二十六話 野盗-スレチガイ-
野盗四人組は、集まって話し合っている。
俺の父さんが開拓団長だと言うことで、色々と策を練っていることだろう。
今の位置関係は、微妙なトライアングルとなっている。
子分の二人に親分が寄って行ったので三人の集まりが一つ、子分の一人がカルネさんと一緒で一つ。
僕の位置から親分が離れて行ったので、子供と油断しているのか僕一人だけが手前で一つ。
ある程度距離はあるから、ここで俺だけ逃げる選択肢もあるが……カルネさんを置いては行けない。
せっかくなので、この貴重な時間にこちらの準備も整えよう。
とにかく、カルネさんの状態が心配だし、ここで戦闘でも始まったら非常にマズイ。
願わくは、レクスさんが上手いこと父さんを連れてきますように。
ジェスチャーでやり取りしたから、伝わったはず……うん、大丈夫なはずだ。
よし、今のうちに。
「スーッ、ハァー」
まず、身体強化を自身に巡らせる……たぶん、三十分くらいは持つだろう。
今では、身体能力が三倍くらい強化されるのでは?
次に、着ている服を強化。
これは、ほんの数分かもしれんが服自体の強度が増しそうなので防御面と言うことで念のため。
刃物で攻撃されたらすぐに死ぬことになってしまうからね。
靴にも強化。
身体能力が上がってから走ったら耐久が心配だしね。
実際強化されているのかは、実感がわかないが……。
拾ったこぶし大の石ころ三個を強化。
これは、ファーストアタック時に身体強化した腕力で思いっきり投げるつもり。
当たった人がどうなるかは……わからん。
そこらへんに落ちていた軽そうな木の棒を強化。
とにかく防御できればいいので、ドラムスティックくらいの長さの物にした。
後は、頭も守りたいところだけど、そんなものは落ちていないのであきらめる。
スキルが発動した独特の手ごたえは感じたが、物の強化は実際にどこまでの効果があるのかは分からない。
たぶん、身体強化の初期みたいに数分間強度を上げる感じと予想している。
気休め程度と思っておこう。
……一度、反復しよう。
カルネさん方向の子分に石を思いっきり投げる、相手がひるむ、次に親分側の子分に一個投げる、二人目もひるむ、たぶんここで三人目の子分が反撃に来る。
今度は強化した速度で逆に相手に突っ込んで行き、カルネさんの元へ。
相手はビックリしつつも攻撃するだろうから、頭に攻撃を受けないように、木の棒を掲げながら身体強化ダッシュする。
打撃や剣撃も露出部分さえ避ければ、なんとかなると思う、ここでカルネさんの所へ到着。
一人かわしたら、振り返りその勢いのまま三個目の石を投げる、三人目もひるむ。
そしたら、身体強化パワーでカルネさんを担いで東のハチェット小屋まで超ダッシュ。
ここで親分をやれればいいが、難しいだろうな。
小屋に立てこもり、僕一人で親分一人と負傷子分三人が侵入することを阻止しながら何とか耐える。
たぶん、何か投げられる物や武器とかあるかも。
そうこうしているうちに、ちょうど戻ってきたレクスさんと父さんが野盗とご対面。
野盗、ボコボコにされる。
……上手くいけばこんな感じだ。
いけるのか?
物の強化ができる前提だけど、もし効果が無かったとしても守りが弱くなるだけ。
身体強化の強度に賭けるしかない。
まあ、石が当たらなくても木の棒で叩くとか、カルネさんさえ抱えることができれば、野盗が何人いようが強化した速度に追いつけないと思っている。
とにかく、子供が突然攻撃してくる、子供が信じられない速度で大人を抱えて逃走……これが実現できれば、驚いて隙ができると思うので成功と言えるのでは?
最悪のパターンでも、立てこもって防御に徹する俺に対して、殺しに来る野盗四人でのグダグダ持久戦と見ている。
何としてでもカルネさんだけは死守しなきゃな……。
俺はたぶんそこまでダメージを食らうことはないと思っている、身体の強化だし。
父さん、早く来てくれ。
あ! カルネさんが気を失っている? 目が開いていない、意識が途切れたか。
マズイ、早速実行するか!
コントロール様、頼むから一人目だけは当たってくれー!
俺は、念のためにもう一回強化して、こぶし大の強化石を思いっきり投げる!
えーい!!
ゴトッ!
「…………ぐぅぅ」
一発目は、命中だ! もう一丁!
そりゃー!
バコッ!
「……ぁう」
当たったー! ってあれ?
向かってこないぞ……なんか、親分がこっちと子分を交互に見て、口をパクパクさせている。
それに、子分二人は……倒れて泡? 吹いているし、血も出ているようだ。
えっ? うそ、死ん……だ……とか?
と、とりあえず、カルネさんを助けなきゃ……えっと、次は……ええーい、面倒だ。
もう一丁いくぜ、今度の石は少し大きいな、俺は渾身の力を込めて強化石を投げる。
おりゃー!!
ゴッ、バスーン!
しまったー! 外れて木に当たってしま……ええ?
直系三十センチくらいありそうな木の幹に石が埋まったぞ……う、埋まった!?
身体強化ってこんなに強かったっけ?
いや、そういえば実践とかしてないし、思いっきり投げたりとかしてなかった気がする……なんて威力だ。
「ひえぇぇー! 殺さないで下さい、お願いします、お願いします、お願いします……」
残りの子分さんは、横の木の幹に石が埋まったことで戦意喪失した模様。
膝をついて、両腕クロスして自分を抱きしめた感じの祈り土下座状態……あ、ちゃんと肘はついて頭は付けないのね。
確かに、あんなのが当たったらタダじゃ済まない……って他の子分は大丈夫か?
親分さんは……えーっと、あれは………………に、逃げた!
と、とりあえず、カルネさんを……連れて行かなきゃ。
恐る恐る近づくと、一応「失礼します」と心の中で呟く……。
胸の中央に手を当てて……心臓は動いている、鼻先に指をかざして……呼吸もしている。
よかった! なんとかなりそうだ。
意識はないので、呼吸が止まらないように顎を上げて横向きに寝かせて……膝を曲げて、腕曲げて……これでよし。
実践は初めてだけどこんな感じだったと思う……研修を受けててよかった、講師に感謝や。
横に転がっている二人の野盗は、一応確認したが、死んではおらず気絶しているだけっぽい。
ふぅ、こんな世界でも、この若さで殺人はちょっと重かったので良かった。
降参した野盗は、俺がカルネさんを見ている隙に親分を追っかけて逃げた。
気絶した子分を硬そうな草で手足をぐるぐる巻きにして一応、強化っと。
うーん……なんか、海老みたいなのが二体出来上がってしまった。
手頃な蔓と長い棒は……と、あったあった。
棒を二人の脇の下から通してっと、棒にくくりつける……おおー! なんか大きい干物が出来た。
これで、すぐには逃げられないだろう。
計画とは違ったけど、ひとまずカルネさんをハチェット小屋に連れていけそうで安心した。
さて、行くか。
カルネさんをおぶって……むむむ、子供の体では意識の無い大人を簡単に背負えないなぁ、どうしよう。
こりゃ、そもそもの計画が破綻していたよ、危なかった。
…………んん?
なんか中腰の怪しい二人組が来たぞ……って、やんちゃ三人衆の二人やん。
ロペさん、レクスさん、そこで何してる?
なんか、そろりそろりとこっちに近づいて来る。
それにしても、来るのが遅かったな。
なんだ?
レクスさんがこっちを見て、丸印を送ってきた。
よくわからんが、二人で助けに来てくれたってことかなあ。
まあ、終わってしまったけど、来てもらおうと二人に手招きをした。
まだやってるよ……中腰こそこそ移動。
やっとレクスさんが到着。
「イロハ、どうだ調子は?」
「え? ああ、僕はどこも怪我はしていませんが……」
「ん? 怪我? まあいいや。それで、どこなんだ、棒つつき鬼ごっこは?」
「…………は?」
「……は?」
………………。
「いや、何言っているんですか?」
「何って……イロハが教えてくれただろ、四人くらいの女が向こうの川で裸の棒つつき鬼ごっこ……一緒に覗こうって、合図くれたじゃん!」
「そんな合図するわけないでしょう! いい加減に……!」
げ、ロペさんまで参戦してきた。
「おいおい、どこなんだよ……レクスに聞いてわざわざサボってきたんだぞ」
「いや、俺も訳が分かんなくて……イロハ、どうすんだよ! ロペもツンツンツーンを見たいってついてきたんだよ」
ツンツンって……この人達って、いつも何を考えて生きてんだ?
「ちょっと、二人ともっ! いい加減にしてください。見てください、カルネさんは重傷です! 早く開拓団の事務所まで運んであげてください!」
「……!! な、なんだよこれ……カルネさんは大丈夫なのか?」
「ロペさんは、早く団長へ報告してください! 僕たちが野盗に襲われ、カルネさんは重傷ですって伝えてください!」
「レクスさんは、僕と一緒にカルネさんを運びましょうよ」
ロペさんもさすがに顔色を変えてすごい速さで走っていった。
レクスさんは「先に帰るんだ、イロハ。後は大人の仕事だ」って言って急に真面目な顔になっていた。
さっきまで、ツンツン言ってた人とは思えない変わりようである。
そんなやり取りをしていたらハチェットさんがやってきた。
「さっき、すれ違いざまにロペから聞いた。イロハ君は怪我していないのか?」
「はい……大丈夫です」
「そうか、よかった。カルネは俺が運ぶ、レクスはイロハ君について帰ってくれ、残党がいるかも知れん」
「はい!」
そういって、ハチェットさんはカルネさんを軽々と背負ってさっさと行ってしまった。
「あ、あの、レクスさん。野盗の事なんだけど……」
「ん、なんだい? 怖かったのかい?」
「いや、そうじゃなくて、野盗は四人いて二人はまだ現場に……転がっています」
「転がって……どういうこと? カルネさんが追い返したんじゃないの?」
「えーっとですね、親分と子分一人は撤退し、二人は気絶した感じと言いますか……」
「なんだって! じゃ、現場に野盗がまだいるってこと? そりゃマズイな」
「はい、そうなんです」
「わかった、すまんが、この事を団員に伝えてくれないか? ここからの道は誰かしら団員がいると思うから安全なはずだ。俺は現場に向かうよ」
「えっ? 大丈夫ですか?」
「大丈夫ってなんだよ、俺だって開拓団の一員だぞ! その辺の野盗には負けないさ」
「分かりました、僕は今から開拓団の事務所に急いで向かいます。逃げた野盗は短剣とこん棒のようなものを持っていました。気を付けてくださいね、レクスさん」
ここでレクスさんと別れた。
このまま、開拓団に走っていくか……な、なんか体が重いな、疲れたのかな?
帰り道に、団員がいるってレクスさんは言ったのに誰とも会わないや。
それにしても、なんだかんだ言って、危機に直面したらあんな風になるんだな。
ロペさん、レクスさんのあんな表情を初めて見たよ、立派な開拓団の団員だね。
俺のスキルの件、もう少しちゃんと検証しておかないと、誤って人を傷つけたりしてしまいそうで怖い。
思っていた以上に効果が高いのか、不明な点が多すぎる。
考え事をしながら、やっとのことで開拓団事務所についた。
ふぅむ……なんと説明しようかな、困った。
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