十九話 こども会議一〇〇八

「おーい! みんな~」


 ちょっとリアムと遊びすぎて遅くなってしまった。

 ロディ、ミルメ、レジーが五彩樹の木陰に集まっている。


「おお、来たか。イロハ」


 ロディがこっちに気づいて、手招きをする。


「遅くなってごめん、ちょっとリアムと遊んでて出遅れた……」


「いいよ。今は弟がかわいい時だもんな、確か三歳くらいだったよな?」


「うん」


「俺が村を出る前には、ここに呼びたかったけどなぁ」


「まだ小さいからね……」


 ミルメが目を輝かせて、こっちを見ている……嫌な予感が。


「三歳! リアムちゃん三歳になったのー? 今度遊びに行っていい? ね? ね?」


 はー、断りたい。

 全力で断りたい、けどそういうわけにはいかない……よね。


「あ、ああ。食事とお昼寝以外だったら多分大丈夫だと思うけど」


「ヤター! あたし、弟欲しかったんだ~」


 おめーにはやらねーよ!


「僕の弟だからね、リアムは」


「むー。あたしとイロハは兄弟分だもん。だったら、リアムちゃんはあたしの弟でもあるもん」


 んな、無茶苦茶なこと言って……はぁ。


「わかった、わかった。がんばれよ、慕ってもらえるようにな」


「ふんふんふーん」


 ミルメはご機嫌である。

 そして、木に登る……なんとかと煙は……。


「だめー、ミルメはレジーの姉ちゃんなの。だめなの」


 レジーはご機嫌斜めである。

 そして、なんで俺に言うのか、と。


「あー、レジー。リアムは僕の弟だからさ、もう少し大きくなったら仲間に入れてあげてね」


「仲間? イロハの弟は来ないの?」


「うん、まだ小さいから外には一人で出られないんだ。ミルメとも一緒に遊びにおいで。仲良くしてあげてね」


「うん、わかった。かわいがってあげるの」


 かわいがってあげるって……まあいいや。 

 ん? そういやポルタが来ていないな。


「ロディ、今日の集まりは何だったんだ? それに、ポルタが来ていないようだけど?」


「ああ、今日集まったのは、トリファが王都に行ってから一度も集まっていない事と、俺が残りの半年くらいは試験に集中したいと言うことを伝えに来た」


 ロディはいつになく真剣なまなざしで皆に向かって向き直した。

 でもな、ポルタはなんでいないのか? も聞いているんだけど。


「そうか、ロディは今年が試験だもんな。やっぱりロイヤードを受けるの? あと、ポルタはどこいった?」


「もちろん、ロイヤード一本だ。そのために剣術も訓練しているんだが、全然足りていない気がして……焦っているんだ」


 おいおい……ポルタは?


「ああ、そういうことか。僕やミルメ、レジー、それにポルタも、ロディほど剣術をやっていないからね。そうそう、ポルタはまだ来ていない?」


「開拓団の人に、少し相手になってもらってはいるけど、ロイヤードの実技のレベルは高いって言ってたから……」


 そうか、マリッジブルーみたいなもんかな?

 いくら自信を付けようと、その日が近づくにつれて不安が募る……ってやつね。

 

 うーむ……あ! ロイヤードと言えば、アレス様が確かロイヤードだったような気がする。


「ロディ、ちょっと確実じゃないけどさ、現役のロイヤードの先輩を知っているかもしれん、うまくいけば紹介できるかも……」

 

「ええー!! ほんとか! 誰なんだ? イロハって王都に知り合いとかいたっけ?」


 急激に目が輝きだしている、でも……名前聞いたらどうするんだろう。


「ああ、たまたま領都で知り合いになってさ、多分力になってくれると思うよ。えっと、ポルタも面識あるし」


「だから、誰なんだよ?」


「うーん………………アレス様」


「は? どこのアレス様だよ」


「えー、ネイブ領主の嫡男、アレス・ネイブ様なんだけど……どう?」


 あ、ずーん……という顔してるよ。

 これを、ぬか喜び顔という。


「い……いや、さすがに……領主の息子……かよ」


 まあ、そうなるよね。

 でも、たぶんアレス様なら何とかしてくれると思う。


「ロディ。君のロイヤードへの思いは、騎士への思いは、その程度だったのか? たかが領主の息子に教えを乞うのは恐れ多くて諦める……そんなもんか?」

 

「いや……その、ありがたい。けど、なにか問題でもあったら騎士どころか……」


「おいおい、ロディ。あんまり腑抜けたこと言うなよ。騎士になりたいって言うんだったら、どんなことをしてもやり通す覚悟を見せる時じゃないか? ミルメもレジーも、俺も……ポルタも、ロディという俺たちのリーダーを見てるぞ?」


 ちょっと熱く焚き付けたら乗ってくるはず……まったく、権力に弱すぎるだろう、ロディよ。


「…………」


 ミルメはニコニコしてロディを見ている。

 レジーは不安そうに、ロディのシャツの腰のところを握っている。

 ポルタは、いない。

 

 ロディは、しばらく考える素振りを見せて、口を真一文字に結び、レジーの頭をなでて、目をそらさずにちゃんとこっちへ向き直した。

 

「すまない、みんな。俺が腑抜けてたよ……イロハの言うとおりだな。改めて頼む、アレス様にお願いしてくれ。俺は、どうしてもロイヤードへ入って王国騎士になりたい」


「ロディ。そんな時はさ、ありがとうでいいんだよ。騎士がそんな謝罪を安売りするなよな」


「そうだな、イロハよろしく頼むよ。ありがとうは合格してからだ!」


 やっぱり熱い男よ。

 いや〜、青春だな! こういうのって。


 ロディは、まっすぐな奴だが、権力に弱い……心配や。


「じゃあ、王都に手紙出しとくから、連絡がついたらロディに知らせるよ」


「わかった。言葉遣いとか練習しておくよ」


「たぶん、その必要はないとは思うけど、まあ頑張ってね」


「レジーも応援するの!」


「あ、あたしも、ロディだったら合格すると思う!」


 みんな、仲間意識が強くて……絆って言うの? ええなぁ。

 俺の子供の頃は、転校が多くてこんな思い出できなかったもんなー。

 ポルタはいないけど。


「みんな、ありがとう。俺、絶対合格するからっ!」


 あらら、これはいけない。

 絶対生きて帰ってくるから……のやつやん。


 まあ、冗談はさておき、涙目のロディ君はこんなところで油売っていていいんだろうか?


「ロディ、時間は大丈夫なのか? 結局、ポルタは来ないようだし……」


「ああ、一年前にトリファと受けた勉強会でかなりレベルの差を感じて落ち込んでたからな……あっ! そろそろ戻らなくては。俺も勉強しなきゃならねえ」


 結局、ポルタに触れるんかいっ!

 今までのスルーはなんだったんだよ……喧嘩でもしたんかと心配したじゃないか。


「騎士を目指すのも大変だと思うけど、頑張ってな! 応援するよ」


「おう! ありがとうな、イロハ」

 

 ロディが思い出したように帰り支度をし始めた。


 それで、ポルタが欠席してんのは、勉強のせいなの? それとも、トリファがいないから?


 ……どっちなん、だいっ!


「えー! もう帰っちゃうの、まだ来たばっかりなのにつまんなーい!」


 ミルメは不満そうだな……応援すると言ったばっかりなのに。


「ミルメ、応援するんだろ? 快く送ってやりなよ」


「応援するって言ってないもん! 合格するって言ったんだもん!」


 く……コイツ、屁理屈並べ立ててからに。


「あー、じゃあ今日ミルメが無茶いったおかげでロディが落ちたらどうすんのさ?」


「そんな……あたし知らない。イロハのせいだもん」


 知らんがな、子供ってこんなに理不尽なのか……。

 

 ん? ロディがパーンと手を叩いて注目させる。


「ちょっと待った! お前らなあ、落ちるとか、つまんないとか……よく言えたもんだな。相変わらず騒がしい奴らだよ、まったく」


「ハハハ」


 自然とみんなで笑いが吹き出した。


「じゃ、俺は戻るよ。もしポルタが来たらよろしく伝えといてくれ」


 ロディはそう言って、スタスタと帰っていった。

 一応、ポルタのことは気にしていたんだ。


「あーあ、帰っちゃったねロディ」


「そりゃ帰るだろう。大事な試験が控えてんだし」


「レジーも帰るの。眠くなったの」


 レジーは、欠伸をしながら、目をこすっている……自由だなあ。

 手を振りながら、テクテク歩いて帰っていく。


「どうする? 解散かな?」


「イロハ、あたしさ、コアプレートは作っていないんだけど、教育は終わってるんだ。スキルがどんな感じか知りたい」


 なんか、急にしおらしく、上目遣いで頼んでくるとか……らしくなさすぎる。


「ほほう、ミルメはスキルに興味がないと思ってたよ。いいよ、僕でよければ」


「ヤッター! さすがイロハ、話が分かるじゃん」


「じゃあさ、まだ時間もあることだし、僕の秘密の訓練場に行かない?」


「え? 秘密の訓練場ってなあに……あたしも行っていいの?」


「もちろん! あそこに誰か連れて行くのはミルメが初めてだよ」


 ん? なんか、余計なこと言ってしまったか……ちょっとミルメの顔が赤いぞ、まいったなあ。


「あ、あたし……イロハの訓練場にお邪魔しま……す」


「ちょ、そんなかしこまった事じゃなくて、いつも一人で練習してたんだよ。だから、誰かを誘ったのは初めてってことさ」


 なんだろう、こちらの世界ってオマセさんが多いのか?


「な、なーんだ。独りぼっちで寂しかったんだーイロハは」


 なぜに……棒読み。


「ま、まあね。一人で黙々とやるのが肌に合っているというか……あ、別に二人でもいいけど」


「そうね。じゃ、その訓練場にいこー!」


 


 二人で、俺が午前中に行った訓練場へ向かった。

 でも、スキルを持ってないなら、何をしようかな? 俺のスキルを明かして協力してもらうか? うーん、迷う。

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