二十九話 相談

「……イロハ、いるの?」


 ん?

 レジーの声がする、勝手に入ったのかいっ!


「レジーか? いるよ」


 そろーっと、金髪チビッコが俺の部屋に入ってきた。


「レジーね、イロハに相談があるの……」


 うーん、深刻そうだなあ。

 その前にっと。


「わかった。でもなレジー、人の家へ勝手に入ったらダメだぞ?」


「勝手じゃないの、ちゃんといるかどうか聞いたの」


「部屋の前まで来てから声かけたろ? じゃあ、僕の部屋に入る時、コンコンってドア叩いたか?」


「……そーっと入ったの」


「だよね? だめだよ。いるとわかっていても、ドアぐらいコンコンしなさい」


「わかったの」


「それで、相談って?」


 なんか、下向き加減でもじもじしてるな。


「えっと、レジーはね、ミル姉とかイロハみたいに早くなりたいの」


「速く? 足が速くなりたいのか?」


「んーん、強くなりたいの。レジーのスキル、全然強くならないからみんなに置いて行かれるの……」


 ああ、早く、か。

 まあ、瞑想って俺もよく分からんからなあ……。


「弱いわけではないし、置いていくって、そんなことしないよ?」


「トリファも、ロディも、ポルタも、ミル姉も……イロハも、みんな王都に行ってレジーは一人になるの」


 あー、やっぱりロディが帰ってこなかったことに思うところがあったか。

 誰もそのことに触れないからね、俺も触れなかったけど。

 

 トリファからもあれから音沙汰無しだもんな、王都に行ったら都に染まる的な感じで疎外感のようなものがあるって訳か。


 たまにいるもんな「俺も染まっちまったもんな~」感、出す奴。


「そっか。確かに、僕たちの中ではレジーが一番年下だからね。でも、ミルメの次の年には行きたいと思っているんだよね、王都に?」


「そうなの。だからイロハに特訓してもらうの。ミル姉が、すっごく強くなったから」


「なるほどね。わかったよ、レジーはスキルを使いこなしたいわけだろ? でも、人それぞれ特性というものがあるのは分かる?」


「わかるの……」


「だから、レジーにはレジーの強くなる方法というものがあるはずなんだ」


「レジーの特性をイロハに教えれば、強くなれるの?」


「いやいや、僕に……いや、自分の特性を他人に言うなと教育されなかったか?」


「イロハは他人じゃないのっ!」


 な、なんだよ急に大声で、ビックリするじゃないか。

 しかし、珍しいな、レジーがこんなに大声出すなんて。


「ああ、言い方が悪かった、家族くらいにしか言わないようにしなさいって話だよ」


「お母さんにしか言ってないの。でも、イロハは家族のように大事なの」


 あらまあ、ずいぶんと懐いてくれて……俺も妹ができた感じで嬉しいんだけどさ。

 ん? ラミィさんだけ? ああ、お気の毒なウォルターさん。


「うん、ありがとう。ちょと話がズレてきたからさ、落ち着こうか」


「ミル姉も家族なの……」


「わかった、わかった。それでな、確認なんだけど、レジーは王都の学校へは、本当に行く気なのか?」


「うん、行くの」


「どこの学校に行きたいんだ?」


「ミル姉のとこかイロハのとこに行きたいの」


 うわぁ、本人はともかく、両親の説得は難しそうだな。

 まあ、行くかどうかは別として、勉強する分には問題ないでしょ。


「そ、そっか。じゃ、スレイニアス学園だね」


「うん」


「あそこは普通校だから、必ずしも強くなる必要はないぞ? たぶん、自分の得意なこととかをちゃんと見せることができれば大丈夫なはずだ」


 ……っと、本に書いてあった。

 確か、得意分野を伸ばす的な校風で、基礎体力や、潜在能力が高い者を求めているとか。


「そうなの?」


「そうだと思う。そうだな、レジーは訓練をもうちょっと頑張って、スキルが増えたらいいな。そしたら得意なことが多くなるからね」


 瞑想だけじゃ、正直どうやって伸ばせばよいか分からないし……。


「わかったのっ! 訓練とイロハの特訓頑張るの!」


「えっ? 僕の特訓って……」


「イロハ、ありがとうなのー!」


「う、うん。まあ、一緒に頑張ろうな」


 なんだろう、すごく勢いがある金色に、押し切られた感が……。

 一体俺は何をすればいいんだろうか。


「いつから特訓するのー?」


 うーん、どうしたものかと少し考え込んで黙っていると……。


「レジーはね、せいれんないのりのせいじょなの!」


 ん?

 今、なにを……なんかサラッと特性っぽいこと言ったよな?

 せいれんないのりのせいじょ?


 ……うぁ、今、おっしゃいましたよね?


「ちょっと待て! さっき特性は言うなと言ったよね?」


「……だめなの?」


 レジーは、眉をハの字にして今にも泣き出しそうになっている。


「とりあえず、落ち着いて。特性は他人に言ってはだめだ」


「だってイロハは他人じゃ……」


「そうじゃない。えーっと、そうだな、レジーがこれから出会う人で、僕みたいに他人とは思えない人だったとする」


「うん」


「その人が実は悪い人で、レジーの特性を聞いてから、他の人に言いふらしたりしたらどうする?」


「イロハはそんな事しないの」


「僕はね。でもね、レジー。世の中にはいい人に見えて、心のなかでは悪いことを考える人もいるんだ」


「そんな人には言わないの……」


「確かに、レジーはそんな人に言わないと思う。でも、最初から悪い人なんてそんなにいないんだ。知ったから悪いこともできるという選択肢が生まれるんだ」


「難しいの……」


 うーん、子供に何かを教えるって難しいな、一体どう話せば分かってくれるのだろうか?

 こんなに簡単に人を信用したり、重大な秘密を話したりしていたらいつか大事になってしまうかもしれない。

 

 むむむ……よーし、ココはおもいっきり感情をこめて演技してみるか。


「レジーはさ、僕のこと信じてくれているだろ?」

 

「うん!」


「実は……僕ね、欲しいものがあるんだよ」


「そうなの?」


「それで、誰かの特性を教えたら、その欲しい物を買ってくれるっていう人がいるんだ……」


「え……」


「ごめんね、レジー。どうしても買ってもらいたいから……言っちゃおうかなー」


 ああ……心苦しい。

 こんなに純粋な子供に、俺はなんてことを。


「…………わかったの」


「……はぁ?」


「イロハが欲しいなら、レジーの特性教えていいの」


 レジーは、口をむんずとへの字に結んで覚悟を決めたように、教えていいと話す……。

 

 聖人様や、なんて純真無垢な子なんだ……こんな話は、もうやめだ。


「ありがとうな、レジー。でも、僕はそんなことしないから。他人に特性を言ったらいけないよ、と言うことを伝えたかったんだ」

 

「そう……なの? よかったのー! イロハが怒られないですむのー!」


「はい? 僕が怒られるって、どういうこと?」


「お母さんに言わなきゃいけないの、イロハがレジーの特性を他の人に言ったのって」


 あぶぶ……そうだった、レジーのバックには、村で父さんも恐れるラミィさんがいたんだった……。

 しかも、父親は業界でも有名なウォルター商会長だもんな……精神的、社会的に抹殺されかねない。

 

 ハハハ……俺は、レジーの何を心配しているんだよ。


「ゴメンな。言い方が分かりにくくて。今日のことは、例えばの話だから、お家で話しちゃだめだめ、ね」


「だめだめなのー、わかったの」


「それで、今後もし、僕みたいに特性を話してもいいかな? と思えた人がいたらさ、ラミィさんに許可を取ってからにしよう」

 

「お母さんに? わかったの」


 これで良かったんだ、簡単なことだったんだ……子育て経験の無さが、難しく考えてしまうというね、レジーには悪いことしたな。


「僕に言ってしまったことは、ラミィさんにちゃんと言うんだよ。僕が聞いたんじゃなくて、レジーが言いたいから言った、ここが大事だから」


 ここは、ほんっとに大事。

 俺が聞きだした、とかになったらどんなこと言われるか想像もつかない……頼むぞ、レジー。


「わかったの、ちゃんと言うの」


「じゃ、この話はおしまい。レジーの特訓はちゃんと考えるからね」


「頑張るのー!」


 元気いっぱいだな。

 レジーの特性って、せいれんないのりのせいじょ……って言ったよな?

 いのりのせいじょは、祈りの聖女だろう、せいれんな……清廉な、か?

 つまり、『清廉な祈りの聖女』か。

 

 レジーらしいというか、俺の特性とはまたずいぶん違うな、これが普通の特性か。


「一応だけど、コアプレートはいつ確認した?」


「えっと、作った後くらいなの」


 ほぼ一回っきりだな。


「一回しか見ていないのか? こんだけ訓練しているのに、気にならなかったのか?」


「レジーのコアプレートは、お父さんが持ってるの」


「なるほどね。それじゃあ、仕方がないね」


 でたでた、ウォルターさんの過保護っぷりよ。


「では、まず僕から特訓の準備を言うね」


「うんっ!」


 元気でよろしい。

 清廉なとか、祈りのとか、聖女とか、特訓するにも難しすぎるよ。


「レジーは、自分のコアプレートを確認し、表示された内容のスキルの欄を見る事。そして、そのスキルの下に瞑想があると思うので、その右側に丸がついているかを確認する事。できる?」


「できるの、確認するの」


「じゃあ、確認したら次に進もうな」


「わかったのー」


 ひとまず、レジーの件はこれでいいかな。

 しかし、ミルメは遅いな。


「なあ、ミルメ遅くないか?」


「ミル姉は、レジーがお願いしたから遅くなるの」


「えっ? どういうこと?」


「訓練の帰りに、イロハに相談するからってお願いしたの」


「そうだったのか。じゃ、ミルメは知っているのか?」


「最初はミル姉に相談したけど、イロハに相談した方がいいよって教えてくれたの」


 ははーん、これはミルメが言ったせいでこうなったんか。

 なるほどね。


「じゃあ、ミルメが来るまで勉強でもしようかね」


「わかったのー! 瞑想っ!」


 以前、集中力の話をしたからか、勉強前に瞑想するっていう……素直な子だ。

 レジーの瞑想って、二、三分くらいかな? しばらく目を閉じているだけなんだよな、使い方があっているのかも分からない。


 できれば、何かもう一つでもスキルがあれば、特訓の方法も考えられると思うけど。

 

 清廉か。

 言葉が難しいな、清廉潔白くらいしか人生で使うことが無かった言葉だ。

 心がキレイみたいな言葉だったような……祈りの要素が瞑想というスキルを生んだと仮定してと。

 

 聖女……これが職を表す感じかな、属性はなんだろうか、清廉属性? 祈り属性? しっくりこないなあ。

 


 さて、瞑想はもう少しかかるかな?

 この待っている時間ってのも考えてほしいものです……何か飲み物でも取ってくるか。

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