三十八話 実証

 昨日は、コアプレートが久々に光ってテンション上がったなあ。

 午前中は予定があるので、検証するのは午後になりそうだ……今からワクワクが止まらないよ。

 できれば、法則や条件など……ああ、好奇心が抑えられない。


 

 六月も中旬となり、スレイニアス学園を受験するため、来月には王都へ向かうことになる。

 

 受験の二か月前っていうと、日本で言うなら追い込みの時期だな。

 こちらの世界では、移動日数や宿泊施設などの兼ね合いから思ったよりも早めに行動する必要がある。

 

 今年、王都の学校試験を受けるのは、ゴサイ村で俺とポルタの二名だ。

 王都まで、片道十日~二十日くらいという情報をもとに逆算したら、七月末、最低でも八月初旬には出発しないと九月の試験に間に合わない計算となる。


 こちらの世界は、日本ほど整地されておらず、街から街をつなぐ道を客車で移動するという感じで、舗装された道路というものはない。

 さらに、治安の面や自然災害……など、あらゆる面を想定して早めの行動をとるのが普通だ。

 

 ああ……飛行機無いかな。

 

 

 そういう訳で、今日は『ゴサイポート』に、客車の予約を入れに来た……まあ、父さんが急かしたんで一緒に来ただけなんだけど。

 

 なんでも、客車の予約は早めに入れておかないと、大変なことになるらしい。

 特にこの受験シーズンは、客車が大活躍するので一度予約が埋まってしまうと、しばらくは受付が出来なくなってしまうみたいだ。

 ひと月待ちならいいほうで、半年待ちとか結構あるらしい……需要があるなら、いっぱい準備しておけばいいのに。


 はぁ~、ということで客車選びなんだけど、ゆっくりのんびりなんて考えられん……マックススピードの一択なのでサウロ号だよな。

 客車はクッションが付いてて……寝られるヤツがいいな。


 受付に行っている父さんが帰ってきた。


「イロハ、さっき言っていた中で寝られる客車を予約しておいたから。ゴサイ村から出発、ネイブ領で他団体と合流し、改めて出発という感じだが……まあ、詳しい事が決まったらその時に話すよ」


「うん! ありがとう、父さん」


 予約は無事取れたのでホッと一安心。

 一応、余裕を見ての七月末頃の出発となった。

 ゴサイ発サウロ号は、各町を経由しつつ早くて約半月かけて王都に到着するらしい。


 客車の方はこれで問題ないんだけど、道中の盗賊対策が必要とのことで、領都の商隊に同行するのが一番良いらしい。


 もし、商隊とタイミングが合わない場合は、王都行きの団体を探す事になる。

 最悪、ネイブ領から王都へ受験に行く者が集まっての旅となってしまう。

 いずれも、必ず『冒険者』という護衛を雇うことになる。

 商隊が良いのは、単純に守る額が大きいので護衛のレベルが高く、人員も多いと言われているから。

 

 同行の商隊や護衛については、父さんがネイブ領の伝で何とかするって言っていたので、任せるしかない。

 

 多人数での移動となれば、安全だけど速度にかなり影響するような気がする。

 やっぱり、父さんが言うように一か月前に出発は正解かもしれん。


 必要な手続きは終わったので、ここで解散かな。

 父さんは、そのまま開拓団の仕事に行ったので、俺は家に帰った……検証が待っているんでね。


 

 ◇◇



 自室で、再度コアプレートを確認しておく。

 

 コア:強化

 ■■□□□□

 スキル:真強化

 身体強化(真)○

 部位強化(真)○

 無生物強化(真)

 スキル:真活性

 細胞活性(真)


 ……うん。

 昨日と変わりはない。


 まだお昼までは時間がありそうだし、検証といきたいところだが、この間のこともあって流石に訓練場の使用はしばらく禁止となってしまった。

 まあ、ちょっとした事を試してみようと思うので、アレを持って裏手の五彩樹のところで新しいスキルを試してみよう!


 ……五彩樹。

 相変わらず大きな木だなあ、俺の名前の由来にもなっているし、この村の名前にもなっているシンボルだ。

 ミコタンドウに次いで、俺の第二のルーツ。


 さてと。

 スキル真活性か……それも細胞活性。


 イッカクグマの襲撃の時、俺は確かに肩へ攻撃を受けた。

 それも、不自由な状態とはいえ爪の攻撃を受けたんだ。


 傷を押さえた時は、肩の骨が見えるほどに抉られていて、血もドクドクと流れていたのを覚えている。

 気を失って、起きた時にはそこまで痛くなかったと記憶している。

 

 つまり、寝ている間にある程度治ったということになる。

 最初は、この世界に特効薬みたいなものがあるんだと思っていたが……父さんは違うと言っていた。

 無いではなく、ここには無いって言ってたな……ということは、特効薬みたいなものは実在するんだろう。


 それは置いといて『細胞活性』よ。

 これは恐らく、自然治癒力をいわゆる強化するものだと予想している。

 あの時、自分の傷を早く治さないと……と考えて傷を押さえていたはずだ。

 起きた時には、あんなに深い傷だったものがかすり傷程度になっていた。


 スキルの発動条件が何なのか? 効果はどれほどなのか? が気になるところ。


 …………やるか。


 俺は今、手にアレ……小型の短剣のような物を持っている。

 二度も襲撃を経験したので、父さんが護身用にと持たせてくれたものだ。

 

 さてと、どこを切ってみるか……。

 

 目立つ傷は、もし治らなかった場合バレてしまう恐れがある。

 となれば……まだ擦り傷程度が残っている肩だよなあ。

 

 本当は、小動物とか捕まえて試すか、たまたま怪我した時にやってみようと考えていたんだけど、短期間に二度も襲われたし、せめて王都行までには解決しておきたいと思った。

 それに、自分を任意で治せるかどうかというのを確認したいので、結果、自傷行為がベストとなる。


 ううむ……なんか緊張する。

 短剣を握る手に、変な汗がにじみ出てくるし、体が防衛反応を示しているのか、やる気と行動が伴わない不思議な感覚。

 

 ち、ちょっと素振りをしてみるか。


 袖を肩までまくって……短剣をしっかり持って……肩の先っぽに刃を当てて……か、感情をこめずに…………スッと………………くぅ……怖え~。


 日本の侍、尊敬するわ。

 ハラキリなんてどれだけの勇気がいるんだよ……。


 これは、治るやつ、痛いのは最初だけ、最初だけ……。

 


「……いくぞ、せーのっ!」


 シュッ!


「あ…………」


 俺の肩が、パックリ割れて奇麗なピンク色の……痛い痛い!


 咄嗟に手で押さえて、短剣で切れた皮膚をきゅーっと一旦閉じた……。

 

 サクッと切った時ってなんでつい傷口を閉じる行動をしてしまうんだろうか……。

 そして、現実逃避ぎみにそんなに大きな傷ではない……大丈夫……と思いたい自分がいる。

 再び圧力で閉じている傷を見て、血が止まっているのを確認し一時の安心を得る。

 手を放してみると傷口からじわっと血が……尋常じゃない血があふれ出す……って。


 もう、バカなんじゃないかと。

 

 いくら何でもやりすぎた。

 緊張して、思いっきり短剣を引いてしまった。

 一センチ以上も刃が深く入ったっぽい……ああ、ちょっと表面を切る程度のつもりだったのにぃぃ!


 痛い……なんかすごく痛くなってきた。


 あっ!!

 こんなことやっている場合じゃない!


 よし、よーし……落ち着け……スー、ハー。

 これは、検証……そう検証なのだ。


 気を取り直して、傷口に手を置く……い、いや、ちょっと触れないでかざす感じで試してみようか。

 治すイメージで……さ、細胞活性っ!


「細胞活性! 細胞活性っ!」


 ……相変わらず、血は止まることなく溢れ出る、これヤバいかも。


 やっぱり、手を当ててやってみよう。

 傷口に手を置く……治すイメージを持ち……細胞活性っ!


「細胞活性! 細胞活性! 細胞活性っ!」


 ……。

 

 まさか、発動しないってことは無いよねぇ? あんまり変わらな……っ!?

 傷口が熱い……ん?

 なんかオレンジっぽい色の泡がボコボコしている……血が徐々に止まっていく。

 

 しばらく見ていたら、血は完全に止まった。

 傷口は、未だにボコボコしていて、内部の方が少々熱い気がする。

 よく見ると、皮膚の内側が躍動というか、ピクピクしている。

 

 痛みはまだ続いている……。


 地面と服と手が血だらけになってしまったので、これをどうにかしないと。


 ふと、眠気が襲ってきた。

 ん? そういえばあのイッカクグマ襲撃後も突然疲れが来たような感じで気を失ったような……。

 今回は、あの時ほどの大怪我ではないから気を失うまではないのかな?


 せっかくだから、五彩樹の木陰で少し早めのお昼寝でもするか。

 地面の血痕は砂で見えないようにして……手の血は服で拭いて……服は裏返しにしたら証拠も見えないっと。


 あー疲れたし、痛い。

 う……安心したら眠気が。

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