三十七話 気づき

 リアムは母さんと別部屋に行ったんで、今は父さんとマンツーマンだ。

 何だろう……スキルのことかな?


「父さん、なんかあった?」


「イロハ……イッカクグマと戦った時、何があった?」


 あー、結局聞いちゃうんだ……。


「何って?」


「一体どうやってイッカクグマを撃退したんだ?」


「撃退? イッカクグマは、こっちの言葉がわかるようだったので、少し痛めつけて森に帰ってもらったって言ったと思うけど……」


「それは聞いたよ。でもな、イッカクグマがあんなに血を流して、お前はかすり傷……一方的じゃないとああはならない。何をしたんだ?」


 ん……かすり傷?


「イッカクグマが、小屋を突き破って腕を入れてきたから、そこに棒を刺しただけなんだけど……それに、肩の傷は爪で引っかかれたから、かすり傷どころじゃなかったよ」


「俺が見た時、目立った傷は肩のかすり傷くらいしか無かったがなあ……」


「凄い効き目の薬を塗ってくれたんじゃないの?」


「そんな薬がここにあるものか。血まみれのお前がここに運ばれた時に、全身の傷は全て見たからな」


 全身って大袈裟な……ああ、そうか!

 血まみれのだったから重症と思ったってわけか。

 そうなると、肩の傷は結構ヤバそうだったんだけどなあ……どういうことだ?


「それに、イッカクグマにただの棒が刺さるわけ無い。普通は、首とか脇の下とかの柔らかい部分を狙うんだ、剣や槍でな」


 ある程度話さないと納得しそうにないな……困った。


「棒を少し尖らせて、強化して思いっきり刺したら、なんとか刺さったよ?」


「なん……だと?」


 えっ?

 なんかマズかったかな……。


「僕だって必死だった。だから、細かいことまではあまり覚えて……」


「棒を……棒を強化したっていうのか?」


 そこか! 無生物強化ってレアなスキルなのか?


「たぶん、棒を強化できてたと思う。イッカクグマに刺さったし」


「イロハの強化は、身体強化程度のものと思っていたが、そんな事もできるのか……なるほど……いや、ではあれは……そうか……」


 父さんが考え込みながらブツブツ言ってるよ……。


「強化系のスキルって、棒を強化みたいな事はできないの?」


「開拓団の中には身体強化が出来るものもいる。でも、棒を強化するなんてことできる奴はいないな。少なくとも、イッカクグマに刺さるほど棒に強度を持たせることができる者と出会ったことは無いし、知らないな」


「そうなんだ……」


 やってしまった……スキルの情報は意外と公開しているケースが多いと見たほうが良さそうだな。

 王国騎士団の情報量を甘く見ていた。


「前回の野盗騒ぎには、あまり詳しく聞かなかったが、あの縛っていた蔓状の草もそのスキルによるものなのか?」


「そうだね……」


「野盗がなかなか切れなかったと言ったんだ。でも、取り押さえた時は、自然に切れたと報告があって不思議に思っていたが……」


「僕のスキルって、普通じゃないの?」


「他に聞かないスキルだと思うし、使い方を誤れば危険なスキルとも思える。ただ、スキルの情報をたくさん持つ者じゃないと気付けないだろうな」


「例えば、王国騎士団とか……学校の先生とか?」


「そうだ……できれば、情報を持つ者に対しては上手く立ち回って欲しいと思う」


「学校ではごまかすって言っていたよね?」


「こんなことしか言ってやれないが、卒業まではあまり詳細を知られないほうが良い。下手に目を付けられると……いや、なんでもない」


 なに?

 んー、含みを残した言い方をするなぁ……なんだろう。


「まあ、気を付けるようにしとくね。今回は女の子二人を逃がすのに必死だったからさ」


「分かっているさ、イロハはよくやったよ。村にいる間は、俺がなんとかするし、誰もスキルを気にしないと思うから大丈夫だ」


 なんか、よく分からない事で配慮されている気持ちだよ。


「ねえ、父さん。僕のスキル……詳しく言ったほうが良い?」


「正直、知りたいっていう興味はあるが、それは俺が強制してまで聞くことじゃない……い、言いたいのか?」


 うわー、凄く聞きたいんだろうなぁ。

 と言っても、自分でもよく分かっていないしどうすっかなー。


「うーん、言いたいわけじゃないけど、父さんが知っていたら色々と気苦労も減るかと……」


「き、気苦労ってお前なあ……子供が考えることじゃないぞ?」


「何かあるんでしょ? 僕も気になることがあるし……その代わり、父さんもスキルの事教えてくれる?」


「俺の? もう言ったじゃないか」


「もっと。これまでの経験とか、騎士団の頃の話とか」


「む……まあ、いいだろう。そのくらいの事、スキルなんか聞かなくても話してやるさ」


 

 その後、父さんの王国騎士団時代の話や、その時のスキルの情報など、色々とありがたい情報を聞けた。

 

 僕のスキルの話になったので、「自分と物の強化ができて、それ以外は試したことが無い」と話した。

 

 ある程度話そうかとも思ったけど、確証がないことと、父さんもしつこく聞こうとしなかったので、またの機会に詳しく話すことにした。



 ◇◇



 父さんからは、かなり貴重な話が聞けたので、自分の部屋で今日の話を整理しようと思う。


 王国は、スキル専門の研究機関みたいなものがあって、かなりの情報を持っているらしい。

 特に、王立の学校はその情報を共有しているみたいなので、先生達もその情報の一部は持っていると考えたが良さそうだな。

 

 学校へ行くなら警戒度はかなり上げていかなきゃ……。


 以前にも軽く聞いていたが、スキルは大きく分けて二つに分かれている。

 他にないほど希少な『モノスキル』、『ユニークスキル』、『オリジンスキル』と呼ばれるものと、取得しやすく標準的な『レアスキル』、『マルチスキル』と呼ばれるものがあるらしい。

 前者は、稀に様々な形態の強力なスキルへ拡張されることがあり、後者は習得が容易で使い勝手が良く便利なスキルが多いらしい。

 

 この話を聞いて、もしかして俺のスキルって……と思ってしまう。

 父さんも、俺のスキルは前者の方じゃないだろうかと言っていた。

 

 ちなみに、コアの特性が影響しているとも言われているが、確実な話ではないし、特性の情報などの秘匿されたものは教えてもらえなかった。


 強力なスキルを、王国……特に王国の研究機関に知られると、王命で研究機関行きになってしまう事もあるらしいので、何度も気を付けてほしいと言われてしまった。


 研究対象になるのは嫌だなあ。

 どちらかと言えば、自分が研究したい。

 

 俺のスキルに疑問を持つきっかけは、父さんが強力なモノスキルを持っているからだと言っていた。

 ということは、マルチスキルとモノスキルに明確な違いがあるってことだ。

 

 モノスキルとは、どんな感じなのか探りを入れる質問をしてみたが「お前のスキルはまだ一つだろう、親和性を高めたり、複数のスキルを覚えた時には必ず分かる、明らかに他のスキルとは違うからな」だって。

 その一つが、モノスキルじゃないかという話なんだけど……まあ、そのうち分かるか。


 さて、明日はミルメ達もくることだし、日課のコアプレートチェックをして寝るとするか。


 …………光った。

 

 久々にコアプレートが光ったぞ!

 どれどれ……。

 

 コア:強化

 ■■□□□□

 スキル:真強化

 身体強化(真)○

 部位強化(真)○

 無生物強化(真)

 スキル:真活性

 細胞活性(真)


 これは……?


 …………。

 ……………………。


 ……なるほど、思っていた事と少し違ったか。

 これで、色々と辻褄が合ってきたな。

 やはり、俺のスキルってかなり可能性が見込める万能型だと思われる。

 父さんの言っていた『違い』というのもなんとなくだがわかった気がする……確認は必要だけど。


 しかし、真活性か。

 

 特性が強化、それが自身やものを強化する真強化、では真活性はというと……そうだな、活動が止まるとか低下している状態の活動促進強化というところか?


 そこへ来て、細胞活性。

 うーん、たぶんアレかな。

 

 確かに、父さんと俺の見解が違っていたもんな。

 これは、危険なことが多いこの世界で、ずいぶんと助けになるスキルだと思う……予想が当たっていればね。

 


 明日は検証決定!

 いやー、また楽しみが増えたなー!

 自分の成長を目視で確認出来るって凄いことだと思う。

 わかりやすくて好きだな、こういうのって。

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