四十六話 二組目の冒険者 そして・・・
さて、二組目の冒険者がやってきた。
見た感じ、ぞろぞろと四人で入ってきたので、四人パーティなのだろう。
「どうも、冒険者パーティの『熱風』です。護衛の面談はここでよいかな?」
今度のパーティは、荒々しくないな。
男性二人、女性二人のパーティだ。
「こんにちは。そちらへお掛け下さい。私は、ルーセントという。こちらが息子のイロハだ」
「これは、ご丁寧に。私は熱風のリーダーのコクシジです。メンバーは、右からコレイラ、オイデス、トキソと言います」
コクシジさんが座って、後ろに三人が立っている。
「早速だが、本題に入らせてもらう。君たちが、王都までの護衛希望のパーティでよいか?」
「そうです。護衛対象はそちらの坊ちゃんですかな?」
「そうなるな。値踏みするようで悪いが、冒険者としての実力はどの程度だろうか?」
「私個人ではそこそこ、このメンバーでのパーティ活動歴は五年ほど。パーティランクは五級となる」
さっきも五級だったな、標準的なんだろうか。
「では、ネイブ領へ来た目的は?」
「ウォーデンを拠点に活動していたが、他領へと活動の場を広げようとウエンズを目指すところでした」
東側隣領のウォーデンか。
ネイブより大きいところくらいしか知らないな。
あれ? ウエンズまでなの?
「そうなると、王都まで行ってウエンズまで戻るのが大変になるのではないか?」
「恥ずかしい話ですが、本来は王都まで行くつもりでした。しかし、少々お金が不足していまして、仕方なくウエンズを目指すところでした」
「……護衛で王都まで行けるのであれば、その方が都合よい、そういうことか?」
なんか、父さんの圧が上がった気がするんだけど……。
「……はい、その通りです」
「護衛実績は、どうだ?」
「二度ほど経験があります。私個人で言えば十は越えます」
コクシジさんは、見た感じ三十代のベテラン冒険者って感じがするな。
「その実績は、単独か合同どちらだ?」
「どちらも単独です」
「盗賊や野盗との交戦経験は? また、あればその結果を聞きたい」
「二度とも野盗と交戦し、全滅させて護衛対象を守りきりました」
全滅……ってことは、野盗を殺したということになる。
ふむ、護衛というのは、全滅させた方が評価は高いのか?
一組目の冒険者は、殲滅、捕縛だったら断るとか……。
「最後に、子供を護衛したことはあるか?」
「私とコレイラはあります。その際、野盗は現れませんでしたが」
「イロハ、聞きたいことはあるか?」
「はい。気になることをお聞きします。王都を目指すつもりだったのに、ウエンズを目指したのはなぜでしょうか?」
「ん? お金が足りない事以外、特に意味はないかと。その質問は護衛に関係あるのですかな?」
なんで遠回りしたのかな? という疑問ではあったが……ま、いいか。
「直接は関係ありません。気になっただけですので」
「そうですか。疑問があるのなら、遠慮なく質問をどうぞ」
「では、ネイブ領には、どれくらいの期間滞在していましたか?」
「四日の滞在となります」
うーん、行動がなんというか最終が王都なのに遠回りしたり、ここに四日も滞在したりと、結構適当な人たちかもしれん。
「ありがとうございました。質問は以上です」
「熱風の皆、時間を取らせて頂き感謝する。後は冒険者協会からの連絡を待って頂きたい」
「こちらとしては、護衛の依頼に問題はありません。ぜひ私たちにお任せを。連絡をお待ちしております。では失礼して」
熱風のパーティ四人が、ぞろぞろと会議室を出て行った。
「ふぅ、ちょっと緊張したけど、今度のパーティは、前と比べて感じは良かったね」
「そうだな。イロハはどう思った? なんか変な質問をしていたな」
「どうって、ただ気になっただけで特には……」
「では、どっちのパーティに依頼したいと思ったんだ?」
「見た感じと雰囲気であれば二組目のパーティかな。父さんは?」
「一組目だな」
「えー、それはなぜ?」
「一組目が良いわけではないが、少なくとも護衛の仕事とは何か? ということを分かっている事。会話自体は粗野な感じもしたが、それ以外は特に悪くない事。パーティにスカウトがいたことかな?」
「そうだ! スカウトって何? あとアシストも」
「スカウトは、偵察とか斥候の役目だな。戦闘では短剣や飛び道具などの中近距離じゃないかな。アシストは、補助だ。稀に指示を出したり、戦闘に参加したりする者もいるがね」
つくづく外来語だなぁ、古代語。
偵察ね、広範囲で敵を発見してくれる安全性とガード役の足止め、アシストとスカウトで速やかに撤退。
確かにバランスがいいな。
「なるほど、そんな意味が。二組目が悪いのはなぜ?」
「あれは本音で話していない。何か後ろ暗い事があるかもしれん。表面上は物腰も良い感じではあったが、ウエンズに行くと言って王都に行きたかった、など目的がはっきりしない。ああいうのは、何か隠しているからだと思うぞ。まあ、勘だがな」
「あー、それで違和感があったのか。僕が気になって聞いたのはね、ウォーデンから王都だと東回りが近いよね? でも、ネイブ領に来ているし、四日も滞在している」
「なるほどな、そんな見方もあるな。確かにウォーデンからだと、ナンドに抜けたほうが近いもんな」
「じゃあ、一組目の冒険者にするよ。父さんが見極めたんなら、僕は文句言わない。少し怖いけど」
「そうか、アイツらなら信用できそうだ。よし、早いところ冒険者協会へ返事をしておこう」
「うん」
こうして、一組目の冒険者を護衛として雇うこととなった。
出発は翌日の朝からとなり、今日は契約だけを済ませてから、ネイブ領の宿に宿泊する。
◇◇
そして、出発の日の朝。
俺たちは準備をして、領主館横のネイブポート前に客車で向かった。
すでに、ブルーシスさん、カラムさん……ウネウネなんとかさんが到着していた。
見たところ、ブルーシスさんは大柄で短髪の筋肉質、皮系の鎧に楕円の盾、長めのハンマーみたいな鈍器を持っている。
カラムさんは、小柄で黒っぽい布地の動きやすい服装、腰のベルトには短剣が何本か刺さっている。
ウネウネ……女性は、茶色の長い髪、髪色よりやや明るいベージュ系の膝まであるローブコート、前がしっかり閉まるタイプでキメている。
さて、顔合わせとなるが、ブルーシスさん苦手なんだよな……。
客車を降りて、父さんが挨拶をする。
「ブルーシス殿、護衛を引き受けてくれて感謝する。王都まで、俺の大事な息子をよろしく頼む」
父さんの意外な一面が。
明らかに年下と思われる冒険者に、しっかり頭を下げてお願いしている……初めて見たよ。
「あ、ああ。ルーセントさん、そんなにかしこまらなくても大丈夫だ。受けた仕事はきっちりこなしやす。この命にかえてでも息子さんは守り通すから、どうか安心してくだせい」
ブルーシスさん、どうしちゃったのか変な言葉遣いになってる。
こんな一面を見たら、意外と気のいい人かなと思えてくるよ。
「それはありがたいな。君たちに依頼して良かったよ。途中で何か問題が起きたら、ネイブ領開拓団のルーセント宛に連絡をくれ」
っと、ここで三人の目がカッと見開かれた。
後ろに誰か来たのかと振り返るが、誰もいない……。
女性がボソッとつぶやいた。
「開拓団のルーセント……」
次に、ブルーシスさんが驚いたように話し始める。
「あ、あなたは、もしかして王国騎士団のルーセントさんですか?」
「ん? 俺のことを知っているのか? 王国騎士団は随分前に辞めたんだが」
また、女性がなんかボソッとつぶやいている「赤鬼……」って?
「す、すんません、でした。無礼な態度で。知らんかったんです。あの、王都の冒険者では、赤……のルーセントと言えば……」
父さん。
王都で、一体何をやらかしたんだよ。
言葉遣いが崩壊中のブルーシスさんが、滝のような汗をかいている。
「赤……何だって?」
ブルーシスさん、青ざめた顔に、脂汗みたいなものがドロドロと……大丈夫かな?
助けてやるか、まかせて、俺は知ってるよ!
「赤槍のルーセントでしょ! 父さん」
「うん、そうだぞ。ブルーシス殿も、そうだろ?」
あ、あれ?
笑顔なのに、目が笑っていない……怖っ!
「は、はいっ!」
「まあ、俺のことはどうでもいい。とにかく、息子を安全に王都へ送り届けてほしい。頼んだよ」
「はい! この命に変えても」
重い……重すぎるよ、ブルーシスさん。
「あ、そうそう。これがウェノ、御者だ」
軽い……軽すぎるよ、紹介が。
「どうも、イロハ君の御者を務めさせていただきます、ウェノです。長旅になりますが、王都までよろしくお願いします」
よかった、君呼びになってる。
今朝ウェノさんに、様呼びはやめてってお願いして正解だった。
「君たちに、アタッカーがいないんだったな? こいつは腕っぷしも強いんでいざという時は使ってくれ」
「は、はい!」
ブルーシスさんは、さっきから父さんに忠実なイエスマンになり果てている。
ウェノさんは、チラッと父さんをひと目見て何も言わない、よかったのかな?
確かに、腕っぷしも強そうで有り難いけど。
「では、準備が済んだら出発だ」
それから、ブルーシスさんたちの客車を持ってきたり、経由地の打ち合わせをしたりと、結構ドタバタしたが無事出発となった。
最初の経由地は、ネイブ領の西端の町『ペイジ』らしい。
「じゃあ、父さん。行ってきます!」
「おう! 体に気をつけてな。道中と到着の連絡も必ずしろよ。ステラが悲しむ」
「わかったー!」
後方に、小さくなっていく父さんの姿を見て、なぜか涙が出てきてしまった……。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ
次の経由地:ネイブ領ペイジ
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