幕間七話 ミルメ:ネイブの旅
◇これは、イロハが野盗と遭遇していた時の裏話
(ミルメ視点)
「おはよー! レジー」
「おはようなの、ミル姉」
やっと、この日が来たー!
コアプレートを作るぞー!
今日という日を心待ちにしてたんだよねー。
勉強は、イロハに教えてもらってるから、多分大丈夫だと思う。
でも、スキルは選べないし、良いスキルに恵まれないと……王都の学校に行けないかも。
やっと、それが今日分かるんだって思ったら、ドキドキしてあんまり眠れなかった。
レジーは、一緒にいても、いつも何考えてるか分かんないから、実際どうなんだろう? 王都の学校目指すのかなー?
出発前にイロハの所へ寄ったけど、汗だらだらで……またぼーっとしてた!
イロハは行かないらしい……残念。
ウォルターさんってレジーにイロハを……というか男の子を近づけたくない、そんな感じする。
ニコニコしながらイロハと話し込んでいたけど、なんか目が笑っていなーい! よくそんな大人とふつーに話せるなあ、イロハは。
話が終わるとすぐに出発となった。
寝不足もあって、二人ともすぐ寝ちゃった。
途中、ネイブ領に入ったところの町で一泊して、翌日は朝から出発した。
◇◇
「…………ちゃん」
「……メちゃん、ミルメちゃん」
うーん…………。
「ミルメちゃん、そろそろ到着するよ」
えっ! もう着いたの!
朝が早かったんで、宿を出てすぐに眠ってしまった。
「ウォルターさん、すみません……眠ってしまって」
「いいよ、ミルメちゃん。客車の中は退屈だしね。それに、ほら、レジーも」
「ほんとだ、レジー……起きてー!」
声をかけて揺するけど、全然起きないや。
「さっきからレジーも起こしているんだけどね、なかなか起きてくれなくて」
「レジー! レジー! もうすぐ着くよー」
レジーは目をこすり、欠伸をしながらやっと起きた。
「……」
寝ぼけてるみたい……凄い寝ぐせのレジー。
「ほら、ちゃんと起きなさい、レジー」
「ふぁむ……ミルねぇ、おふぁよ」
最近、レジーがあたしの事「ミル姉」って呼ぶようになった……あたしがトリファ姉って呼んでたのを真似てるんだよね。
まあ、あたしがお姉さんになったってことかなー?
「おはよー! レジー。ほら、もう着いたよ。髪が寝ぐせだらけじゃない、整えてあげる、こっちにおいで」
レジーがあたしの膝の上に座る。
寝癖を直してあげなきゃね、お姉さんだし。
妹がいたらこんな気分なのかなー?
レジーの髪の毛ってきれいな金色だなー、あたしは赤茶色で髪も短いから男の子とよく間違えられるんだよね、失礼しちゃうわ。
客車を降りてからは、ネイブ領主館の領民登録所という所を目指して、レジーと話しながら歩いた。
「見えてきたよ。あそこが領主館で、中に登録所があるからそこで二人のコアプレートを作るからね」
ウォルターさんが指さした方をみたら、おっきな建物があった。
「あー! やっと着いたー」
「着いたのー」
ウォルターさんが先に歩き、あたしは、レジーと手をつないで領主館に入っていった。
ウォルターさんは、領主館に入ってすぐに登録所の受付へ手続きに行ってしまった。
「そのまま受付をするみたいだね」
「まだ眠いのー」
レジーは眠そうだなー、二人で椅子に座ってお話でもしてようかな。
「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ウォルター商会のウォルターです。今日は、娘と友人の二名分のコアプレートをお願いします」
「はい、畏まりました。こちらに記入していただき、順番をお待ちください」
「二名分まとめての作成でお願いします」
「はい。お支払いは、受け取りの時にお願いします。順番が来たらお呼びします」
何人か同い年っぽい子供がいるみたいなので、あたしとレジーは、順番待ちみたい。
「レジー、順番待ちだって」
「そうなの? レジーは、早くスキル見たいの」
「あたしも、楽しみー! すっごいスキルが来ると思うんだー」
「レジーはね、ミル姉よりもすっごいスキルもらうのー」
「あたし、負けないからっ!」
「レジーも負けないのー!」
二人で右手のこぶしを突き上げて、ワイワイやっていたら、いつの間にか注目を浴びていたみたい。
「ねえ、そこの女二人。コアプレートを作りに来たのか?」
いきなり、順番待ちのぽっちゃりした男の子が話しかけてきた。
ちょうど、ロペさんを子供にしたような感じの、意地悪そうな短い髪の子だ。
「……うん、あたしたち二人で作りに来たんだ」
レジーは、ビックリしてあたしの後ろへ下がってる。
ウォルターさん! あれ? こんな時どこにいったのー?
奥の別の窓口で大人の人たちと話し込んでる……ウォルターさ~ん。
「ふん、そうか。どっから来た? おまえたち」
なに? この子感じわるー。
「……ゴサイ村」
「はあ? どこの田舎村だよ。あ、あれか、あの森の中に村を作ってるっていう……」
「バカにするなー! そっちだって変な顔してるじゃんか」
むかつくから、言い返してやったー! フッフッフ~。
「な……なんだよ、変な顔って。おまえ、ムカつくなあ」
「あんたもねー。イロハがねー、初対面で「おまえ」ってゆーやつはダメな奴って言ってたもん」
「レジーも聞いたの、「おまえ」って言ったらシツレーなのー」
「なんだ、この男女と金ガキは。ムカつくなー! イロハって誰だよっ」
「なんだとー! そっちこそおデブのくせして、口も悪いイイとこ無し男ー!」
「レジーはガキじゃないのー! イロハはお勉強の先生なの、シツレーなのとはもう話さないの……」
あたしたちに悪口で敵うわけないじゃん、普段からアイツに鍛えられてるからね。
「ぐぬぬ……うるせーバカ!」
あははー! 顔真っ赤にして怒ってる、ぷぷぷ。
「あ、バカっていったー! 先に言った方がバカだよー」
これも受け売り、これ言われたらムカつくんだよねー。
「……ふん。田舎者と話している時間はないんだよ、あー田舎臭い」
「あたしも、あんたなんかに興味ないから。早く向こうに行ってよ、おデブ男」
「せっかくかまってやろうと思ったのに、もういい。せいぜい変なスキルでももらって苦労しなっ!」
「うるさいなあ、関係ない人は話しかけないでー!」
「もう知らんっ!」
あーっははは~。
男の子は、顔を真っ赤にして去っていった。
「レジー? あたしが追っ払ったからもう大丈夫だよー」
「……怖かったの。早く村に帰りたいの」
「そだねー。コアプレートを作ったらすぐに帰ろうね」
「うん」
まもなくウォルターさんが戻ってきて、さっきの件をレジーがすかさず話していた。
とりあえず、さっきの子をじっと見つめている……ウォルターさん、すごく怒ってる気がする。
そろそろあたしたちの番だ。
あたしがお姉ちゃんなんで先に行こうかな。
「じゃ、あたしが先に行ってくるね」
「レジー、待ってるの」
◇◇
二人ともコアプレートの作成が終わって、昨日話していた肉串屋に来ている。
コアプレートは、出来上がりまでしばらくかかるから、食事をしてから取りに行くことになった。
あたしは、辛肉串、レジーは普通の肉串を二本ずつ買ってもらった。
「おいしねー」
「うん、レジーは子供だから辛いの嫌いなの」
あたしも子供なんだけど。
ウォルターさん、今度は肉串屋の人と話し込んでいる……商人ってどこにでも知り合いがいるんだなー。
トリファ姉もあんな感じになるのかな?
あたしには出来っこないやー。
肉串食べたら眠くなってきた。
レジーも、ぼーっとしながら眠そうにしている。
二人でウトウトしていると……さっきの男の子がやってきた。
「おい、おまえたちはもうコアプレート作ったのか?」
「……」
「おいっ! 聞いているのか? おいって」
「うるさいなあ。もうあたしたちに話しかけないで」
「なんだよ、せっかく仲直りしてやろうと声をかけてやったのに、これだから田舎者は」
「仲直りなんていらないよー! おまえとかおいとか言う人は、どっか行ってしまえー!」
「ぼ、僕はなぁ……」
「はいはい、もうあっちに行って。大人を呼ぶよー?」
「わ、わかったよ。ったく、なんなんだよ……」
口の悪い男の子は、ぶつぶつ言いながら帰っていった。
あー、村を出たらあんな子ばっかりだと嫌だなー。
もしかしたら、学校もあんな子がいっぱいいるかもしれないなー。
もっと強くならなきゃ。
イロハやロディみたいな男の子だといいけど……あんまりいないのかも。
あ、ウォルターさんが手招きして呼んでる。
「レジー、そろそろ行くよー」
「レジー、眠くなったの」
「うん、コアプレートをもらったら、帰りの客車で寝ようね」
レジーの手を引いて、ウォルターさんの所へ向かう。
その後、コアプレートを受け取って、登録所の人からプレートの使い方を聞いて、二人とも特性を知り、スキルを得る事ができた。
帰りの客車では、二人とも行きと同じくぐっすりと眠って、起きた時には途中の宿に到着していた。
その日は、何事もなく翌日の早朝からゴサイ村へ向けて出発した。
まっすぐ家に帰り、父ちゃんと母ちゃんに領都でのことをいっぱい話した。
これで、あたしもスキル持ちだー!
特性ってこんなふうになっているのかと思った、あたしらしくていいなー、気に入った!
なんてったって、あたしの特性は――――
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