二十七話 顛末
開拓団の事務所についた。
事件のことは伝わっているのだろう、大変慌ただしく団員の人たちが集まってきている。
なんと説明するか……。
「あっ! と、父さん」
「イロハっ! 大丈夫なのか?」
父さんが駆け寄ってきた。
「僕は大丈夫。レクスさんが現場に行ったんで一人で帰ってきた。ねえ、カルネさんは……大丈夫だった?」
「ああ、よかった。カルネは心配ない。頭を打たれたことによる気絶だな。もう、起きているぞ」
よかった。
身近な人が傷つくことなんて、こっちの世界では初めてじゃないかな?
とにかく、ホッとしたよ。
「じゃあ、挨拶に……」
「ちょっと待て、イロハ」
ぐ……やっぱ逃げ切れないか。
「はい……」
「お前は、この事件にかかわっているだろうが。詳しい説明を聞きたい。何があったか簡単に説明するんだ、いいな?」
「はい……」
簡単に、か。
「えっと、僕はいつものように訓練場に行って、団員の人を探して、カルネさんを見つけたけど声をかけても返事が無くて、野盗がいて、捕まって、カルネさんが殴られて、僕が大声出して…………親分と子分が逃げた」
「……なんだそりゃ?」
「簡単に言うとこんな感じ、です」
「カルネを傷つけたんだろ? 子供に大声出されたくらいで、なんで逃げるんだ? 明らかにおかしいな……イロハ、お前なんか隠していないか?」
ダメか、無理があるよな。
どうせ後でバレるだろうし、ある程度正直に言うしか無さそうだ。
「野盗四人に囲まれた時、スキルを使って石を思いっきり投げたら……当たった子分が気絶して、残りはビックリして逃げてった」
「なんだって? スキルって……たしか強化だったよな? それで気絶したのか?」
「うん、思いっきり投げて顔に当てちゃった…………二人に」
「…………二人も。なんてこった。強化ってそんなに強力なスキルなのか?」
うーん、これはあんまり詳しく聞かれたくないなぁ。
よし、泣きそうな演出でもして引いてもらうか。
「僕も……よくわからない、怖かったので無我夢中で何とかしなきゃって……だって、カルネさんが……死んじゃうって思ったもん…………」
うぅー、シクシク……。
「そ、そうだな。確かに危ない状態ではあったな。すまん、イロハ。別に攻めているわけじゃなくて、ほら、スキルって使い方次第では危険というか……えー、まあ、注意して使いなさいってことだ。とにかくよくやってくれた。ただし、今後はこんな危険なことに首を突っ込まず、とにかく逃げるか助けを求めるかしなさい、わかったな?」
チョロいぜ、父さん。
「はいっ! 気を付けます」
でもね、俺だってそうしようとしたんだって……ただ、不運が重なった事による幸運?
逃げるときはドジを踏み、頼った相手は残念三人衆の一人だったんでどうにもならなかったんです……と、心の中で反論する。
「ん? その目は、どうしたんだ……?」
「あ、いや、あの、子分野盗は二人とも縛って置いてきたんで、いいのかなーって」
「あー、レクスが行ったんだろ? 大丈夫だ」
「そうなの? 逃げた親分が助けに帰ってくるかもしれないし、他の仲間も来るかもしれないし」
「警戒部のモーリーたちもすでに行っているんで大丈夫だ、あとは団員に任せなさい」
「はーい!」
「お前は家に帰って、今日は大人しくしてろ。王都の学校を目指すんだろ? 勉強もしとかないと合格できないぞ」
「うん、じゃ、帰るね。カルネさんに、守ってくれてありがとうって伝えといて。僕の事逃がそうとして殴られて……」
「分かった、分かった。伝えとくさ。ただな、子供はそんなことを気にする必要はないぞ。大人が守るのは当たり前のことだ」
「ありがとう……父さん」
父さんも現場に行くのかな? 足早に去っていった。
なんか、自分が大人なのか子供なのかよくわからなくなってくるよ……気持ち的には、周りはほとんど子供というか若く見えて、俺が守るっ! っていう使命感がありつつ、守られる子供って……ねぇ。
さて、帰りますか。
◇◇
家に着いたはいいが、誰もいないじゃん。
母さんもリアムもいないし、どこ行ったんだろう?
まあ、自室で今日の反省会でもするか、一人で。
自分のスキルについて、かなりの疑問が出てきた。
実際、今までの訓練というのは、イメージや検証の部分が大半を占めていて、実践みたいなことは危なくてやっていない。
気になることもあったけど、怪我したり、物を壊したりした場合、訓練場の立ち入りが禁止される可能性を考えて躊躇していた。
まあ、ミルメやレジーがいつもいたからっていうのもあるけど、やはり心が日本人なのか野蛮なことを考えたくない……そんな気持ちがある。
でも、今回の件でハッキリと分かった。
この世界の命は恐ろしく軽い……事故とか病気とかに加え、人や獣から殺されるということが日常でも起こるようだ。
カルネさんと俺は、たまたま助かったが、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。
相手は殺すことに躊躇が無い、簡単に人の頭へ向けてこん棒をフルスイングする連中だった。
日本のように、法律が、警察が、モラルがなどというものを信じても死んでしまっては意味がない。
もう、平和ボケは卒業しないと。
これからは、この世界の生き方をし、危機に瀕したら躊躇せず……命を奪うことも覚悟しなければならない。
もちろん、殺さなくて済むならそれでいい。
でも選択肢としては持っておかないと、自分も、大切な人も、仲間も守れない。
本当に誰も死ななくて良かった。
取り返しのつかない事になる前に、大事なことを学べて本当に良かった。
…………よし、反省終わり。
グゥゥゥ
あー、お腹空いた。
母さんがいないので昼飯は無さそうだな……早く帰ってこないかな?
どうせやることもないので、スキルの反復でもしながら待つとするか。
スキルの強化についての疑問だったな。
俺の想像では、自身に対しての『身体強化』は、全体の能力を満遍なく上げてくれる比較的曖昧なもので、意識せずともある程度能力が発揮される。
それに対して『部位強化』は、どこをどのようにと限定してしまうので、意識的な精密さが必要になるが、大変さに比例して身体強化の数倍の効果が期待できる。
ここまでは、検証でも分かっていたのであまり疑問はない。
問題は『物体強化』だ。
これは、検証もあまりしておらず、単純に強度が増すと考えている。
推測に過ぎないが、恐らく物体の強化は、身体強化に似ているのではないだろうか?
真強化の能力には、身体強化みたいな全自動系、つまりオートマチック系があり、対して部位強化のような精密な操作があるマニュアル系に分けられるのではないだろうか。
物体の強化に関して言えば、オートマチック系で、その物体が持つ硬さを底上げする感じじゃないかな?
そうでなければ、あの木の幹にめり込むほどの威力の説明がつかない。
人を貫通しなくてよかったよ……ほんと。
まとめると、オートマ系は、細かい操作ができない代わりに、容易にざっくりと全体ブーストをかけることができるが、効果は大きくない。
マニュアル系は、細かく操作ができて複雑で意識的な働きかけが大きく影響をするが、うまく扱えれば強力な効果を生むことができる。
俺はてっきり部位強化というのは、身体強化の拡張版だとばかり思っていたが、想像を超えていたなあ。
あ、そうだ! そういえばしばらく見ていなかったんだった、コアプレート。
通常はあまり必要ないんだよね……スキルが出ないと表示はない、表示が無いとスキルも出ない……確認の意味にしかならないので持ち歩かないんだよな。
まあ、大事に俺のお宝ボックスに隠してあるんだけど。
ゴソゴソ……あった。
久々だな。
部位強化を見た時以来だな~、物体強化って出ているんだろうか、楽しみだ。
早速見てみよう。
お、光った!
コアプレートの内容に変化があると、ちょいと光るんだよね。
だから光らなかったら、内容も更新されていないってことが分かる。
コア:強化
■□□□□□
スキル:真強化
身体強化(真)○
部位強化(真)○
無生物強化(真)
おお! なるほどね、『無生物強化』となるのか。
確かに、物体だと色々と不都合があるな。
しかし、気になるな……あのコアの下にある四角の記号。
たぶん、熟練度……ああ親和性って言ったっけ? それかなと思ったんだけど黒塗りの四角が増えないなあ。
それに、身体強化とかの右にある丸の記号もよくわからん。
たぶん、覚えたての頃は何もない、しばらく経ってから丸が付くんだよな……なんだろう? モノにした的な? 安定して使えるようになったよ! とかの意味があるのかな。
あとは、(真)だね。
まあ、これは『真強化』の真だと思うんだけど、ついている意味あるのかな?
他のスキルを覚えた時に、ごちゃつかないよう真強化のスキルですよー、と区別するためとか?
実は、一番気になることがある。
若年教育の時に父さんが言っていた、「スキルは一人につき最大六つまで」という縛りがあったと思うんだけど、今って何個なんだろうかと。
身体強化と部位強化と無生物強化は真強化の一部としてカウントするので、いまの所スキルは一つと考える説。
真強化、身体強化、部位強化、無生物強化でスキルは四つとカウントする説。
身体強化、部位強化、無生物強化でスキルは三つ、今後、真強化に関連するスキルを覚えていくという説。
正直、まだ一つ目だと思いたい。
だって、もう強化ってレパートリーが限界やろ。
俺だって、炎の剣とか、雷の剣とか欲しいよ……。
さて、いろいろ言っとりますけれども、結構『強化』を気に入っているんだよね。
何しろ単純で、根本的な強さというものがある。
他の人のスキルを知らないから何とでも言えるんだけど。
……カタッ。
あ! 玄関のドアの音がしたぞ! 母さんが返ってきたようだ。
お腹空いた~! 飯、飯、飯~。
どうやら、母さんは開拓団の事務のお手伝いに行っていたみたい、リアムと一緒に。
まあ、白昼堂々と野盗が出たんだ、団員も手薄になったんだろうな。
午後は、お勉強をちょいちょいとやって、うたた寝しつつダラダラしつつ。
母さんから聞いたんだけど、あの後すぐに野盗の残党はレクスさんや警戒部の人たちが捕えてきたって言ってた。
開拓団強えー!
落ち着いているかなと思って、夕方くらいにカルネさんを見舞った。
「僕を守ってくれてありがとう」って伝えたんだけど、「大人が子供を守るのは当然でしょ、最後まで守れなくてごめんね」って返されたよ。
こんなに傷ついてボロボロになりながらも、最後まで守ろうとしてくれるなんて……「ごめんね」の一言で、俺は迂闊にも涙ポロしてもーた。
体は子供とはいえ、いい歳の大人まで経験している自分にとって、尊敬できる一言といえるよ。
俺も、大切な人たちを守れるだけの力をつけて、立派な大人に成長したいと心に刻む。
今日は、色々な出来事があって疲れたけど、学びも多かったなあ。
一歩間違えば死ぬところだったと思う、本当に幸運だった。
今度は、攻撃の検証をしようかなと思いながら『イロハノート』にメモメモして……寝る。
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