を、こうも簡単にバラしてしまうなんて……しっかりしてくれよ、父さん。
「そんな貴重な道具を使える立場の人間って限られているし、相応の手順があるんじゃないの? だったら使われる状態にならなきゃいいんじゃない?」
誰にでも手に入る魔道具なら、スキル自体を隠す必要がないし、学校で必ずバレるし、ごまかせないもんな。
「あ……確かにそうだな。勢いでいろいろ話してしまったが、内緒だぞ?」
「うん。仮に特性がバレたとしても、何とかなると思うよ」
「ま、そこはお前に任せるよ」
「それでな、冒険者の護衛なんだが、今日か明日出発の王都行きは、二組しかいないらしい。どうする? 出発を遅らせてもいいんだぞ」
「契約の流れはどんな感じなの?」
「冒険者を雇う場合は、予約を入れて面談後に冒険者協会を通じて契約となる」
「じゃあ、面談をしてから決めたい。ダメそうだったら出発を遅らせる方向で」
「わかった。ただし、向こうから断ると言うこともあるからな」
「うん、それで大丈夫」
「今から二組の面談の予約を入れてくる」
「はーい」
しばらくして父さんは戻ってきた。
二組とも、今日の面談を了承してくれたようでなによりだ。
さて、いよいよ冒険者という職の人に直接会うこととなったが、さっきの護衛みたいに、父さんを見てビビるなんてよしてくれよ?
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ
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