三十二話 特訓

 突然のミルメのカミングアウトによって、特性を聞いてしまった。

 一旦、クールダウンの意味も含めて、家に帰って昼食をとってきてもらうことに。


 このままじゃ、俺の身体が持たん。

 もう、いっその事、コアプレート持ってきてもらって、確認しながらやるか?

 いやいや、そんなことしたらずっと俺が面倒を見ることになりそうだし……うーむ。


 一応、コアプレートの確認と、内容がどうなっているのかを覚えてきてもらうように言っといたが……あぁ、スキルに対する好奇心が勝ってしまいそうで怖い。

 他の人と比較したり、検証したくなるぅー。

 

 俺は、もぐもぐとお昼ご飯のパンを冷えたスープにつけて食べている。

 母さん、帰ってこなかったなあ~、最近はリアムともほとんど話していないし。


 あと二か月もすれば、俺は王都に行くってのに、家族がバラバラじゃないか。

 でも、開拓団長をやっている父さんを持っていたら、そりゃ仕方がないなとも思ってしまう。


 子供の心と大人の心が交互に押し寄せて……心のバランスがとりづらいな~。

 早くひとり立ちして、自分の当初の目的に向かって進みたいよ、ほんっと。


 

 考え事をしながら、ぼーっとしていたらレジーがやってきた。


「イロハ、レジーのコアプレート、見てきたてのー」


「お、もう戻ってきたのか。早いね」


 幼なじみ五人の中で、一番家が近いのはレジーだ。

 次いで、ロディ、トリファ、ミルメとポルタは結構離れている。


「レジーのスキルに丸が無いと、特訓はできないの?」


「そんなことは無いさ。スキルの親和性を上げる事はどちらにしろ必要だよ」


「しんわせいを上げるのー!」


「コアプレートの情報、しっかり覚えてる?」


「覚えてるの」


「特性の下にある四角のマークはどうなってた?」


「えーっと、六個の四角の左の一個が黒四角になってたの」


「やっぱりそうか……みんな同じなんだね」


「その下のスキル、瞑想の右にはやっぱり丸は無かったの……」


「無かったか~、でもそれは、今から頑張って……ん? 待てよ……」


 あれ? 瞑想は、俺のスキルでいうところの真強化であって、身体強化に当たるスキルは聞いていなかったな。


「どうしたの?」


「レジー、そう言えば瞑想のスキルって何だったの?」


「瞑想は瞑想なの。他には無いの」


「えっと、スキル瞑想の下に、例えば集中力とかそんなのは無い?」


「ないのー」


「……なるほどね」


 俺の想像でレジーのコアプレートは、こんな感じではないかと思っていた。


 コア:清廉な祈りの聖女

 ■□□□□□

 スキル:瞑想

 集中力?


 確かに、想像した通りなら集中力がスキルって言うよな。


 つまり、こういう状態ってことか。


 コア:清廉な祈りの聖女

 ■□□□□□

 スキル:瞑想


 うーん、初期状態……?

 確かにレジーは瞑想を使って集中力を上げているし、その効果は出ている。

 俺の場合、スキル真強化の下に身体強化というものがあるし、その下にも真強化に付随する能力が並んでいる。

 

 レジーの瞑想がまだ未熟だからかな?

 確か、最初からスキルの真強化があって、次に身体強化が出現して、その右に丸印が出た。

 

 これは、ミルメにも聞いてみるか。

 ミルメは、すでに俊足をいつでも出せるくらいは親和性が高まっていると思う。


「わかった。レジーはまず、瞑想の親和性を高める努力をしような」


「がんばるのー!」


 おおー、気合が入っているな。

 そんなやり取りをしていると……。

 


「イーローハー! コンコココンッ」


 変なノックの仕方を覚えてしまったミルメがやってきたようだ。


「入っていいよ、レジーはもう来ているぞ~」


「あたしの家、遠いー」


「まあまあ、落ち着いて」


「なあ、ミルメ。コアプレート見てきたか?」


「うん、見てきたよ! ばっちり覚えてきた」


「そうか、そうか。それで、どうだった?」


「あのねー、印はついてかなったなー」


「うーん、ミルメのスキルって何?」


「え? あたしのスキルは俊足だって言ったじゃん!」


「そうだよな……」


「あたし、ちゃんと覚えてきたよー?」


「コアプレートってどんな風に表示されていたか分かる?」


「最初にコアがあってー、その下に四角があってー、その下にスキルがある」


「そのスキルが俊足となってて、その下は無い?」


「無いねー」


 そうなのか……つまり、こういう感じなのか。


 コア:緑の森の遊撃士

 ■□□□□□

 スキル:俊足


 まだ、親和性が低いってことなのか?

 スキルの成長具合が、俺と少し違うような気がするんだけど……。


「じゃ、ミルメも俊足の親和性を高めていこう!」


「わかったー!」


 色々考えてみたけど、まだ子供だしスキルの成長具合には誤差も……あ、俺の魂的なものが大人だからだったりして。


 

 午後は、三人で訓練場へ行って特訓をすることになった。


「それじゃあ、行こうか」


「「おー!」」


 訓練場についてからは、いつも通りに各々で一連のルーティンを行う。

 

 ミルメは、俊足を使って緩急をつけたダッシュ、レジーは瞑想を使って小石のピラミッド作成、俺は石を強化して木に投げている……コントロールが良くならないかな。

 

 ……まあ、小一時間やると、みんな飽きるんだよな。


「集合~! そろそろ、飽きてきただろ? 剣術の訓練もしよう」


 相変わらずミルメがシュタッと寄ってくる。


「飽きたー!」


「はいはい、次は剣術ね」


 まもなくレジーもやってくる。


「眠いの―」


「それじゃ、ミルメとレジーね、さあ棒を持って」


 カンカンカンっと、子供のチャンバラを見ながら、スキルについて考える。

 

 俺の時は、真強化だから強化するイメージ……各部位ごとにできないかと考えて部位強化……物にも強化できないかと考えて無生物強化…………。

 そうだよな、イメージが大事だとは思う。

 ただ、俺の場合は強化という想像しやすい言葉だったからうまくいったんだ。


 ミルメの場合だと、緑……森……遊撃士、遊撃士か。

 うーん、遊撃って野球ではショートの事だよな、軍では遊撃隊のような神出鬼没の奇襲攻撃を想像するけど、どうだろうか。

 機動力って意味で俊足のスキルということは、攻撃や離脱、隠れる、偵察などから何かスキルになることがあるかもしれん。


 レジーの場合だと、清廉……祈り……聖女。

 祈りが瞑想のスキルとして、聖女ってなんだっけ?

 最後の方の聖女は、職種っことだよな。

 聖女って教会とかに所属している女の人とか?

 心を癒すとか、信心深くなるとか、日本で言う巫女さんみたいなものかな?

 となると、お祓い、破邪、祈祷みたいなことをできるのかもしれん。

 

 とりあえず、この辺の路線で二人に提案してみよう。


「はい、そこまで! ミルメ、次は僕とやろう。レジーは休憩ね」


「よーし! イロハ、今度こそあたしが勝つ」


 やる気満々ですな。

 もう辞めてしまったけど、一応これでも父さんに鍛えられてたからね、そう簡単には負けないよ。


「ミルメ、意表をついた攻撃とか、一回攻撃したらサッと戻るとかを意識してやってみて」


「いひょーってなに?」


「思いがけない攻撃みたいな感じ」


「わかったー!」


 ミルメは、しばらくヒットアンドアウェイの真似事を繰り返していた。

 まあ、分かりやすいが、わざわざ詰めることはしない……と、その時。


「いひょー!」


 バックステップした後、変な掛け声とともに何もないところで大振りしたかと思ったら、その振った棒が飛んできた。


「危なっ!」


 びっくりしたー!

 変な掛け声が無かったら危なかったかも……まさに、いひょー攻撃だ。

 上手く交わして武器が無いミルメにチェックメイト。


「くそー、当たらなかったかー!」


「いやー、危なかったよ。まあ、掛け声かけたらバレるだろう。これ、他の人にやっちゃダメだよ、怪我しちゃうから」


「うん。でも、そっかー、つい声が出ちゃった」


 がっかりした感じで、所定の位置に体育座り、手で投げるふりをしながら頭をひねっている。

 納得がいっていない様子だな。


「いい感じだった。その調子で頑張ろうな」


「うん……」


「次はレジー、準備はいいかな?」


「レジーも、いひょーなの?」


「あ、レジーは……んー、瞑想で集中力を上げて僕に当たれー! と心のなかで強く思うんだ。当てる事を意識して」


「わかったのー、瞑想っ」


 ……瞑想待ち。

 これ、なんにでも使えそうで、使い勝手は悪いな〜。

 しかし、なんか、なんとなーくミルメと同じことしそうな予感がする。


「さあ、かかってこーい!」


「えいっ…………えいっ…………えーいっ!」


 ……俺に当てて、トコトコと戻ってはまたトコトコと。

 レジーは素早さが皆無だな。

 二往復したところで……。


「のひょーっ!」


 のひょ?

 投げた……というか落とした?

 残念ながら、俺のところまでは全く届かなかった……。


「ダメだったの……」


「うん、惜しかったね」


「ミル姉みたいに投げられなかったの」


「あっ! レジー、投げた時に手を怪我しているぞ?」


 ささくれで怪我しちゃったか?


「手が切れちゃったの、痛いの」


 布を持ってきているけど、水が無い。

 そう言えば、ハチェット小屋に水があったはずだ。


「向こうの方にハチェットさんの小屋があるから、そこにみんなで行こう」


 三人で、ハチェット小屋までテクテクと歩いた。


「ミルメ? やけに大人しいけど、どうした?」


「んー、さっき棒を投げた時、当たれーって思ったら、シューってまっすぐ飛んだんだ」


 何を言いたいのかわかんねー。


「それが何かおかいしのか?」


「うん、シューって行ったの、凄くない?」


「ま、まあ、凄いな」


 何が凄いんだろうか……よくわからん。

 話していたら、間もなくハチェット小屋に着いた。

 

 中は誰もいないようで、水が汲んである瓶みたいなものがあったので、傍にあった柄杓で掬ってレジーの傷を流す。


「痛いの……」


「大丈夫か? 痛くても傷はほっとくと悪化するから、きれいに流そうね」


「うん」


 傷を洗い流して、持ってきた布でグルグル巻きにして軽く縛った。

 やれやれ、後でラミィさんに怒られたりしないよなー?


 ふぅ、子供に怪我をさせてしまったよ。

 でも、このくらいの事しか今はできないし、ちょうどキリもいいからこの辺で帰るか?

 

 それにしても、今日は風が強いな……外から木々の擦れる音がする。

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