二十話 遭遇
五彩樹から訓練場には歩いて向かった。
歩きながら、なんでスキルを知りたいのか? と聞いてみたところ、トリファ、ロディ、ポルタ、俺がみんな王都の学校を目指すってことで、自分もやってみようかな? と思ったらしい。
安易だな……ミルメらしいが。
まもなく訓練場が見えてくる。
開拓団の人がいなかったら戻らなくちゃいけない。
まだ、ハチェットさんがいてくれたらいいんだけど。
もし、誰もいないようなら、たしか伐採部の小屋、通称『ハチェット小屋』が東の方にあったと思うからそこに行ってみるのもいいかもしれん。
「ここがイロハの訓練場?」
「そうだよ、なんもないけどね」
なんか、ミルメは不服そうだな。
別に戦ったりするわけでもないし、広いところが欲しかっただけだし。
「ふーん。ここでいつも一人ぼっち訓練してるのー?」
ぼっちて……。
「まあね。スキルを使うと危ないから、安全のために広いところでやってんのさ」
「ちょっと、開拓団の人探してくるよ。大人が誰もいないところでやったらダメって言われてるから」
「じゃ、あたしも行くー!」
「たぶん、あっちの方にいると思うんだよね。午前中はいたから」
「へー、午前中も来てたんだ。頑張ってるんだねー」
「頑張ると言うより、好奇心からかな? どんなことができるか……みたいな」
「スキルっていろいろできるの? 訓練で上手になった?」
っと、質問多いな。
「まだまだだね。課題も多いし、そもそも分からないことが多すぎるよ」
「そうなんだ。イロハって、なんか急にのめり込むときあるよねー」
午前中に、ハチェットさんと別れた場所を除いてみた。
「そうかなあ? ……あれ? ハチェットさんいないや」
「いないねー。どうするの?」
「うーん……困った。」
このまま、俺たちで訓練していたら……いや、訓練を禁止される可能性があるな。
かといって、このまま帰るのもなぁ。
しかし、大人がいないとという割には結構みんな放置するんだよね、別に見守ってくれる感じでもないし。
なぜ「誰かいないといけないのか?」について一度、父さんに聞いてみたんだけど、この辺りはまだ開拓中だから、凶暴な野生動物や野盗などが入り込んでくるらしい。
開拓団の警戒部の人が頑張ってくれているのか、今の所、そういったことに遭遇したことはない。
野盗という生業があるっていう事は、この世界ではあるんだろうな……原始的な戦いが。
なんとなくだけど、日本より命は軽いんじゃないかな……この村は比較的平和だけど、いつか遭遇した時に選択肢は多い方がいい、やはり訓練は必要だ。
さて、どうするか。
「あ! 誰か来るよー!」
「ん? あれは……ガスさんにえっと、ロペさんか」
「開拓団の人だよね? じゃ、帰らなくていいよねー?」
「ああ、大丈夫だと思う」
わざわざ、こっちに来てくれた。
伐採部の、通称『やんちゃ三人衆』のガスさん、ロペさんだ。
こげ茶色の坊主頭がガスさんで、こげ茶色のスポーツ刈りみたいなのがロペさん……顔が似ているんだよなこの二人。
ちなみに、今はいない三人衆の一人、レクスさんは濃い緑の長髪で、なんか残念なタレ目をしている。
伐採部は、開拓地域の伐採を担当している部署だ。
お調子者のハチェットさんが部長、ロディの父さんでもある真面目なカラックさん、ロディの母さんであるしっかり者のカルネさん、チャラくて軽いガスさん、女好きのロペさんレクスさん……。
特にやんちゃ三人衆は、いっつも余計なことをして怒られているイメージがある。
ここの所、伐採部は冬に向けた薪の確保のため、しばらく薪集めをやっているって言ってたな。
トリファの時も結構使ったようだし、開拓も再開するって話だから仕事は忙しいはずだ。
「やあ、イロハ君! あらら? こんなとこでデートかな?」
「ぶっ! っち、違いますよガスさん。訓練場で練習するところだったんです」
「……」
何言ってくれてるの、ミルメが赤くなって大人しくなったじゃないか……もう、変なスイッチ入れてくれるなよなー。
「冗談。冗談。練習ってなにやるの? スキルかな?」
この人、やっぱチャラい。
ついでに、「先に行っとくぞ!」っと言ってさっさと先に行ったロペさんもけっこうチャラい。
たぶん、以前ロペさんのことを父さんにチクったから、敬遠されているのかな……?
トリファが王都に出発する前の日の夜、俺たち幼なじみ組が五彩樹の所で盛り上がっていた時、ロペさんが酔って乱入してきたことがあった。
なんでも、ロペさんとレクスさんで会場の女性を見て、手あたり次第に声をかけまくって、こっぴどく振られていたらしい……ポルタが見たって言ってた。
その憂さ晴らしなのか、俺たち子ども組の所に来て、人生が何だとか、男とは……みたいなことについてお説教されてムードぶち壊されたんだよね。
結局その後、父さんにチクって怒ってもらったっけ。
ロペさんはたぶん、そんな感じだからあからさまに避けている空気を出してる……と見た。
「はい。スキルの練習ついでに、ミルメにもスキルの事教えてあげようと思って」
「へ~、仲いいね。そんな若い時から女の子相手にしてたら、相当……いや、なんでもない…………そんな目で見るなって」
「…………」
ああ、この人たちは、いつもこんな感じで絡んでくるんだよな~。
いいのかねー、俺にこんなことして。
仕返しは結構しっかりやるタイプなんで、今日の事忘れないよ、ガスさん。
実は、ひと月くらい前に、やんちゃ三人衆のサボり場所を見つけたんだよね。
俺が訓練している時って、だいたいここから見えないところまで奥へ入っていくんだよな。
何やってんだろう? と、コソッとつけてみたら、そこにはいわゆる隠れ家があったとさ。
建物とかはないけど、ちゃんと木々に覆われていて、大きな椰子の葉っぱみたいなのや木の皮っぽい物でしっかり外装を整えて迷彩が効いている。
内装は、部屋割り? のような感じで二部屋あって、床は木の板をベニヤ板みたいに薄く切って敷いてあり、簡易ベッドのような物や飲食物などを置いてあった。
今どきの二十代ってこんなもん? ほんっと、何やってんだか。
悪いとは思いながらも、好奇心に負けて誰もいない時にちょっと内見させていただきました。
この人たちは……本当に仕事をする気があるのだろうか?
以前は経営者をやっていたが、こんな奴らは絶対に雇いたくない。
「ああ、俺らは向こうで薪作ってるから、適当に練習してなよ」
また、サボる気かいっ!
「……はい」
あーもう、変な空気にしやがって。
「イロハく~ん、ミルメちゃ~ん、冗談だって。ゴメン、ゴメン。はー! 俺らも早く薪作らないとハチェットのオヤジに怒られちまう……じゃ! 行ってくるから、二人仲良くなー!」
猫撫で声ってやつか……男がやるとなんかキモい。
ガスさん、言いたいこと言ってさっさと向こうへ行ったけどさ……この空気どうしてくれる。
ミルメも黙ってしまっているし。
今回の責任は、しっかりとってもらおうかな。
この人たちは、何度言っても懲りないから、記憶に刻み付けないといけない……俺にいらん事したら特大ブーメランが返ってくるって。
うー、話しづらいなぁ。
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