幕間六話 レクス:ジェスチャーゲーム
◇これは、イロハと野盗が遭遇した時の裏話
<ソラ歴一〇〇八年 八の月>
(レクス視点)
ああー、今日も暑いな~。
早く仕事終わって、新しくできた酒場に行きて―!
こんな時は、気分が乗らねえから、隠れ家にでも行ってサボるか。
うー、小便したくなっちまったよ。
この木陰はいい感じに隠れられて小便にはもってこいだ……。
ジョロジョロジョー
「ふぃ~ぃ」
誰も見ていないよなー? 今度サボっているのがバレたら……まあ、いつもの事か、ハハハ。
「父さんはっっ! ……開拓団の団長…………ますっっ!!」
ん! なんだ?
遠くからイロハの声が……あっちか。
「あ、振り向いたから手に付いちまったよ……くそぉ」
何やってんだ? アイツは。
暇だし、行ってみるか。
ん? なんか合図をしているぞ……こっちに来るな、かな?
なんだよ、ハチェットの親父でもいるのか? 危ない危ない。
今度は、口元にバツ? よくわからんが、うん、うん、と頷いとくか。
四本指立てて……向こうに、うーん……向こうに四人いるってことか。
なんだ? 遊んでほしいんかな、ガキだなイロハは。
暇だし付き合ってやるか、頭の上で大きく丸を作って合図する。
なになに、前かがみで手をふわふわさせて……ん-、泳いでる、いや、浮いてる……かな?
ふむ、そういえばあの辺に川があったな。
あっ! わかったぞ!
そういうことか、なら口元にバツは静かにって意味か、なるほど、なるほど。
イロハも隅におけねーな、色ガキめ。
俺一人で行ってもいいが、独り占めは悪ぃよな。
そういや、ロペが近くで作業してたっけ、せっかくイロハが情報くれたんで、誘ってやるか。
さて、イロハに急いで行くからちょっと待っとけって伝えるか。
大声はまずいしな。
ええっと、手を腰においてズボンを脱ぐ動作を……女の役なんで少しクネクネしとくか。
鼻血が出るほどいやらしい……の意味で鼻つまんでっと、でも声を上げたらバレるんで口も覆う、と。
裸で川遊びをしている女たちが四人いるから、覗きましょ、ってことで手で覗きポーズ!
どうだ? 伝わったか?
おおー! 丸が来た! これ、ちょっと楽しいじゃねーか。
えっ? 槍…………まさか、団長?
ん? どういうことだ、団長と女四人が裸で川遊び……それをイロハが覗いている……ってどんな状況だっ!
どこかが間違っている……あーきて……こーくる……あれがあれで……………………ピーン!
きたきた、分かったぞ!
つまりはこういうことだ。
女四人が裸で川遊び、棒つつき鬼ごっこをやってて、今まさに棒でつつきあっている状況……ヤベー、ヤベー、早くいかなきゃ!
棒つつき鬼ごっこって初めて聞くけど、女が裸でやるところ…………想像しただけで……ヤベー、ヤベー!
イロハよ、おまえの男気は、たしかに受け取った!
さあ見るがいい、俺の手信号を。
鬼ごっこの鬼の角をツーン、棒つつきでツンツンツーン……どうだイロハ、俺の渾身のツンツンツーンは。
だよな、兄弟。
当然、丸が来るわな。
こんなヤベー状況、一人ではもったいない、ロペも呼んでさっさとお楽しみに行きますか……クフフフ。
俺は得意の『隠密走法』を使って素早く立ち去り、ロペが作業しているところまで最速で到着した。
「おーい、ロペー!」
「どうしたー? レクス、サボりの誘いか?」
「そうじゃ……いや、そうだけど、そうじゃない! 楽園だ、秘密の花園だ、ツンツンツーンだ!」
「おいおい、お前、暑くて頭沸いたんじゃねーか? 大丈夫か?」
「ロペよ、ツンツンツーンが俺たちを呼んでいる……急がねば」
「まさか! お前がそんなに真剣に言うってことは……女かっ!」
「おうよ、兄弟。裸だ、裸。行くぞ!」
「んなっ! わかった、作業なんていつでもできる。俺も行く、ツンツンツーンへっ!」
俺たちは再び、得意の『隠密走法』を、ロペは得意の『地走り』を使って最短でイロハのいる手前まで舞い戻ってきた。
ここからは慎重に行かないとバレるため、はやる気持ちを抑えながら、そろりそろりと二人で前かがみになりながらイロハの元へとたどり着いた。
ま、まぁ、いくつかの行き違い……や、解釈の違い……はあったものの、事態はおおむね把握できた。
まさか、野盗の襲撃にあっていたとはな……もう、何が何だか心が落ち着かねーよ。
しかし、イロハは冷静に対処したんだな、コイツは意外とすごい奴なのかもしれん。
カルネさんはハチェットの親父に任せて、イロハを事務所へ送ろうとしたら…………なにぃ! 残党がいるって?
ということで、後始末と残党狩りをするため、再び現場へ戻ってきた……ああ、本当ならツンツンツーンだったのに。
野盗見つけたらぶっ殺す!
早速、得意の隠密走法を使って……そーっと、現場に近づいて見てみると……声が聞こえる。
野盗の残党みたいなので、会話を聞いとくか。
「親分、早く切ってくださいよー、アイツらが戻ってきたら人数連れてくるはずっす!」
「落ち着けって。なんだこれ、くっ、全然切れねえ。どうなってんだ?」
「あの石投げ坊主が、縛って細工してたんっす!」
「おい、おまえらも、起きねぇか! おい、おいっ!」
何やら、野盗の親分が子分を助けに来た? みたいな現場に遭遇しているんだが……なんだあれは?
人間がニ人、長い棒に絡まっている? なんで逃げなかったんだろう?
野盗の親分と思わしき人物は、必死に外そうとしているけど……一人は見張っているのか? なかなか外れないみたいだ、不器用だなコイツ。
子分二人はぐったりしているようだけど、これは誰がやったんだ?
まっいいか、さっさと捕らえよう。
「おまえら、動くなっ! 俺は開拓団のレクス、もう逃げられんぞ!」
「なんだ? たくさん連れてくると思ったら一人かよ、わざわざやられに来るなんてなー!」
「わかった、わかった。それで? 大人しく捕まるのか、一戦交えるのか、どっちなんだい?」
「舐めるのも大概にしとけやー! こっちは二人だ! おりゃー!」
「はいはい、大振りすぎるぞ、おっさん。ホイホイっと」
隠密走法を使ってこん棒? を振り下ろされる前に、大男の横をすり抜け両足の腱を切る。
ついでに、横にいた子分は殴って剣を向けておく。
親分は歩けないだろうし、子分は戦意喪失っと、なかなか楽な仕事だな。
「ぐおぉぉー、いてー! 助けてくれ、な、な」
「た、た、助けてくださいー!」
何という醜い生き物だ。
こいつが持ってたこん棒を持って、おのれ、ツンツンツーンの恨みっ!
「ツン、ツン、ツーン!」
「や、やめてー!」
「ドン、ドン、ドーン!」
「ぐえぇ、痛い、痛い、勘弁してくださいぃぃ」
あ、警戒部のモーリーさんが来た、これからだというのに……しょうがない、引き渡すしかないか。
「モーリーさん、警戒部が撤収ですか?」
「お、レクス、ご苦労さん。これが野盗? 全部で四人?」
「はい、多分全部だと思います。そこにうずくまっているのが野盗の親分のようです」
「しかし……やりすぎじゃないのか、これ。まともな状態のやつが一人しかいないぞ?」
「いや、自分が到着したときは、すでにこの状態で、親分と子分一人しかいませんでしたよ?」
「本当か? まあ、わかった。あとは警戒部が引き継ぐ。念のためにこの辺りも確認してから戻るので、少し時間がかかることを団長に伝えておいてくれ」
「はい、では戻ります」
俺は、さっさと帰りだした。
俺じゃないのに、過剰防衛だー! なんて言われたらかなわんからな。
今日の野盗は、大した事なかったな~、もうちょっといじめてやればよかったか。
んー、しかし……あの状況はどういう事なんだろうか?
俺はてっきりカルネさんが戦闘して負傷しつつも、退けることに成功したとばっかり思っていた。
ところがあの状況は、三人が変態拘束状態? 親分と子分はなんか弱っている? よくわからん状況だな。
ま、楽でいいけど。
開拓団事務所に到着っと。
「あ、ステラさん、相変わらずおキレイですね~、団長がうらやましい」
「なーに? お世辞でもうれしいわ、レクス君。そういえば野盗が出たんだってね、その帰り?」
「はい、野盗なんてちゃっちゃと倒して捕えておきました。その後モーリーさんが来たので、引き渡して報告のために戻ってきました」
「さすがだね、レクス君。さっきイロハも帰ってきたんで教えてやらなきゃ」
「あはは~、そんなことないですよ。そういえば、野盗が何故か変態こ……」
「おい、レクス! 良い度胸をしているな、俺の妻に何の話があるんだ? ん?」
げ、団長……団長の鬼モードだ。
「……いえ、その、報告に戻りました。残党もモーリーさんに引き渡してきました」
「おう、では、あっちでじっくり聞こうか、なんでお前があんな所にロペといたのか……とかな?」
ああ……バレてるー、終わった。
「ルーセント、お手柔らかにね。レクス君は、野盗の親分を捕えたんだから」
は~ステラさん、女神っ! もっと言ってあげて、俺の事。
「あー、んなの当たり前だろ。うちの開拓団には、その辺の野盗風情に負けるような雑魚はおらんよ」
くそっ! 団長の鬼ぃぃー!
その後の俺は、鬼団長のツンツンツーンを食らって、鼻血を出す破目に。
……いや待てよ。
よく考えたら、裸で棒つつき鬼ごっこってなんだよっ!
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